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武人祭
忍ばない忍び
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☆★☆★
カイトたちがヴェド学園と対戦している頃、もう一つの会場にて。
学園生徒が使っているビル型の建物とは違い、広々と大きな闘技場で百人規模の人数が集まっており、それを一目見ようと観客席には見物客が埋め尽くすほどの数がいた。
【ここに集まるは一回戦を勝ち抜いた猛者三十人と、冒険者となって実績を残しつつあるSランクの実力者たち七十人!この戦いではさらに人数が絞られ、SSランクの冒険者が立つ栄光ある次の戦いに出場できるのはたった一人!功績を残してきた冒険者か、はたまた力自慢として出場した参加者がダークホースとしていきなり最高峰へ挑んでしまうのかっ!?目を見張る戦いが今、始まろうとしています!】
拡張器により強調された解説に、場内の観客が沸き立つ。
そんな中、ステージ上では選手たちが剣呑な雰囲気で互いを牽制していた。
「今日こそは俺が優勝してやるぜ!」
「はっ、お前じゃ次の試合に挑むのすら無理だな!ここはこの俺様が――」
「テメェらみたいな雑魚をSSランク様が相手してくれるわけねえだろ?」
「「んだとコラァッ!?」」
いがみ合う選手たちの中で、落ち着いて辺りを見渡している男がいた。
「皆さん殺気立ってますねぇ……僕も人のことは言えないかも、ですが」
余裕を見せて一人ごちる好青年風の男、コノハ。
忍者風の黒装束を身に纏った彼の元に屈強な男が数人、いやらしい笑みを浮かべて集まる。
「若いな、兄ちゃん?ここに立つにはまだ早いんじゃないか?」
言いがかりをつけようとする男たち。彼らは誰もSランクの猛者だが、しかしコノハは動じた様子も無く不敵に笑みを浮かべて彼らを見据える。
「ふふふ、お気遣いありがとうございます……ですが――」
【ではそろそろ開始時間となります!皆様、準備はよろしいでしょうか!?というか、もう全員待ちきれないと思いますので、始めさせていただきます!それでは、レディ……】
コノハの言葉は遮られ、司会者の放送が場内に響き渡る。そして戦いの宣言がされようとする直前、闘技場は闘志と緊張感に包まれていた。
そして――
【ファイッ!!】
「「うおぉぉぉぉっ!!」」
開始の合図と共に参加者たちによる勇ましい声が上がり、それがまるで場内が揺れていると錯覚してしまうほどだった。
「兄ちゃんには悪いが、早速脱落してもらうぜぇぇぇっ!」
コノハを睨んでいた屈強な男たちも同時に勢いよく彼に飛びかかる……が。
次の瞬間、コノハは彼らの背後へ通り抜けたように瞬間的な移動をしていた。そして男たちも……
「「……ぐはぁっ!?」」
男たちは何が起きたかもわかっていないまま、地面に倒れ伏してしまった。
【開始早々、脱落者続出ー!いきなり激しい戦闘の始まりだぁぁぁぁっ!!】
常人では捉えることができないほどの俊足で、コノハが男たちを異様な速さで脱落させたことに気付かないまま戦いはさらに激化して続く。
剛力、魔法、スキルによる砂煙が立ち込め、乱戦状態となってしまっていた。
しかしそれはコノハにとって視界の遮られたこの状況は好都合で、迷いのない足取りで動き始める。
【おおっと、あまりの乱戦具合に戦いの様子がほとんど見えなくなってしまったー!しかしご安心を!例年こうなることは予想済み、ということで……】
するとどこからかウィーンと機械音が鳴り始め、選手たちが戦っているステージ上にキラキラと光が溢れ出して砂煙などが消える。
【汚れなどを一瞬で綺麗にする「クリーン」の魔法を取り込んだ魔道具をステージ下に埋め込み、発動させました!これで皆様も楽しんで観戦が……ってあれ?】
見通しがよくなったステージを見た司会者が疑問を抱く。
百近くいたはずの選手たちが、すでに半数以上倒れてしまっていたのだ。
