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武人祭
地球最強の男と異世界最強の女
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アルファポリス様のサイト上にも記載されておりますが、現在投稿している『最強のやりすぎ旅行記』の3巻が12月18日に出荷、その後店頭に並べられる予定となっています。
尚、20日からレンタル販売が開始され、書籍の該当部分が取り下げられてしまいますのでご理解ください。
3巻では投稿されていた話より少し流れが変わっています。
1巻から登場していたフィーナの姿もついに……?気になる方は是非手に取って読んでみてください!
――――
「ああぁぁぁぁああっ!?」
アヤトがアリスを追いかけ去った後、落ち着いたフィーナは頭を抱えながら、ゴロゴロと転げ回っていた。
「何やってんのよ、あたしは!?何言ってんのよ、あいつはぁぁぁっ!」
何回か左右に転がった後、地面を何回も叩く。フィーナのその顔は耳まで真っ赤になってしまっていた。
「なんであんな事をしたのよ、あたしはぁ……しかも……」
フィーナは、アヤトが先程口にした言葉を思い出す。
【なんだ、惚れたか?】
「何よ、『惚れたか?』って!?ナルシストにもほどがあるでしょ!それに、なんであたしはそれを否定しなかったのよ……あれじゃあ、本当に惚れてるみたいじゃないの……」
後悔が積もったフィーナは最終的に丸くうずくまり、消えそうなほどに小声で呟いた。
しかし実際、相手から口付けなどされればそう思うのが自然である。それは彼女自身もわかっているだろう。
そしてフィーナは、さらにその前にアヤトが大声言い放った言葉を思い出す。
【俺の家族に、手ぇ出してんじゃねえっ!】
「何よ、家族って……もおぉぉぉぉっ!」
さらりと恥ずかしい事を言われたのを思い出し、またしばらく悶え出したらフィーナ。
ようやく落ち着いたフィーナ立ち上がり、アヤトが破壊し進んだ道の跡を追いかけ、飛び降りて行った彼の姿を穴の空いた城の壁から見下ろした。
未だ熱の冷めぬフィーナは顔を赤くしながら、アヤトと口付けした唇に指を這わせ、惚けた表情をする。
「そうよ、あれは……ただ熱に浮かされただけよ……」
「何がですか?」
なんとか自分に言い訳して言い聞かせようとしたフィーナのすぐ背後で、アイラートが問いかける。
「ひにっ!?」
「あら、可愛らしい。フィーナ様でも、そんな声を出されるのですね」
「あ、アイラート……」
戸惑いながらもアイラートの名を呼ぶフィーナ。
彼女らは交流は少ないものの、以前から魔城にいた事をお互いに認識する程度には知っていた。
そして自分の呟きが他者に聞かれていたと理解したフィーナは、ようやく落ち着いてきた恥ずかしさがまた込み上げ、顔を赤くしてしまっていた。
だがフィーナは『もしかしたら見聞きされていたのは今のだけかもしれない』と考え、咳払いして取り繕おうとする。
「なんであんたがここにいんのよ?他の奴らは?」
「フィーナ様が出て行った後も音が鳴り止まなかったので、あの場はジリアスに任せてきました。私も現状の確認をし次第、戻るつもりです。が、まさか魔王様の唇をフィーナ様が奪う現場に遭遇しようとは……」
一番見られたくない一部始終を見られた事が判明し、顔を両手で覆い隠して膝から崩れ落ち、悲鳴のようなものをか細い声で叫ぶフィーナ。
その肩に、アイラートが優しく手を置く。
フィーナが泣きそうになっている直前のら顔を上げると、アイラートは今までにないくらいの微笑みを浮かべており、その口がゆっくりと開かれる。
「無理矢理奪うというのも、愛の一つですよ」
「違うわよ、何もわかってないじゃない!?」
ツッコミついでにアイラートの手を跳ね除けるフィーナ。
「いつもペルディア様ペルディア様と言って、いつ百合が咲いてしまうのかと私どももヒヤヒヤしておりましたが、ようやく正常ルートに戻りましたね」
「あんた、遠回しにあたしの事バカにしてない?」
