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会議当日

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☆★☆★
~カズ視点~

「ヴェルネ、この塩焼き鳥美味いぞ。食わないのか?」

「この色々な具材を挟んだパンも美味しいですよ、ヴェルネ様」

 獣魔会議のある場所へ向かっていた道中、俺たちは小休憩として途中の町に寄って食べ歩きをしていた。
 ちなみに余計な騒ぎにならないようにマスクはしている。変な目で見られてはいるものの、人間だと騒ぎになるよりはマシだろうし。

「はぁ、はぁ……む、無理!なんであんたら、あのスピードで走って平気なのよ……?」

「鍛えているからな」

「鍛えていますので」

 息を切らして近くの椅子に腰を下ろしているヴェルネ。彼女は俺が背負って走っていたのだが、酔ってしまったらしい。
 だからこそ休憩をしたわけだ。

「ジークまで同じこと言うなんて……あんたらやっぱおかしいわよ……」

 ヴェルネは文句を口にしながらも息を整え、俺が買った数本の焼き鳥の内の一本を奪い口にする。結局食べるんじゃねーか。

「ヴェルネはせめて三半規管を鍛えないとな。今後俺が背負うたびにゲロってたら身が持たないぞ?」

「だったらあたしじゃなくてあんたがなんとかしなさい。あたしを背負っても気分が悪くならない技術を覚えて」

 まさかの無茶振り返しをされてしまった……が、たしかに彼女の言う通りかもしれない。
 誰かを背負って移動し続けることなんてほとんど経験がなかったからそんな考えに至らなかった。

「ははは、言い返されるとは思ってもみなかった……善処してみるとするよ。それより何か欲しいものはあるか?」

「そうね、飲み物が欲しいかしら。でもあまり悠長にもしてられないから、すぐに行くわよ」

「ですね。馬車より速いとは言え、集合時間を過ぎるのはマズいのでヴェルネ様の言う通り早めに出ましょう」

 ということで軽く腹を満たしたら町を出発し、ジークと共に再び走り始める。
 それからいくつもの森、町、山を越えた数時間後、ようやく目的地へと辿り着いた。

☆★☆★
~他視点~

 カズたちが到着したその場所、「円卓塔」の門前にて立派な銀色の甲冑を身に纏った男二人が立っていた。

「ふぁ~……」

「おい、気を抜くな。今日は獣魔会議があるんだぞ?」

「だってなぁ……?」

 真面目そうに注意する魔族の男だが、暇そうに欠伸をした虎模様の獣人男が門のある後ろを振り向く。

「ここ、強力な結界が張られてるんだろ?」

「ああ、外からの攻撃は災厄級の魔物だろうとこの結界は壊せないらしい。そして一度中に入ってしまえば魔法や魔道具は一切使えず、暴力を振るおうものなら特殊な精鋭に取り押さえられてしまう。その相手がたとえ魔王や獣王であっても無力になるんだとよ。その中だからこそできる平等な会議、『獣魔会議』ってわけだ」

 魔族の男の説明に獣人の男は「ふーん」とそこまで興味なさそうに答える。

「その『特殊な精鋭』ってそんなに強いのか?」

「俺は見たことないから確かなことはわからないが、前に粗相したバカが何人か打ちのめされたことがあった。ソイツら全員は魔王や獣王の側近で、実力は折り紙付きだったはずだったにも関わらず手も足も出なかったらしいぞ」

「マジか……って、それだと俺たちがいる意味って本当にあるのか?」

 中の様子を噂話などで予想して互いに暇を潰す二人。そんな彼らの前に何かが降ってくる。

「私が来たァァァッ!!」

 門番たちの目の前に凄まじい轟音と共に何者かが、まるで隕石のような勢いで落ちてきたのだった。

「な、何が……?」

「何者だ⁉」

 目の前に降り立った人物に魔族の男が槍を構え、遅れて獣人の男も拳を握り締めて構える。

「けほっけほっ……ちょっとカズ!着地くらい落ち着いてしなさいよ!ったく、子供みたいなことばかりして――」

 豪快に着地して登場したのはヴェルネを背負ったカズだった。そしてヴェルネが呆れ気味にそう言って降りようとしたところで同じように着地した人物がもう一人。

「……待たせたな」

 同じように派手な登場し、口角を上げてそう言ったのはジークだった。
 そんな彼の登場の仕方にヴェルネが眉間をひそめ、カズが笑顔でグッドサインをする。

「……これでよかったでしょうか、カズ様?」

「おう、満足した!一度は渋みのある老兵に言ってほしいセリフだったんだ♪」

「それは何よりです」

 立ち上がって乱れた服装を整えながら微笑むジークと、頭を振って肩を落とし溜め息を吐くヴェルネ。

「バカやってないでさっさと入るわよ、バカ共」

 そう言ってヴェルネが二人のやり取りをバッサリ切って門兵に近付く。

「あなたは……」

「魔族領『リントヴルグ』の領主ヴェルネ。招集命令により馳せ参じました」

 武器を構えられていることなど気にした様子も無く、数日前に届いた手紙を丁寧に差し出す。

「これはたしかにこの場所の招待状……ということは……?」

 魔族の男が受け取った手紙から視線をヴェルネ、ジークへと移し、そして顔を隠していたカズがマスクを外す。

「……人間」

 目を丸くして驚く魔族と殺気を漏らして拳を構え直す獣人。
 今にも飛びかかりそうだった獣人だが、魔族が手で制止する。

「その人間が例の?」

「えぇ、今回の議題になってる人間。それとこっちのはうちで雇ってる付き人よ」

 ヴェルネが元の口調に戻り、ついでのようにジークの紹介をすると魔族の門兵が頷いて敬礼する。

「すでに数名が中でお待ちです。わかっていると思いますが他種族と言えど王の集まる場、くれぐれも――」

「わかってるわ。『粗相のないように』でしょう?」

 そう言ってヴェルネは「行くわよ」とカズたちを一瞥して門を潜る。彼女に続きカズが手を振りながら、ジークは軽く会釈して門兵たちの横を通り過ぎる。
 見送った門兵は、彼女たちの姿が見えなくなっても視線を塔の方を見続けた。

「……なぁ、あの人間ってもしかして前にお前が言ってた?」

「あぁ、最近山の上が綺麗に切り崩された事件が起きたって話。それを実行したのがあの人間ってわけだ」

 魔族の男の言葉に獣人の男が怪訝な表情をする。

「本当にあの小柄な人間がか?いや、アイツ自体は別に小さくないんだけどよ……」

「言いたいことはわかる。そんな大事件を起こした張本人がどんなに巨漢かと思えば、思ってたより普通の体格だったんだ。俺だって同じことを考えてたよ」

 魔族の男はそう言うとフッと笑って正面に向け直る。

「どんな魔法を使えばそんなことができるのか……」

「魔族だってそうそうそんなことができる奴はいない。できるとしたら魔王級の強さを持つあの方々……いや、あの人たちだって削るのがやっとじゃないか?」

「獣王様たちも……まぁ、数人がかりだったらできると思うが、綺麗に斬るとなると……なぁ?」

 カズがどんな強さを持っているのか……暇な彼らにとってその話題は尽きることなく予想を口にして話を広げる。
 そんな彼らに忍び寄る者が一人……

「あら、面白そうな話をしてるじゃない。もしかして……今回の議題に関係してる人かしら……?」

 彼らの後ろから突然出現したかのように女性の声が聞こえてきた。
 正面からは誰も来なかったにも関わらず現れたその人物に警戒した二人が振り返ると同時に構える。しかし彼女の姿を見た二人が警戒を解く。
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