【な……なんということでしょう!?開始から一分足らずしか経っていないはず……しかし煙が晴れた今、立ってる選手がもはや半数を切っています!煙の中で何かアクシデントがあったのでしょうか!?】
憶測で喋る司会者の言葉のおかげか、観客席からはそこまで大きな反感はないようだった。
「……いくつか視線は僕に集まってるみたいだけど、彼はいないみたいだな」
そんな独り言を小さく呟くコノハの視線は、観客席に向けられていた。
そこにはエリーゼ、ノワールとヘレナの姿も彼から見えている。そのコノハが言った「彼」を指しているのは、アヤトのことであった。
「弟子もいるって言ってたし、そっちに行ってるのかな?弟子想いでいいなー……」
「何、余裕ぶっこいて余所見してんだ!?」
羨望の声を漏らすコノハに襲いかかる荒くれ者。だが彼らもまた、コノハを襲った者たちと同様に瞬時に倒れ伏せられてしまう。
無駄のない動作による攻撃は先程のように煙で遮られてはおらず、今度こそ観衆の目に入り歓声が上がる。
【ここで一人の選手が同時に複数の相手を一瞬でノックアウトォォォォッ!えーっと、この方は……一般参加のコノハ選手です!爽やかな笑顔とは裏腹に凄まじい実力を持っているようです!……って、えぇ!?この見た目で四十近く!?】
と、活躍が大々的に紹介されたことによって、観衆の興奮がさらに高まる。
「あらら、やっちゃったな~……目立つのはあまり好きじゃなくて忍びっぽくしてみたのに……」
そう言いながらも笑顔を絶やさない彼に向け、多くの参加者が挑みにかかる。
――――
【き、決まったぁぁぁぁっ!!第二ブロック、戦いを制したのは――コノハ選手ッ!息切れ一つ起こしていない驚愕の力】
コノハは動きを緩めることなく倒し続け、ついには苦も無く最後の一人となってステージの上に佇むコノハ。
しかし勝利したにも関わらず感慨の一つも湧かない彼は、ゆったりとした足取りでステージから降りる。
するとその先に茶髪の少年、ジスタが腕を組んで得意げな表情を浮かべ、同じ制服を着た四人と共に待機していた。
「やぁ、ジスタ。それに君たちも。試合の方はいいのかい?」
「気を遣われずとも、余らはまだ出番ではない。楽しみは最後に、とな……もちろんリナは本気で取りに行くがな」
楽しそうに笑うジスタにコノハがキョトンとした顔で目をパチクリとさせ、次に微笑ましく笑って見せた。
「『楽しみ』なんだね?」
「ああ、王族と知っても尚、余に不躾な態度を取る彼奴に興味が湧いたのだ。まるで、我らの前に初めて姿を現した時のお前のようだったぞ?……さすがに敬語は使っていないのは初めてだったが」
クックックと笑うジスタだが、後ろに控えているレチロラが呆れて溜め息を吐いていた。
「レチロラさんは相変わらず大変そうだね?」
「フンッ、貴様もジスタ様に対して相変わらず馴れ馴れしい……」
誰の目から見ても不満がありそうな表情を浮かべる。
コノハは「嫌われてるなー」と苦笑いを浮かべて返すと、そっぽを向くレチロラ。
「ま、そやつのことは気にするな。いつも誰に対してもカッカしてるのだから。それよりも彼奴だ、時間を与えてやったのだから前回のような醜態は晒してくれなければいいのだがな」
「どうだろうね?でも、期待はしていいかもしれないよ?さっき彼の師匠って人を見に行ったけど――」
そう言うとコノハは今までの微笑みではなく、野心的な目を持った笑みを浮かべた。
「――普通じゃなかったよ」
「っ……!?」
親しく接している彼らでも見たことのない猟奇的なその表情に、ジスタたちが気圧され一歩後退る。
「そ……それほどの相手なのか、カイトの師は?」
「うん、だから僕が選ばれたのかもね。それにもしかしたら……僕たちがこうやって会話できるのは、これが最後になるかもしれない」
「……え?」
コノハの言葉に、ジスタを始めその場にいる全員が唖然とした顔で彼を見つめた。
「僕に下された命令はアヤトさんの殺害……つまり僕たちは本気でお互いを殺し合わなきゃいけないんだ。不意打ちでどうにかなる相手だったらよかったんだけど、多分どうにもならないし、下手をすればこっちが返り討ちになる」