アイラートは『いえいえ』と言葉を返す。
「むしろ感謝していますよ」
「感謝?な、何によ……?」
フィーナの聞き返しに、今までの微笑みから悪人がするような極悪な笑みへと変わる。
「大変おいしい痴態を見せていただき、ありがとうございます。これで当面の間は話の種に困りませんね」
「なんであんたみたいなのがここのメイドやってんのよ……!」
「すいません、優秀で」
アイラートの神経を逆撫でするような即答に、フィーナは思わず歯軋りを立てる。
「あ、そうそう。先程のお話なのですが……」
アイラートが突然思い出したように言い出し、フィーナが『何よ?』と眉をひそめて訝しげな表情で聞き返す。
「『熱に浮かされただけ』とフィーナ様は仰られておりましたが、それはつまり魔王様に言われた事が嬉しかったという意味にきこえますよ?」
アイラートが言い放った言葉にフィーナは固まり、その表情は徐々に驚きと恥ずかしさのものに変わっていった。
――――
アヤトに殴られ、魔城が遠くに見えるほど先まで飛ばされてしまっていたアリス。
その一撃を受けても彼女は平然と起き上がった。
「……強いな。私以外にもこんな力を持つ奴がいたなんて」
そう言って、僅かに釣り上がるアリスの口端。
その目の前に、アヤトが砲弾のような轟音を立てながら着地する。
「今度は俺が聞いていいか?お前が魔族を嫌う理由を」
城からアリスがいる位置までを脚力のみで跳んだにも関わらず、自分が今やった事をなかった事にして会話をしようとする。
「知ったところでどうする?」
「知った上で、できるならお前を受け入れようと思う」
アヤトの言葉にアリスは目を見開くが、すぐに鼻で笑う。
「私は受け入れられないな。魔族も、魔族と仲良くして魔王にまでなったお前も……」
「本当にそう思ってるのか?」
「……どういう意味だ?」
アヤトがした質問の意図が理解できずにいるアリスが、首をコキリと鳴らして、アヤトの前に立つ。
「俺はこれでも色々と鍛錬を積んできて、それなりに強くなっていると自負していたんだ」
仮にも神を名乗る少年から世界一の強さと称されても尚、彼は自分の強さを『それなり』と謙虚に言う。
「お前も強いが、お前のような奴は向こうで腐るほど見てきた。なのになぜかお前の攻撃に、俺は反応できなかったんだ。だけど、フィーナのおかげで冷静になって、やっとなんでなのかがわかった」
アヤトはそう言いながら、自分の頭から流れ出る血を手の平で拭き取る。
「……お前から攻撃を食らう時、敵意も殺意も感じなかった。感じたのは、戸惑いと悲しみだけ。なのにあんな全力で殴ってくるっていうのが今までなかったから不思議で、つい全部受けちまった」
困った笑いを浮かべて言うアヤト。
「……その言い方だと、これからはもう食らわないとでも言いたげだな」
「そのつもりだ」
アヤトがそう言い放った瞬間、互いが同時に走り出す。
「ハアァァァッ!」
アリスが殴り、アヤトが受け流して殴り返す。
その一発をアリスは受け、また殴る。
「ただがむしゃらに繰り返すだけか?」
「そんなわけないだろ」
自分の拳が受け流されてアヤトの拳が放たれると、その攻撃をアリスは受け流す動作をした。
ただズラすのではなく、腕を回転させて攻撃の流れを変え受け流す『化勁』だった。
それはまるで、アヤトの動きを模倣したかのようで……
「ははっ、掠っただけなのに痛いな」
「見様見真似をするか。じゃあ、スピードを上げるとしよう」
そう宣言すると、言葉通りに攻撃の速度を上げるアヤト。
アリスもそのスピードに付いて行き、アヤトの行う動作の一つ一つを真似ていった。
付け焼き刃……アヤトに対抗している彼女の行動はまさにそれであり、到底彼の技術や練度には及ばない。
しかしアリスの拳がアヤトに届くまで、あと数十歩というくらいには近かった。
元々高かった純粋な身体能力を、さらにスキルなどで底上げして近付いていたアリス。彼女自身も気付いていないが、すでにアリスが発動しているもののほとんどが『神』レベルとなっており、通常時のアヤトと打ち合えるほどとなっていた。
