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夏休み

新調

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 ノルトルンの手紙に返事をしてから七日が経過した朝がやってきた。
 手紙の話の通りであれば今日迎えがやって来るらしいが・・・。
 だがその前にいつもの修行を軽くこなしていく。
 そしてその中である提案をする。


 「ちょっと別の武器も使ってみないか?」

 「「え?」」


 全員が一斉に固まる。
 みんなが「本当に?」と言うような顔をしている。


 「別の武器って・・・何をですか?」

 「そうだな・・・まずメアには刀の使い方を覚えてもらう」

 「え、でも刀って・・・」

 「多分俺もメアと同じ懸念はあるけれど、何事も使い方と慣れだ。・・・もしかしたら使い方を覚えればも何とかなるかもしれないしな」

 「あー・・・まぁそう、だな?」


 気不味そうに頬を掻くメア。
 アレとは勿論魔人化の事だ。
 アレは意識はあっても体が勝手に動いてしまうという、一種の殺人衝動に似たものだと俺は考えている。
 もしソレを抑える事ができれば・・・もしくは制御できれば「力」としてメア自身の役に立てる筈だ。


 「レナは最初言った通り何か近接武器を使おうか」

 「えっ?あ・・・はい・・・」


 レナは何故か諦めた様子で頷いていた。
 多分全員知っているだろう、俺に何を言っても何かしら言いくるめられると。


 「剣・・・は少し荷が重いだろうからミーナやラピィと同じナイフやダガーにするか・・・いや、だけどもしかしたらあっちの方が・・・」

 「あの、し、師匠・・・?」


 レナに言った手前何を装備させようか迷っていると、心配されたのか顔を覗かれる。


 「ああ、悪い、考え込んでた。・・・レナ、弓を新調する気はあるか?」

 「え?弓を・・・ですか?」

 「ああ。ソレが形見だとか思い出の品とかでなければ俺が別の弓矢を用意しようと思うんだけど・・・」

 「えぇ!?そ、そんな・・・悪いです・・・!」

 「悪いも何もねえさ。できるからするだけだ。・・・で、どうだ?」

 「えっと・・・この弓は、武器屋で安く買っただけ、なので、特に変えても心残りとかは、ありませんけど・・・」

 「ん、じゃこれ使え」


 収納庫の中から黒い弓を取り出して渡す。
 ソレはレナの身の丈と同じくらいの大きさだったが、レナは軽々と持ち上げて見せた。


 「軽い・・・あの、コレってーー」


 レナが何か言おうとしたのを遮るように弓の一部が形状変化して両腕に巻き付いていた。


 「あ、やっ、な、何!?」

 「落ち着け、ソレに害はない」

 「で、でも・・・!」


 言い表せない恐怖がレナを襲っていたが、しばらくするとシュルシュルと音を立てて肘の辺りまで伸びた手袋、礼装用のドレスグローブのような形となる。
 レナはドレスグローブに包まれた自分の腕を空へ当てて見つめる。


 「コレって一体・・・?」

 「俺が作った大弓だ。通常の大弓より軽いのは素材が特別だろうからだろうな。あとその手袋はだな」

 「弓に認め・・・?あの、素材って・・・?」

 「あー・・・聞きたいか?」


 正直コレを聞いて驚かない奴はいないだろうし、最悪気味悪がって使わなくなるかもしれない。
 そういう意味も含めて聞いてみたのだが、レナはちょっと不安そうにしながら頷いた。


 「・・・ヘレナの・・・鱗」

 「・・・はい?」


 レナの聞き返しに思わず顔を横に逸らしてしまった。


 「ヘレナの・・・竜形態の時の鱗だ・・・」


 俺の言葉を聞いたレナは引きつった笑いをしていた。


 「魔物の素材を武器や防具にするってよくある話だから、前にヘレナが寄越した尻尾から剥ぎ取って使ってみた。苦労したんだぞ?作る時鱗とかが急にうにょうにょと動くからめっちゃ叩きまくったし・・・」

 「それって、大丈夫、なんですか?」

 「多分・・・ヘレナに聞いても所有者が認められていれば問題ないって言ってたからな」

 「もし認められてなかったらどうなるんですか?」


 カイトの疑問に「さぁ?」と答える。


 「腕が食われたり飛び散ったりするんじゃないか?」

 「怖っ!?」


 「知らんけど」と付け加えたが、既にレナがガタガタと怯えていた。

 俺が言ったのは冗談だし、レナなら大丈夫だとヘレナのお墨付きを貰ってたから問題ないんだが・・・。
 まぁ、少しでも胆力を付けさせるためにレナはこのままにしておこうか。


