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70:今、どういう状態……?

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短剣(スティレット)が振り下ろされた瞬間、閃光が走った。
そして腕に衝撃を感じる。
まるで鋼鉄の塊に、短剣が突き刺さったかのようだ。

突き刺さり、何かを砕いた。
恐らく、魔力の核を破壊したのだろう。
同時に短剣は消え、全身から力が抜け……。

意識が遠のきかけながら、自分の体がアルベルトの方へ、倒れこんでいくのが分かった。



柔らかく降り注ぐ日差しを感じ、目が覚めた。
目が覚めた瞬間。
自分の体が、背後から誰かに抱きしめられていると、気づいた。

な、どうして!?
体を大きく動かしそうになり、それをグッと堪える。
状況が、分からない。
ここで迂闊に動いていいかも、分からない。
というか、今、どういう状態……?
胸の前でクロスされている白い寝間着の腕を眺めながら、昨晩のことを思い出す。

廃太子計画。
その遂行のためにミゲルとマルクスを眠らせ、無事寝室に忍び込んだ。

すべて手順通りで行動し、短剣を鞘から抜いた。
そして両手で柄を握りしめ、振り下ろそうとして――。
そうだ。
アルベルトは、なぜか目を開けたのだ。
即効性のある、眠りの香の欠片が入ったお守りを、かがせていたのに。

あの時。
どうするか迷った。
でも元々私が躊躇った時に備え、短剣には、アルベルトの心臓を穿つという魔法が、発動するようになっていた。だからそのまま短剣は、アルベルトの心臓に突き立てられたはずだ。

いや、心臓を穿った。
実際に、心臓を穿ったわけではない。
でも何かを砕いた感覚が、手に残っている。
アルベルトの魔力の核を、砕いたのだ……。
その後は――そう、全身から力が抜け、倒れこんだ。

うん!?
シーツに広がる自分の髪を見て、息を飲む。
波打つようなこのブロンドは、パトリシアのものだ。
もしかして……変身が解けている……?
背中に汗が伝う。

もし、もしも、だ。
今、私を後ろから抱きしめているのが、アルベルトなら。
目覚めて私が誰であるか気付いたら……。
修道院へ戻されるなどでは、すまないだろう。
牢へつながれ、断頭台に立つことになるのでは……。
婚約者のいる王太子に夜這いをかけるなんて、前代未聞。
ありえないことだ。
この場で斬首されても、文句は言えない。

でも待って。

どうしてこの状態なのか。
私は力が抜けて倒れた。
この理由は……なんとなく想像はつく。
体内の残存魔力全てが短剣へ向かったのだ。
一気に体内から魔力が失われ、その反動で気を失った。

そんな予想ができる。

では変身の魔法が解けたのは?
ものすごい閃光と衝撃があった。
魔力の核が破壊された影響で、魔法が解けてしまったのだろうか……?

そして多分アルベルトは……。
……普通に、すごい衝撃を受けた。それで気を失った?
恐らく、そうだろう。
あの閃光、そして魔力の核が破壊された衝撃。
意識を失って当然だ。

そうであるならば、この姿は見られていないはず。
こっそり、この部屋から抜け出そう。
そしてなんとかして、この城から抜け出そう。
ゆっくり体を動かそうとしたその時、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
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