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夏休み
書庫
しおりを挟む空間に小さな亀裂を作り、そこから辺りに人がいない事を確認すると亀裂を広げて人一人が出られる程度の細い横道に出る。
そこからは俺、メア、ミーナの三人のみを通して閉じる。
遠くからはちょっとした喧騒が聞こえる。
「十日と少しくらいか?ここを離れたの。それでも久しぶりに感じるな」
その狭い道から大通りに出ると、ミランダと決闘時程ではなくともそれなりの活気が満ちた商店が並んでいる。
それだけに子供が足にぶつかって来たりもしたが、それもご愛嬌というやつだろう。
後ろからメアとミーナが続いて来る。
「俺からしたら帰って来ちまったなーって感じだけどな」
「アヤト、また武具見てみたい」
「・・・もしかしなくてもそれが目的で付いて来たな?」
ミーナはフフフとわざとらしい笑いをして肯定していた。
その図々しさに呆れながらも「後でな」と返す。
そういえばミランダの時や前回も慌ただしかったからあまり見れなかったが、やる事をやった後に観光するのもいいな・・・。
思い返せば、いつも必要な時に必要な店には行くだけで、他を見て回るなどをしていなかった。
「・・・そうだな、もし時間が空いたら三人でデートでもするか?」
「「え?」」
突然の提案に素っ頓狂な声を出した二人。
俺自身凄い事を言っている気がするが、言い換えれば俺の興味本位の観光に二人を付き合わせるという事だ。
二人は顔を付き合わせるとニッと笑い、「勿論!」と答えてくれた。
「それじゃあ飯はうちじゃなくて外食だな♪」
「前に気になる店があった。そこに行ってみたい」
花より団子とはよく言ったものだ。女らしくアクセサリーや、ミーナなら真っ先に武具店に行きたいと言うと思ったのだが、二人とも飯の事しか考えていないようだった。
「食い気もいいが、まずは目先の事を終わらせてからな」
と言いつつも、城に向かう途中も観光気分で露店に顔を出したりしてゆっくりと向かって行った。
城に到達する時間にして十五分で着くところを三十分掛けてようやく巨大な門の前までやって来た俺たち。
「さて、ここの見張りはどこにいるのやら」
そんな事を言いながら小走りでやって来る守衛の男を見つめる。
相手は俺、というよりメアを見て少し焦った様子で近付き、息を切らしながら敬礼する。
「め、メア様ッ!お、おかえり、なさいませ!!この度はッ、どのようなご用件で・・・」
「いや、落ち着け。俺が我が家に帰るのに用件もクソもないだろうが。・・・いや、あるっちゃあるけども」
「とりあえず深呼吸な?ヒッヒッフーで」
「ヒッヒッフー・・・」
「コイツに何を産ませる気だ?」
メアのツッコミを流し、ルークさんに会えないかと聞いてみる。
「通常の謁見であれば立て込んでいますので不可能と突き返すところですが、メア様はご息女。ただ家に帰って来ただけに過ぎませんので何の問題もありませんよ」
「まぁ、そりゃあそうだろうな。・・・立て込んでるって事はすぐに会う事は無理って感じか?」
「えぇ、そうですね・・・少なくとも二時間は掛かると思われますので、それまでお待ちいただけると・・・」
「ああ、分かった。ミラ姐はいるのか?」
「はい、ただ今王の警護に当たっています」
「あーそっか。じゃあ暇潰しに付き合ってもらう事もできねえな」
「適当に部屋で寛いでればいいだろ。・・・あっ、そういえばメアんちって書庫があるって言ってたよな?ちょっと興味があるんだが」
「ん、私も」
「じゃあ行くか!」
ノリノリで城に向かうメアを男が慌てて呼び止めようとする。
「え、いや、待ってください!王の許可なく無断で書庫に部外者を立ち入らせるのは・・・」
「いいんだよコイツらは。っていうか、なんか言って来たらジジイでもぶっ飛ばす!」
「やめてさしあげろ。ただでさえ残り少ない寿命が縮むぞ」
「アヤトも結構酷い事を言ってる・・・」
そんな感じで話していると男は渋々といった感じで通してくれた。
城の中に入る道中、そして城の中で出会った見回りの者たちは必ず俺たちを見ると二度見し、頭を深々と下げる。
「アポ無しで来たから当然と言えば当然の反応か」
「普通手紙でも送って、迎えに来た馬車で来るもんだからな」
「みんな同じ反応して面白い」
「だな」
雑談をしながら城内を歩いていると、恐らくルークさんが仕事をしている部屋に辿り着く。
扉の前に男女二人の護衛が立っているのが証拠だ。
その二人が俺たちに気付くと慌てて頭を下げて来た。
「お、おかえりなさいませ、メア様!」
「おう、ただいま。ジジイはここにいるんだよな?」
「はい、ただいま他のお客様とお話しの最中なのですが・・・この方たちは?」
「俺のこい・・・と、友達だ!」
「なるほど、学園のご友人でしたか!これは喜ばしい事で・・・」
何故そこまで言い掛けたのをやめて嘘を吐いたのかとメアの方を見ると、顔を真っ赤にしてニヤけた口を隠していたので、どう答えたものかと悩んだ末に出した答えだったようだ。
「ですが、王は先程会談を始めたばかりでして・・・」
「いや、分かってる。だからジジイには俺たちが来た事と書庫にいるから終わったら呼びに来いって伝えてくれ」
「承知致しました」
女の方が苦笑しながら承諾したので、俺たちはすぐにそこから離れた。
ーーーー
「おー・・・これはこれは」
書庫に着いた俺は感嘆の声を漏らした。
学園の図書館など比べ物にならないくらいの広さと量。
脚立を使わなければ届かない程大きな棚に並んでおり、それが一階二階三階と続いていた。
これは書庫というより大図書館と言った方が正しいだろう。
「こりゃ、メアが飽きずにヒキニートできるわけだ・・・」
「な、なんだよ、その「ヒキニート」って・・・」
「「引きこもり」と学校にすら行かず働かない「ニート」の略」
「クッ、ここでそれを持ち出すか・・・」
「別に責めてねえよ?ただなるほどって納得しただけだ」
ニヤニヤしながらそう言うとメアは頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いて拗ねてしまった。
「本当の事言っただけなんだけどなー」と追撃すると涙目になってスネの周りをめっちゃ蹴って来た。
「んじゃ、宝探しと行きますかね」
「何探すの?」
「そうだな・・・まぁ、勇者召喚の記述とか?」
「・・・帰りたいの?」
ミーナの一言にスネを蹴り続けていたメアの足がピタリと止め、二人共不安そうな顔で俺を見上げる。
「その質問は意地悪だな・・・だけどまぁ、ここの生活も気に入ってるし、わざわざ帰る必要がないんだけど・・・」
心残りがあるとしたら、せめて最後に爺さんと父さんと母さんの三人の声が聞けたら・・・なんて考えたりもするけれども。
「「都合の良いものがあれば」って考えただけだ。この世界から逃げたくて帰りたいだなんて思ってないから安心しろ。あと、一方通行でしか帰れない場合も帰らないからな」
なだめるように二人の頭を撫でるとホッとした表情をする。
大切なものが向こうよりもこっちの方があり過ぎて帰りたくなくなってしまっていた。
「十八年過ごした故郷よりたった一ヶ月でここまでとはな・・・」
「何の話だ?」
「・・・いや、こっちの話だ」
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