 「そんでフィーナは・・・杖は要らんよな?」

 「そうね、あたしは魔術師って言っても杖の補助がなければ魔術が発動できない程未熟じゃないし。まぁ、魔術回路の増強みたいなものだったら欲しくなくもないけど・・・」

 「んじゃコレな」


 フィーナには手にフィットする黒い手袋を渡す。


 「・・・手袋?あたし別に冷え性じゃないわよ?」

 「いや、暖房効果のための手袋じゃねえよ・・・。試しに魔法か魔術を適当に撃ってみ?」


 フィーナは首を傾げながらも俺の言う通り魔術を発動した。
 空中に鋭い氷の巨塊を待機させ、木に向かって放った。
 氷は高速回転して木に見事な風穴を開けて次の木にも同じ風穴を開ける。
 次々と木を薙ぎ倒し十本程貫通したところで氷は霧になって消えた。
 ソレを見て俺が「おぉー」と声を漏らしていると、横でフィーナが肩を震わせていた。


 「何よ今の!?」

 「何って・・・お前の魔術だろうに」

 「そうっ、じゃなくて!威力よ威力!威力が格段に上がってるのよ!普通今の魔術で倒せる木なんて二、三本なのよ!?なんで手袋着けただけでこんな威力上がってんのよ!」

 「さっきお前が言ってた魔術回路をその手袋に仕込んだだけだ。それとその手袋自体一つ一つ特殊な素材を溶かして丁寧細かに編んで丈夫にして・・・大変だったんだぜ?」

 「その特殊な素材って?」

 「ヘレナの鱗と骨」

 「またかっ!!」


 憤慨したフィーナは手袋を地面に叩き付けた。

 せっかく作ったのに・・・(´・ω・`)


 「だって竜から取れる素材ってオリハルコンより丈夫だって書いてあったからさぁ・・・だから文句言わず受け取ってくれよ?」

 「分かってるわよ!!・・・ありがと・・・」

 「おう、分かってくれたならいいーーあれ?今お礼って言った?ありがとうって?フィーナが?」


 ぼそりと危うく聞き逃しそうになったフィーナの言葉を聞き返すと、フィーナは顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。
 そのままもう言わないと言わんばかりに呼び掛けても反応しなくなっていた。
 流石ツンデレ。中々デレてくれないが、その分デレた瞬間が面白い。
 恥ずかしがってるフィーナの頭をポンポンと軽く叩きつつ、次はミーナに武器を渡す。


 「ミーナはコレ」

 「ん・・・ん?」


 渡された物を見てミーナは首を傾げる。
 リストバンドのような腕輪だ。


 「・・・コレもヘレナで作った?」

 「一部はな。・・・あと、な」

 「違いある?」

 「ニュアンスの問題だ。それだとヘレナを生贄に丸々使ったようにしか聞こえねえ」

 「むぅ・・・アヤト細かい」


 細かいけど細かくねえ!

 ミーナは頬を膨らませながら腕輪を着ける。


 「・・・コレで?」

 「ちょっと魔力流し込んでみ?あ、怪我したくなきゃ覗き込まないようにな」

 「ん・・・」


 言われた通り腕を伸ばし魔力を通すと腕輪から刃が出てくる。


 「・・・ッ!?ビックリ・・・」

 「まぁ、仕込み武器ってやつだな。双剣が取り上げられてもソレが代わりの武器になる」

 「なるほど。便利」


 ミーナはもう一度魔力を通して刃を戻す。と思ったらまた刃を出す。
 嬉しそうに出し入れを繰り返して遊んでいた。
 気に入ったようで何よりだ。


 「あとコレもプレゼントしておこう」

 「に?」


 ミーナに白い布を渡す。
 広げるとミーナの体全体を覆うフード付きのローブになる。


 「コレは?」

 「向こうの(ゲームの中にいる)アサシンが着ていた服だ。認識妨害付きでハーミットローブと似たようなものだと考えてもらっていい。ただそれは素性を隠すというより姿を眩ますのが目的だ。ソレを着たまま誰かに話し掛ける時はフードを脱いだ方がいい。ちなみにヘレナの素材程じゃねえが丈夫になってる」

 「了解。ありがと」


 お礼を言うとさっそくローブを着るミーナ。
 フードまでスッポリ被るとその中からミーナの目が妖しく光り、様になっていた。


 「ソレにコレを付けて出来上がりだ」


 黒いマスクを渡し、付けてもらう。


 「何が出来た?」

 「暗殺者アサシン風戦士」


 というかアサシンク◯ード。
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