さらには彼女が現在抱いている感情。
アリスにはアヤトを愛おしさや悲しみなどの想いしかなく、しかしながらも魔族への憎しみから発生きている闘争本能が、彼女の体を無意識に動かしていた。
アヤトが戦い難くしている原因は、今まで相手の僅かな敵意や殺意に合わせ、それに反応し対応をする戦い方をしていた彼自身。
しかも、アリスは一合打ち合う度にアヤトの技術を吸収していっている。
最初は小なり大なりとダメージを受けていたアリスだが、徐々に食らう回数も減っていく。
そしてとうとう、アヤトとアリスの互角の戦いが繰り広げられるようになってしまっていた。
互いに攻撃を流し合い無傷、口を開く事などほとんどなく無言。
移動しながら打ち合い、止まって数撃。アリスが力を込めた一撃をアヤトの頭上から放ち、彼は化勁で受け流しつつ膝蹴りをカウンターで入れる。
それもアリスは同じく化勁で躱し、後のアヤトの猛攻を凌ぐ。
それぞれの空振りは、その方向にある木を拳圧のみで薙ぎ倒す。
魔法や魔術など、無粋なものは一切ない肉体のぶつかり合いがそこにはあった。
「ロクな技術もないこの世界じゃ、俺といい勝負できる奴なんていないと思ってたが、ノワールやチユキ以外でまともに戦えたのはお前が初めてだな」
「ッ!……は、はは……」
すると突然、アリスが乾いた笑いをして動きを止める。それに合わせて、アヤトも攻撃の手を止めた。
「どう……」
アヤトが『どうした?』と疑問を口にしようとしたその言葉を飲み込む。
アリスの目からは再び、大粒の涙がポロポロと零れていた。
「どうやら、もう無理らしい……お前にそんな些細な事を褒められただけで、嬉しく感じてしまっている……もう、心だけではく、体もお前を傷付けたくないと思ってしまっているようだ」
笑みを浮かべながら、止まらない涙を流して、アリスはアヤトの方へゆっくり歩み寄る。
「いくら殴ってもお前は平然とし、あまつさえ婚約者を殴り飛ばした私を受け入れようなどと……人が良過ぎるぞ、アヤト」
アヤトの数歩前で立ち止まり、同じ高さにある視線を合わせる。
「これで終わりにしよう」
アリスが悲しそうに、そして静かに呟いた。
尚、20日からレンタル販売が開始され、書籍の該当部分が取り下げられてしまいますのでご理解ください。
3巻では投稿されていた話より少し流れが変わっています。
1巻から登場していたフィーナの姿もついに……?気になる方は是非手に取って読んでみてください!
――――
「ああぁぁぁぁああっ!?」
アヤトがアリスを追いかけ去った後、落ち着いたフィーナは頭を抱えながら、ゴロゴロと転げ回っていた。
「何やってんのよ、あたしは!?何言ってんのよ、あいつはぁぁぁっ!」
何回か左右に転がった後、地面を何回も叩く。フィーナのその顔は耳まで真っ赤になってしまっていた。
「なんであんな事をしたのよ、あたしはぁ……しかも……」
フィーナは、アヤトが先程口にした言葉を思い出す。
【なんだ、惚れたか?】
「何よ、『惚れたか?』って!?ナルシストにもほどがあるでしょ!それに、なんであたしはそれを否定しなかったのよ……あれじゃあ、本当に惚れてるみたいじゃないの……」
後悔が積もったフィーナは最終的に丸くうずくまり、消えそうなほどに小声で呟いた。
しかし実際、相手から口付けなどされればそう思うのが自然である。それは彼女自身もわかっているだろう。
そしてフィーナは、さらにその前にアヤトが大声言い放った言葉を思い出す。
【俺の家族に、手ぇ出してんじゃねえっ!】
「何よ、家族って……もおぉぉぉぉっ!」
さらりと恥ずかしい事を言われたのを思い出し、またしばらく悶え出したらフィーナ。
ようやく落ち着いたフィーナ立ち上がり、アヤトが破壊し進んだ道の跡を追いかけ、飛び降りて行った彼の姿を穴の空いた城の壁から見下ろした。
未だ熱の冷めぬフィーナは顔を赤くしながら、アヤトと口付けした唇に指を這わせ、惚けた表情をする。
「そうよ、あれは……ただ熱に浮かされただけよ……」
