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魔王らしくなった魔王

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「私は魔族領リンドヴルムの領主を任されていますヴェルネです。カズ……彼を保護している者です」

 ヴェルネが名乗るとアイファが納得したように「ああ」と声を漏らす。

「君があの噂の……」

「噂?」

 アイファが視線をダイスに向けて微笑む。

「ダイスからは魔法の腕が立つ優秀な者が領主をしているとよく聞いていたものだからな。お目にかかれて光栄だよ、ヴェルネ殿」

「は、はぁ……それで私の意見なのですが――」

 ヴェルネが喋ろうと口を開いてすぐにアイファが手の平を向けて制止させる。

「あなたの意見は参考にできません」

「それは……なぜです?」

「あなたと人間は短い期間とはいえ、数ヵ月もの間を一つ屋根の下で共に生活してきたのです。その間に情が湧いて必要以上に擁護しようとするでしょうから――」

「それでいいではないか」

 アイファの言葉を重い雰囲気を纏ったダイスが遮る。

「……ダイス、あなたもまた人間のカズと親しい間柄に――」

「ああ、彼には無償の信頼を置いている。だがそれがどうした?カズ君を全く知らない君たちが第一印象だけで彼を信じられるかどうかなどを議論するより、この数ヵ月で私たちが彼に持った印象を話した方が一番参考になるだろう?何せ私たちは血縁関係でもなく、そもそも種族が違う。そんな私たちが彼を信じると言うのなら、それだけの人格者なのだと言えるのではないか?これが参考にできないというのなら……」

 カズの前で初めて見せるダイスの厳格な雰囲気に、ヴェルネを含む多数の者が息を飲む。

「お前たちはこの者を罪人に仕立て上げようと難癖を付けているのだと解釈するが……人間だからといって無闇に蔑ろにするようなら、私の反感を買うと思え」

 ダイスが放つ威圧感にアイファがたじろぎ、そしてピアが恍惚な表情で喜んでいるようだった。

「あぁ……やっぱりダイちゃんは骨になっても凄いわぁ……この背中がゾクゾクする感じ、若い頃を思い出してお腹の奥が熱くなっちゃう!」

「こらこら、ここは公共の場なんじゃから自制せいよ?」

 暴走寸前のピアをラニャが呆れた様子で落ち着かせようと言葉をかける。
 そしてカズもそんなダイスの様子に「おー」と驚いていた。

「……急に魔王らしくなったな」

「『魔王らしく』なんじゃなくて魔王なの!……最近は大きな争いもないし、レトナ様を産んでからは落ち着いてたけど、ピア様を惚れさせたあの覇気は健在みたい」

「さっきまでは娘の彼氏を殺しにかかる親バカの父親だったもんな」

「カズ君カズ君、聞こえてる聞こえてる。たしかに自覚はしてるけど、今は結構恰好付けて君のこと庇ってるのだけど……」

 カズたちの話が聞こえていたダイスは急に恥ずかしくなってしまったのか、その威圧感が消えていつもの気の抜けた様子に戻ってしまった。
 そして彼の威圧を一番に向けられていたアイファがホッと胸を撫で下ろし、顔に垂れていた冷や汗を拭う。

「……ダイスさんの言い分は理解しました。たしかにあなた方ほど意見を参考にしなければならない人物は他にいませんね。ですがその分、私たちを納得させるだけの言葉が必要となります。あなた方が彼に懐柔されていないと思わせる言葉が……それはカズが人間だからではなく、被害が無かったとはいえそれだけのことをしてしまったということなのだとご理解ください」

「……それもそうだったな。こちらも少々早計だったな、非礼を詫びよう」

 ダイスも落ち着いた様子で頭を下げ、「さて」と言って少し困った顔をする。

「君たち全員を納得させられるだけの言葉か……それほど私と彼は長くいるわけでもないから言えることは少ないが、強いて言うなら――」

 ダイスがそこで言葉を区切り、カズに視線を向けて笑ったように見えた。

「彼は人間でありつつも魔族や獣人を好むようだ。少なくともヴェルネ殿や私の娘、そして彼の話に出てきた吸血鬼の少女を伴侶にしようとする程度にはな」

 ダイスの暴露に周囲がざわつき、ヴェルネが顔を真っ赤にしてしまう。一方カズ本人は恥ずかしさなど微塵も感じておらず真顔のままである。
 そしてアイファは顔を引きつらせて困惑した様子となっていた。

「えっと……それはつまり?」

「通常の人間は我々魔族と獣人を毛嫌いして話そうとも近付こうともしないが、彼はむしろ好意的だ。それに今回の事の発端は吸血鬼側が手を出したのであって、彼が種族全体に害を成そうとしているわけではないということだ。それとあとは……また別件ではあるが、カズ君は災害級や災厄級の魔物が出現した時の対処をしてくれたり、人間の勇者が現れた際に彼らと敵対までして町を守ってくれた実績もある」

 ダイスがそう言うとざわつきが先程よりも大きくなり、「あの人間の勇者を?」「退けたのか?」などといった疑問や驚愕の声が飛び交う。
 そしてアイファもまた目を丸くして驚いていた。

「人間の勇者が現れたなど初耳なのですが……」

「つい最近の話だからな。私も少し前にヴェルネ殿から届いた手紙を見て驚いた。だからこの会議で同時に知らせようと思ったのだが……まぁ、話題を変える手間が省けたな」

 ダイスはそう言ってカラカラと笑い、ルーガルが机の上に乗り上げる。

「おい、本当に勇者と戦って追い返したのか?しかも魔族の町を守るために?」

「そうだよ。俺は人間だとか魔族だって理由で敵味方になんてならない。俺を受け入れてくれた人々を守るために力を振るうって決めてるんだ。だから俺は誰が相手でも味方になるし、誰が相手でも敵になるぞ」

 カズがそう言って無邪気にニッと笑うとアイファが顔を赤らめ、ヴェルネが彼へジト目を向けるのだった。
 そんな中でカズが何かに気付く。

「……ん?なんか外が騒がしくないか?」

「外?」

「……たしかに。扉の外がずいぶん賑やかだな」

 アイファが首を傾げ、ルーガルの耳がピクピクと動いて部屋の扉を睨む。
 そしてその扉が開かれ、そこに現れたのは――

「ケヒヒッ!」

 醜く太った「人間」だった。
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