「……そうか」
しばらく沈黙してから目を閉じ、溜息を吐いて一言だけそう呟くジスタ。
「あれ、それだけ?君が生まれてからずっと見守ってきた僕がいなくなるかもしれないのに、他に感想はな無いの?寂しいなぁー」
「ハッ、実感が無いだけよ。二十年前の戦争を生き抜き、自分を殺そうとしてきた国家を一つ潰してしまったほどの実力を持つお前が死ぬなど、ありえないと思っただけだ」
眉を片方吊り上げ、呆れた表情でコノハを見るジスタ。
「あっはっは、あの時は若かったな!……まぁ、死んだ時にでも涙の一つでも流してくれたら嬉しいな?」
「むしろ無様に死んだことを嘲笑ってやるわ」
これから今生の別れになるかもしれないとは思えないジョークを交えた笑いながらの会話に、レチロラたちが呆れてやれやれと溜息を零していた。
「ま、僕の心配もありがたいけど、ジスタ君も頑張ってね?仮に僕が成功したのに君が負けた、なんて言ったらそれこそ笑い者だからね」
「誰にものを言ってる?余が……いや、お主が鍛えた余らが負けるはずなかろう!」
腕を組み自信満々に宣言するジスタに、レチロラたちも笑みを浮かべて同意して頷く。
「フフッ、頼もしいね。それじゃあ、健闘を祈るよ」
「お互いにな」
ジスタが手を振り、その場から去る。
レチロラたちも彼の後をついて行くのを見送るコノハだが、振っていたその手は次第に震え始めていた。
「……ははっ、これが武者震いだったらよかったのにな。『殺し合い』か……」
コノハの手の震えは実際、武者震いではなく恐怖からくる震えだった。
今まで幾度に渡って戦闘を経験してきたコノハだが、それは特別な力……一般的にチートと呼ばれる力によって相手を蹂躙していただけの話であり、自分以上の実力を持った敵と戦った経験がほぼない。
そのコノハがアヤトに感じたのは、底知れぬ強さだった。
「今まで好き勝手やってきたツケかな……」
コノハは何もない天井を見上げてそう悲しげに呟いた。
カイトたちがヴェド学園と対戦している頃、もう一つの会場にて。
学園生徒が使っているビル型の建物とは違い、広々と大きな闘技場で百人規模の人数が集まっており、それを一目見ようと観客席には見物客が埋め尽くすほどの数がいた。
【ここに集まるは一回戦を勝ち抜いた猛者三十人と、冒険者となって実績を残しつつあるSランクの実力者たち七十人!この戦いではさらに人数が絞られ、SSランクの冒険者が立つ栄光ある次の戦いに出場できるのはたった一人!功績を残してきた冒険者か、はたまた力自慢として出場した参加者がダークホースとしていきなり最高峰へ挑んでしまうのかっ!?目を見張る戦いが今、始まろうとしています!】
拡張器により強調された解説に、場内の観客が沸き立つ。
そんな中、ステージ上では選手たちが剣呑な雰囲気で互いを牽制していた。
「今日こそは俺が優勝してやるぜ!」
「はっ、お前じゃ次の試合に挑むのすら無理だな!ここはこの俺様が――」
「テメェらみたいな雑魚をSSランク様が相手してくれるわけねえだろ?」
「「んだとコラァッ!?」」
いがみ合う選手たちの中で、落ち着いて辺りを見渡している男がいた。
「皆さん殺気立ってますねぇ……僕も人のことは言えないかも、ですが」
余裕を見せて一人ごちる好青年風の男、コノハ。
忍者風の黒装束を身に纏った彼の元に屈強な男が数人、いやらしい笑みを浮かべて集まる。
「若いな、兄ちゃん?ここに立つにはまだ早いんじゃないか?」
言いがかりをつけようとする男たち。彼らは誰もSランクの猛者だが、しかしコノハは動じた様子も無く不敵に笑みを浮かべて彼らを見据える。
「ふふふ、お気遣いありがとうございます……ですが――」
【ではそろそろ開始時間となります!皆様、準備はよろしいでしょうか!?というか、もう全員待ちきれないと思いますので、始めさせていただきます!それでは、レディ……】
