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夏休み
もしもの話
しおりを挟む「とりあえず、この話はここまでにしよう」
メアたちに散々からかわれた後、ルークさんがそう切り出した。
話を終わらせようとするルークさんにアレ?と思った事を聞いてみる。
「いいのか?」
「何がじゃ?」
「メアと俺がそういう関係になる事だ。普通何か問題が出てくるだろ」
「確かに問題はある。しかしそれは自分の保身しか考えておらんバカ共の問題じゃ。メアの相手をそんなくだらん問題で決めるわけにはいかんじゃろう・・・」
「くだらんと言えばくだらんのだろうけど・・・王様のあんたがそれを言っちゃうのか」
「王の儂よりジジイの儂を優先させるよ」
「そりゃまた孫想いな事で・・・」
「まあのう。だから、先の王の問題もまとめて儂に任せておくれ」
「それは今後の話の進み方次第だな」
俺の言葉を聞いたルークさんは大きく溜息を吐く。
「気持ちは嬉しいが、メアの想い人を巻き込むわけにはいかんのじゃよ」
「それはこっちの台詞だよ。そもそも喧嘩売ったのは俺だし、メアの唯一血の繋がった家族を見殺しにするわけにはいかないだろ」
「敗北を前提にするか・・・」
「じゃあ聞くが、この城の全勢力は?相手が本当に攻めて来た時の策は?更に同盟国が相手に加わった時は?問題を上げようとすればいくらでも出てくる」
「・・・そうじゃな、正直勝ち目はない。だからこそーー」
「ーーだからこそ、俺たちの出番だよ」
ルークさんの言葉を遮ってそう言うと、目を見開いて驚いていた。
「・・・何か策があると?」
「まぁ、策と言える程のもんでもないけど、一応ある」
「聞かせてもらってもよいか?」
「いや、今はやめておこう。アイツが本当に攻めて来ると分かった時にでも話そう。今は平和な時間なんだ、この貴重な時間を堪能させてくれ」
少し冷めたお茶を口に流し込む。
ルークさんも分かってくれたらしく、緊張の解けた様子でお茶をすすった。
「そうじゃな、まだ争うと決まったわけではない」
「そう、「まだ」な」
ただの気休めしか言わない。
アイツの言葉には狂気が混じった本気を感じた。もしメアに殴られたあの頭で覚えていたのなら、必ずと言っていい確率で攻めて来るだろう。
そして本当に攻めて来た日には・・・まぁ、身の程を知ってもらうとしよう。
するとメアが肩をちょんちょんと突っついて来る。
見ると何故かニヤニヤ顔をしていた。
「・・・なんだ?」
「アヤトの顔、また凄い事になってっぞ♪」
「また・・・悪い事考えてる?」
そう言って今度は頬を突っつかれる。
ルークさんとフウは苦笑いし、ミーナもメア程じゃないが口角を上げて背中を預けて来た。
そんな酷い顔してた?
