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30:顔を上げて。口を開いて
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「意外、という顔だな」
「失礼しました。……アズレークさまが使う魔法の呪文がとてもシンプルなので」
「そうだな……。でも私だって美しい女性を前に、寛いだ気持ちで使う魔法では、普段とは違う呪文を使う」
そう言ったアズレークは、黒い瞳を輝かせて私を見ると……。
「美しいあなたの髪を 飾る花になりたい あなたのそばで 静かに咲き続けたい 例えあなたに 気づかれなくても」
不意に花の香りを感じ、髪に手をやると……。
髪に花が飾られている……?
本棚の横には、姿見がある。
そこに映る私の髪には……。
正面からでは分かりにくい。
でも体を斜めにして後頭部を見ると……。
可憐なピンク色の、ビオラの花が、美しく飾られている。
「では、まず魔力を送ろう」
「は、はいっ。その、お花、ありがとうございます」
その時に浮かべたアズレークの微笑が、あまりにも綺麗で……。
心臓が止まるかと思った。
だがその次の言動にも、心臓が驚きで飛び跳ねる。
腰を左腕で抱き寄せると、右手で本棚を掴んだアズレークは。
「顔を上げて。口を開いて」
「……!」
これまで顎を持ち上げられ、自然と口が開き、そこに魔力を送りこまれていた。
自分から顔をあげ、口を開けるなんて。
しかも、こんな書斎の本棚で、腰を抱き寄せられて……。
まるで逢引きをして、こっそりキスを交わす恋人同士のように思えてくる。
「オリビア」
いや、キスなんかではない。
魔力を送りこまれるだけだから。
目をきゅっと閉じ、顔を上に向ける。
両手を胸の前で握りしめた。
おずおずという感じで口を開くと。
ふわっと風の動きを感じ、すぐに魔力が口の中へと流れ込んでくるのを感じる。
喉を伝い、全身に熱が広がっていく。
今、自分がどんな状況なのか想像しただけで、さらに全身が熱くなる。
心臓のドクドクという音。
書斎に置かれた置時計の時を刻む音。
二つの音だけが聞こえてくる。
慣れてきたからだろうか。
結構な量の魔力を送られているが、全身から力が抜けることはない。
「今日はここまでだ……。力は抜けていないようだな」
アズレークの言葉に目を開けると、優しい眼差しと目が合う。
どうしたってこの瞳には、魅了されてしまう。
「……はい。慣れてきたのでしょうか」
「そうだろう。何より、私の魔力との相性がよっぽどいいのだろう」
微笑んだアズレークは、いつも通り、両手で頬を包み込む。
火照った頬に、心地よいヒンヤリとした手。
全身から力が抜けることもなく、頬の熱さも、これまでよりはぐんと収まっている。
だから本当は……。
こうやって冷ましてもらわなくても大丈夫だった。
でも、こうやって頬を包まれる時間を尊く感じてしまい……。
何も言わず、私は目を閉じた。
「失礼しました。……アズレークさまが使う魔法の呪文がとてもシンプルなので」
「そうだな……。でも私だって美しい女性を前に、寛いだ気持ちで使う魔法では、普段とは違う呪文を使う」
そう言ったアズレークは、黒い瞳を輝かせて私を見ると……。
「美しいあなたの髪を 飾る花になりたい あなたのそばで 静かに咲き続けたい 例えあなたに 気づかれなくても」
不意に花の香りを感じ、髪に手をやると……。
髪に花が飾られている……?
本棚の横には、姿見がある。
そこに映る私の髪には……。
正面からでは分かりにくい。
でも体を斜めにして後頭部を見ると……。
可憐なピンク色の、ビオラの花が、美しく飾られている。
「では、まず魔力を送ろう」
「は、はいっ。その、お花、ありがとうございます」
その時に浮かべたアズレークの微笑が、あまりにも綺麗で……。
心臓が止まるかと思った。
だがその次の言動にも、心臓が驚きで飛び跳ねる。
腰を左腕で抱き寄せると、右手で本棚を掴んだアズレークは。
「顔を上げて。口を開いて」
「……!」
これまで顎を持ち上げられ、自然と口が開き、そこに魔力を送りこまれていた。
自分から顔をあげ、口を開けるなんて。
しかも、こんな書斎の本棚で、腰を抱き寄せられて……。
まるで逢引きをして、こっそりキスを交わす恋人同士のように思えてくる。
「オリビア」
いや、キスなんかではない。
魔力を送りこまれるだけだから。
目をきゅっと閉じ、顔を上に向ける。
両手を胸の前で握りしめた。
おずおずという感じで口を開くと。
ふわっと風の動きを感じ、すぐに魔力が口の中へと流れ込んでくるのを感じる。
喉を伝い、全身に熱が広がっていく。
今、自分がどんな状況なのか想像しただけで、さらに全身が熱くなる。
心臓のドクドクという音。
書斎に置かれた置時計の時を刻む音。
二つの音だけが聞こえてくる。
慣れてきたからだろうか。
結構な量の魔力を送られているが、全身から力が抜けることはない。
「今日はここまでだ……。力は抜けていないようだな」
アズレークの言葉に目を開けると、優しい眼差しと目が合う。
どうしたってこの瞳には、魅了されてしまう。
「……はい。慣れてきたのでしょうか」
「そうだろう。何より、私の魔力との相性がよっぽどいいのだろう」
微笑んだアズレークは、いつも通り、両手で頬を包み込む。
火照った頬に、心地よいヒンヤリとした手。
全身から力が抜けることもなく、頬の熱さも、これまでよりはぐんと収まっている。
だから本当は……。
こうやって冷ましてもらわなくても大丈夫だった。
でも、こうやって頬を包まれる時間を尊く感じてしまい……。
何も言わず、私は目を閉じた。
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