コノハの言葉は遮られ、司会者の放送が場内に響き渡る。そして戦いの宣言がされようとする直前、闘技場は闘志と緊張感に包まれていた。
そして――
【ファイッ!!】
「「うおぉぉぉぉっ!!」」
開始の合図と共に参加者たちによる勇ましい声が上がり、それがまるで場内が揺れていると錯覚してしまうほどだった。
「兄ちゃんには悪いが、早速脱落してもらうぜぇぇぇっ!」
コノハを睨んでいた屈強な男たちも同時に勢いよく彼に飛びかかる……が。
次の瞬間、コノハは彼らの背後へ通り抜けたように瞬間的な移動をしていた。そして男たちも……
「「……ぐはぁっ!?」」
男たちは何が起きたかもわかっていないまま、地面に倒れ伏してしまった。
【開始早々、脱落者続出ー!いきなり激しい戦闘の始まりだぁぁぁぁっ!!】
常人では捉えることができないほどの俊足で、コノハが男たちを異様な速さで脱落させたことに気付かないまま戦いはさらに激化して続く。
剛力、魔法、スキルによる砂煙が立ち込め、乱戦状態となってしまっていた。
しかしそれはコノハにとって視界の遮られたこの状況は好都合で、迷いのない足取りで動き始める。
【おおっと、あまりの乱戦具合に戦いの様子がほとんど見えなくなってしまったー!しかしご安心を!例年こうなることは予想済み、ということで……】
するとどこからかウィーンと機械音が鳴り始め、選手たちが戦っているステージ上にキラキラと光が溢れ出して砂煙などが消える。
【汚れなどを一瞬で綺麗にする「クリーン」の魔法を取り込んだ魔道具をステージ下に埋め込み、発動させました!これで皆様も楽しんで観戦が……ってあれ?】
見通しがよくなったステージを見た司会者が疑問を抱く。
百近くいたはずの選手たちが、すでに半数以上倒れてしまっていたのだ。
【な……なんということでしょう!?開始から一分足らずしか経っていないはず……しかし煙が晴れた今、立ってる選手がもはや半数を切っています!煙の中で何かアクシデントがあったのでしょうか!?】
憶測で喋る司会者の言葉のおかげか、観客席からはそこまで大きな反感はないようだった。
「……いくつか視線は僕に集まってるみたいだけど、彼はいないみたいだな」
そんな独り言を小さく呟くコノハの視線は、観客席に向けられていた。
そこにはエリーゼ、ノワールとヘレナの姿も彼から見えている。そのコノハが言った「彼」を指しているのは、アヤトのことであった。
「弟子もいるって言ってたし、そっちに行ってるのかな?弟子想いでいいなー……」
「何、余裕ぶっこいて余所見してんだ!?」
羨望の声を漏らすコノハに襲いかかる荒くれ者。だが彼らもまた、コノハを襲った者たちと同様に瞬時に倒れ伏せられてしまう。
無駄のない動作による攻撃は先程のように煙で遮られてはおらず、今度こそ観衆の目に入り歓声が上がる。
【ここで一人の選手が同時に複数の相手を一瞬でノックアウトォォォォッ!えーっと、この方は……一般参加のコノハ選手です!爽やかな笑顔とは裏腹に凄まじい実力を持っているようです!……って、えぇ!?この見た目で四十近く!?】
と、活躍が大々的に紹介されたことによって、観衆の興奮がさらに高まる。
「あらら、やっちゃったな~……目立つのはあまり好きじゃなくて忍びっぽくしてみたのに……」
そう言いながらも笑顔を絶やさない彼に向け、多くの参加者が挑みにかかる。
――――
【き、決まったぁぁぁぁっ!!第二ブロック、戦いを制したのは――コノハ選手ッ!息切れ一つ起こしていない驚愕の力】
コノハは動きを緩めることなく倒し続け、ついには苦も無く最後の一人となってステージの上に佇むコノハ。
しかし勝利したにも関わらず感慨の一つも湧かない彼は、ゆったりとした足取りでステージから降りる。
するとその先に茶髪の少年、ジスタが腕を組んで得意げな表情を浮かべ、同じ制服を着た四人と共に待機していた。
「やぁ、ジスタ。それに君たちも。試合の方はいいのかい?」
「気を遣われずとも、余らはまだ出番ではない。楽しみは最後に、とな……もちろんリナは本気で取りに行くがな」