「んじゃ、今度こそ話はここまでだ。これ以上この話をすると禿げ上がりそうだ」
「儂はもうハゲる程の頭はしとらんがな♪」
ハハハと笑いながら毛の無い自らの頭をペチペチと叩くルークさん。
その自虐ネタは返答し難いから敢えて無視だ。
「そういえばお主らは昼食はまだじゃろう?ここで食べて行きなさい」
「ああ、そうさせてもらうよ」
それから部屋を移動して華やかな料理が運ばれ、ルークさんと護衛していた時のメアの細かな様子などを話し合った。
たまに「言い過ぎだ!」とメアに怒られたりもしたが、それも含めて本当の家族と過ごす時ような和やかな時間を過ごせた気がした。
「ところで式はいつにしようかの?」
「ブフッ!?」
丁度お茶を口にしていたメアが俺の方へ向けて吹いた。
解せぬ。
するとフウがどこからか取り出したタオルを渡された。
この人有能だわ・・・。
「いくらなんでも気が早えよ・・・」
「いやいや、学生のうちに済ませるのはよくあることじゃよ?」
「そうなのか?いや、そうだったとしても・・・」
「何が不満じゃ?」
「もう少し恋人らしい事させろって事だ!」
ゴホゴホむせてたメアが息を整えて怒鳴った。
言いたい事は違うが、別に間違ってもないのでツッコまずに「そうだな」と頷いておく。
「メアがそれで良いなら良いのだが・・・籍だけでも入れた方がいいのではないか?」
「ルークさん、あんたソレを口実に無理矢理貴族共を黙らせようとしてるな?」
「一度婚約の儀を交わしてしまえば貴族とて口を出せないだろう。平民同士ならまだしも、王公認であれば尚更じゃ♪」
悪戯を考える子供のように笑うルークさん。
楽しそうで何よりだ。
すると横で何やらメアがそわそわしていた。
「どうしたメア?」
「籍を入れるって事はどっちかの名前が変わるんだよな?その場合どうなるんだろうって・・・」
「そうじゃな。平民同士なら名が変わる事はないが、貴族や儂らには家名があるからのう」
「あー・・・そうなるか。メアが嫁ぐなら小鳥遊 メア・・・当て字にして芽亜か。逆に俺が行くのならアヤト・ルーク・ワンド・・・なんか変な感じだな」
「だよな?そう思うのは俺だけじゃないよな!?」
嬉し恥ずかしそうに同意を求めるメア。
そんな感じで普通に会話をしてるが、意識するとなんだかむず痒くなってくる内容だ。
「では式の方はともかく、籍の話だけでも進めておくとしよう」
ルークさんが頷くと横にいるフウも微笑ましそうに笑う。
「ではこちら側の貴族の方々にも話をしておきましょう」
「・・・「こちら側」?何の話だ?」
「ルーク様が仰っていた保身派とは対照的にメア様を娘のように想う方々はちゃんといます。その方たちを味方に付けておけば王族と平民の婚姻という異例も通りやすくなると思いますし。間者として保身派の者たちに接触させ、少しでもおかしな動向があれば報告させる事もできます」
「ああ、なるほど」
「ちなみにメア様」
フウに呼ばれたメアは「ん?」とそっちへ振り向く。
「式に着る服はどんなものが良いでしょう?」
「・・・へ?」
「ドレスには純白の物以外もあるようですので。昔とある人物が複数の色を使った「着物」という物もあるらしいのでそちらもオススメですが・・・」
「ちょっと待て!結婚はまだだって・・・」
「とはいえ流石に五年十年先延ばしにはならないと思うので、服だけでも先に用意させていただければと。それにせっかくのメア様の晴れ舞台なのですよ?気合いを入れるためにも既製品ではなくオーダーメイドで仕立てさせますので!」
「お、おう・・・」
フウはこの中で一番テンションが高く、考え方がまるで母親のようだった。
メアはそのテンションに付いて行けずに若干引いていた。
しかしその後もフウは興奮したまま話を続け、何故かメアのドレスだけではなく俺の服装や場所、装飾の内容まで決めてしまっていた。
ある程度話が進んでしまったところでルークさんがフウにストップを掛けると一旦落ち着き、今度は顔を赤くして俯いてしまった。
ルークさんもフウのそんな一面を見たのは初めてらしく、苦笑いしていた。
「だがドレスだけでも先に用意するというのは良い考えだと儂も思うぞ」
ルークさんの冷静な同意に俺も「それもそっか」と納得して頷く。
作った後の保存方法も俺の空間収納庫に入れておけばタンスにゴン◯ンやム◯ューダ入れたりするより遥かに効果的だし。
結果ルークさんの要望で純白に、メアの要望でピンクのフリルを少し入れ、フウの要望でドレス刺繍は多少凝ったものをオーダーメイドする事となった。
そんな和気藹々としているメアたちを俺とミーナは静かにお茶をすすって眺めた。
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