「何がですか?」
なんとか自分に言い訳して言い聞かせようとしたフィーナのすぐ背後で、アイラートが問いかける。
「ひにっ!?」
「あら、可愛らしい。フィーナ様でも、そんな声を出されるのですね」
「あ、アイラート……」
戸惑いながらもアイラートの名を呼ぶフィーナ。
彼女らは交流は少ないものの、以前から魔城にいた事をお互いに認識する程度には知っていた。
そして自分の呟きが他者に聞かれていたと理解したフィーナは、ようやく落ち着いてきた恥ずかしさがまた込み上げ、顔を赤くしてしまっていた。
だがフィーナは『もしかしたら見聞きされていたのは今のだけかもしれない』と考え、咳払いして取り繕おうとする。
「なんであんたがここにいんのよ?他の奴らは?」
「フィーナ様が出て行った後も音が鳴り止まなかったので、あの場はジリアスに任せてきました。私も現状の確認をし次第、戻るつもりです。が、まさか魔王様の唇をフィーナ様が奪う現場に遭遇しようとは……」
一番見られたくない一部始終を見られた事が判明し、顔を両手で覆い隠して膝から崩れ落ち、悲鳴のようなものをか細い声で叫ぶフィーナ。
その肩に、アイラートが優しく手を置く。
フィーナが泣きそうになっている直前のら顔を上げると、アイラートは今までにないくらいの微笑みを浮かべており、その口がゆっくりと開かれる。
「無理矢理奪うというのも、愛の一つですよ」
「違うわよ、何もわかってないじゃない!?」
ツッコミついでにアイラートの手を跳ね除けるフィーナ。
「いつもペルディア様ペルディア様と言って、いつ百合が咲いてしまうのかと私どももヒヤヒヤしておりましたが、ようやく正常ルートに戻りましたね」
「あんた、遠回しにあたしの事バカにしてない?」
アイラートは『いえいえ』と言葉を返す。
「むしろ感謝していますよ」
「感謝?な、何によ……?」
フィーナの聞き返しに、今までの微笑みから悪人がするような極悪な笑みへと変わる。
「大変おいしい痴態を見せていただき、ありがとうございます。これで当面の間は話の種に困りませんね」
「なんであんたみたいなのがここのメイドやってんのよ……!」
「すいません、優秀で」
アイラートの神経を逆撫でするような即答に、フィーナは思わず歯軋りを立てる。
「あ、そうそう。先程のお話なのですが……」
アイラートが突然思い出したように言い出し、フィーナが『何よ?』と眉をひそめて訝しげな表情で聞き返す。
「『熱に浮かされただけ』とフィーナ様は仰られておりましたが、それはつまり魔王様に言われた事が嬉しかったという意味にきこえますよ?」
アイラートが言い放った言葉にフィーナは固まり、その表情は徐々に驚きと恥ずかしさのものに変わっていった。
――――
アヤトに殴られ、魔城が遠くに見えるほど先まで飛ばされてしまっていたアリス。
その一撃を受けても彼女は平然と起き上がった。
「……強いな。私以外にもこんな力を持つ奴がいたなんて」
そう言って、僅かに釣り上がるアリスの口端。
その目の前に、アヤトが砲弾のような轟音を立てながら着地する。
「今度は俺が聞いていいか?お前が魔族を嫌う理由を」
城からアリスがいる位置までを脚力のみで跳んだにも関わらず、自分が今やった事をなかった事にして会話をしようとする。
「知ったところでどうする?」
「知った上で、できるならお前を受け入れようと思う」
アヤトの言葉にアリスは目を見開くが、すぐに鼻で笑う。
「私は受け入れられないな。魔族も、魔族と仲良くして魔王にまでなったお前も……」
「本当にそう思ってるのか?」
「……どういう意味だ?」
アヤトがした質問の意図が理解できずにいるアリスが、首をコキリと鳴らして、アヤトの前に立つ。
「俺はこれでも色々と鍛錬を積んできて、それなりに強くなっていると自負していたんだ」
仮にも神を名乗る少年から世界一の強さと称されても尚、彼は自分の強さを『それなり』と謙虚に言う。
「お前も強いが、お前のような奴は向こうで腐るほど見てきた。なのになぜかお前の攻撃に、俺は反応できなかったんだ。だけど、フィーナのおかげで冷静になって、やっとなんでなのかがわかった」