楽しそうに笑うジスタにコノハがキョトンとした顔で目をパチクリとさせ、次に微笑ましく笑って見せた。
「『楽しみ』なんだね?」
「ああ、王族と知っても尚、余に不躾な態度を取る彼奴に興味が湧いたのだ。まるで、我らの前に初めて姿を現した時のお前のようだったぞ?……さすがに敬語は使っていないのは初めてだったが」
クックックと笑うジスタだが、後ろに控えているレチロラが呆れて溜め息を吐いていた。
「レチロラさんは相変わらず大変そうだね?」
「フンッ、貴様もジスタ様に対して相変わらず馴れ馴れしい……」
誰の目から見ても不満がありそうな表情を浮かべる。
コノハは「嫌われてるなー」と苦笑いを浮かべて返すと、そっぽを向くレチロラ。
「ま、そやつのことは気にするな。いつも誰に対してもカッカしてるのだから。それよりも彼奴だ、時間を与えてやったのだから前回のような醜態は晒してくれなければいいのだがな」
「どうだろうね?でも、期待はしていいかもしれないよ?さっき彼の師匠って人を見に行ったけど――」
そう言うとコノハは今までの微笑みではなく、野心的な目を持った笑みを浮かべた。
「――普通じゃなかったよ」
「っ……!?」
親しく接している彼らでも見たことのない猟奇的なその表情に、ジスタたちが気圧され一歩後退る。
「そ……それほどの相手なのか、カイトの師は?」
「うん、だから僕が選ばれたのかもね。それにもしかしたら……僕たちがこうやって会話できるのは、これが最後になるかもしれない」
「……え?」
コノハの言葉に、ジスタを始めその場にいる全員が唖然とした顔で彼を見つめた。
「僕に下された命令はアヤトさんの殺害……つまり僕たちは本気でお互いを殺し合わなきゃいけないんだ。不意打ちでどうにかなる相手だったらよかったんだけど、多分どうにもならないし、下手をすればこっちが返り討ちになる」
「……そうか」
しばらく沈黙してから目を閉じ、溜息を吐いて一言だけそう呟くジスタ。
「あれ、それだけ?君が生まれてからずっと見守ってきた僕がいなくなるかもしれないのに、他に感想はな無いの?寂しいなぁー」
「ハッ、実感が無いだけよ。二十年前の戦争を生き抜き、自分を殺そうとしてきた国家を一つ潰してしまったほどの実力を持つお前が死ぬなど、ありえないと思っただけだ」
眉を片方吊り上げ、呆れた表情でコノハを見るジスタ。
「あっはっは、あの時は若かったな!……まぁ、死んだ時にでも涙の一つでも流してくれたら嬉しいな?」
「むしろ無様に死んだことを嘲笑ってやるわ」
これから今生の別れになるかもしれないとは思えないジョークを交えた笑いながらの会話に、レチロラたちが呆れてやれやれと溜息を零していた。
「ま、僕の心配もありがたいけど、ジスタ君も頑張ってね?仮に僕が成功したのに君が負けた、なんて言ったらそれこそ笑い者だからね」
「誰にものを言ってる?余が……いや、お主が鍛えた余らが負けるはずなかろう!」
腕を組み自信満々に宣言するジスタに、レチロラたちも笑みを浮かべて同意して頷く。
「フフッ、頼もしいね。それじゃあ、健闘を祈るよ」
「お互いにな」
ジスタが手を振り、その場から去る。
レチロラたちも彼の後をついて行くのを見送るコノハだが、振っていたその手は次第に震え始めていた。
「……ははっ、これが武者震いだったらよかったのにな。『殺し合い』か……」
コノハの手の震えは実際、武者震いではなく恐怖からくる震えだった。
今まで幾度に渡って戦闘を経験してきたコノハだが、それは特別な力……一般的にチートと呼ばれる力によって相手を蹂躙していただけの話であり、自分以上の実力を持った敵と戦った経験がほぼない。
そのコノハがアヤトに感じたのは、底知れぬ強さだった。
「今まで好き勝手やってきたツケかな……」
コノハは何もない天井を見上げてそう悲しげに呟いた。
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