アヤトはそう言いながら、自分の頭から流れ出る血を手の平で拭き取る。
「……お前から攻撃を食らう時、敵意も殺意も感じなかった。感じたのは、戸惑いと悲しみだけ。なのにあんな全力で殴ってくるっていうのが今までなかったから不思議で、つい全部受けちまった」
困った笑いを浮かべて言うアヤト。
「……その言い方だと、これからはもう食らわないとでも言いたげだな」
「そのつもりだ」
アヤトがそう言い放った瞬間、互いが同時に走り出す。
「ハアァァァッ!」
アリスが殴り、アヤトが受け流して殴り返す。
その一発をアリスは受け、また殴る。
「ただがむしゃらに繰り返すだけか?」
「そんなわけないだろ」
自分の拳が受け流されてアヤトの拳が放たれると、その攻撃をアリスは受け流す動作をした。
ただズラすのではなく、腕を回転させて攻撃の流れを変え受け流す『化勁』だった。
それはまるで、アヤトの動きを模倣したかのようで……
「ははっ、掠っただけなのに痛いな」
「見様見真似をするか。じゃあ、スピードを上げるとしよう」
そう宣言すると、言葉通りに攻撃の速度を上げるアヤト。
アリスもそのスピードに付いて行き、アヤトの行う動作の一つ一つを真似ていった。
付け焼き刃……アヤトに対抗している彼女の行動はまさにそれであり、到底彼の技術や練度には及ばない。
しかしアリスの拳がアヤトに届くまで、あと数十歩というくらいには近かった。
元々高かった純粋な身体能力を、さらにスキルなどで底上げして近付いていたアリス。彼女自身も気付いていないが、すでにアリスが発動しているもののほとんどが『神』レベルとなっており、通常時のアヤトと打ち合えるほどとなっていた。
さらには彼女が現在抱いている感情。
アリスにはアヤトを愛おしさや悲しみなどの想いしかなく、しかしながらも魔族への憎しみから発生きている闘争本能が、彼女の体を無意識に動かしていた。
アヤトが戦い難くしている原因は、今まで相手の僅かな敵意や殺意に合わせ、それに反応し対応をする戦い方をしていた彼自身。
しかも、アリスは一合打ち合う度にアヤトの技術を吸収していっている。
最初は小なり大なりとダメージを受けていたアリスだが、徐々に食らう回数も減っていく。
そしてとうとう、アヤトとアリスの互角の戦いが繰り広げられるようになってしまっていた。
互いに攻撃を流し合い無傷、口を開く事などほとんどなく無言。
移動しながら打ち合い、止まって数撃。アリスが力を込めた一撃をアヤトの頭上から放ち、彼は化勁で受け流しつつ膝蹴りをカウンターで入れる。
それもアリスは同じく化勁で躱し、後のアヤトの猛攻を凌ぐ。
それぞれの空振りは、その方向にある木を拳圧のみで薙ぎ倒す。
魔法や魔術など、無粋なものは一切ない肉体のぶつかり合いがそこにはあった。
「ロクな技術もないこの世界じゃ、俺といい勝負できる奴なんていないと思ってたが、ノワールやチユキ以外でまともに戦えたのはお前が初めてだな」
「ッ!……は、はは……」
すると突然、アリスが乾いた笑いをして動きを止める。それに合わせて、アヤトも攻撃の手を止めた。
「どう……」
アヤトが『どうした?』と疑問を口にしようとしたその言葉を飲み込む。
アリスの目からは再び、大粒の涙がポロポロと零れていた。
「どうやら、もう無理らしい……お前にそんな些細な事を褒められただけで、嬉しく感じてしまっている……もう、心だけではく、体もお前を傷付けたくないと思ってしまっているようだ」
笑みを浮かべながら、止まらない涙を流して、アリスはアヤトの方へゆっくり歩み寄る。
「いくら殴ってもお前は平然とし、あまつさえ婚約者を殴り飛ばした私を受け入れようなどと……人が良過ぎるぞ、アヤト」
アヤトの数歩前で立ち止まり、同じ高さにある視線を合わせる。
「これで終わりにしよう」
アリスが悲しそうに、そして静かに呟いた。
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