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捉え方は人次第

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「少し見ない間にずいぶん仲良くなったみたいだな?」

 ダートが引きつった笑いを浮かべる。仲が良過ぎとでも言いたげだ。

「どうも。それよりそっちも完成が早いんだな?時間はかからないなんてな。こういうのって作るのに一ヶ月とか、もっと時間が必要なもんじゃないのか?」

「もちろん。だからこそそこは腕の見せどころってやつだよ。普通の奴が作れば時間はかかるが、俺には『特別な力』があるからな」

 ダートはハッハッハと笑って自らの腕に力こぶを作り軽く叩く。
 特別な力ってのは……

「超術のことか」

「なんだ、反応が薄いな。普通超術を持ってるって言ったら騒いだりするのに……つまらん」

 その超術を自慢したかったダートは俺の反応の薄さに口を尖らせる。子供かよ……

「とりあえずまぁ、そういうことだ。俺の超術はアクセサリーを作る手間を単純化して時間を短縮できる。あ、だからって金額は減らさねえからな?お手軽にできるならもっと安くしてくれなんて客もいたが、それが商売ってやつだからな」

「ああ、わかってる。支払いはあんたの要求通りでいい。どちらにしろオーダーメイドってのは高いもんだしな」

「わかってるじゃねえか。お前とはこれからも良い付き合いになりそうだな」

 爽やかに笑うダート。しかしそんなにアクセサリーなど作る予定などないので、ここの常連になる気は今のところないのは言うまでもない。

――――
―――
――


  受け取りの用事も済ませたのでヴェルネの屋敷へ寄り道せず帰ると、デク人形から馬乗りにされてボコボコにされていたジルの姿があった。
 クリーンヒットが一度でも当たれば止まるはずのデク人形が止まらないのがなんでかはわからないが……今日はアイツにとっての厄日なのかもしれない。
 幸いデク人形に攻撃力は皆無のため、ルルアの時のように顔が腫れるなどにはならなかったが……彼の心はさっきよりもボロボロである。

「デク人形に……デク人形にすら負けた……」

「ザーコ♪」

 そしてそんなジルの心を追撃するルルア。やめたげて?もう彼のライフはゼロよ!
 むしろマイナスまでいってそうなんだけど。

「てか、どういう経緯でデク人形にタコ殴りにされてたんだよ?」

「いや、兄貴に言われた通り普通にデク人形に向かって『かかってこい!』って言っただけなんですけどそれで殴られてしまって、こっちも同じように一発やり返したらさっきみたいなことに……」

 そう言うと怯えた目をデク人形に向けるジル。

「なんかあのデク人形、俺の知ってるやつと全く違ってて怖かったんですけど。感情が無いのは当たり前なんですけど、無言で殴られ続けるのが……はい、かなり怖かったです」

 目を背けて震えるジル。
 そりゃまぁ……あんな顔の無いマネキンに殴られ続けられたらトラウマの一つや二つになりそうだわな。ジルからすれば十分ホラーだろう。

「しかしおかしな話よね。デク人形が今までそんな動きを見せたなんて聞いたことがないわよ?」

 見学と言って近くで見ていたヴェルネが「あんたが殴ったからどっか壊れたんじゃない?」とか言いながらデク人形に近付く。
 最初に「仕事は?」と聞いたら「やることやったから暇」と返してきたので今は一緒に庭にいるというわけだ。
 それはそれとして、改めてそのデク人形を見ると何か違和感を感じた。
 「何が」とは言い表せないから難しいが……ああ、そうだ、というのが一番近いかもしれない。
 本来攻撃を当てたら止まるはずのデク人形がジルを殴り続けたのは俺が殴ってどこかおかしくなった、とも言えるが……僅かだがデク人形から生物に似た気配を感じる。
 まさか……

「デク人形に意思があったりするか……?」

「は?人形が考えたりするって?ありえないありえない、あんたも大概だけどデク人形が意志を宿して動くなんて空想上の御伽噺よ。それこそ幽霊みたいなオカルト話に――」

 ヴェルネが俺を小馬鹿にしつつ否定していると、彼女の後ろからデク人形が腰に手を回して抱き着いた。

「――え」

 それこそ戦闘とは関係の無い行動を取るデク人形にヴェルネが固まる。
 彼女がゆっくり振り向くとデク人形が首を傾げるような人間らしい動作をした。

「イヤァァァァッ!?」

 ついにヴェルネまで恐怖に駆られて走り出して逃げようとする。
 しかしデク人形は彼女の背中にピッタリくっ付いたまま離れる様子がない。

「あのお人形さん、あんなことする子だったのね?」

 なんてルルアが他人事に言い、「ちょっと面白そう」と付け加えてキラキラした目をヴェルネにくっ付いているデク人形に向けていた。
 そしてそこら中を駆け回っていたヴェルネが俺のところへ一直線に走ってくる。

「これっ、これ取ってよぉぉぉぉっ!!」

 あまりに怖かったらしく、泣きじゃくってそう言ってくるヴェルネ。
 いつも凛としているイメージが強く、まさかそこまで取り乱すとは思ってもみなかった。
 意外と幽霊とかホラー系が苦手か?
 とりあえずそのまま胸に飛び込んで来たヴェルネを抱き締めて出迎える。

「いらっしゃい」

「いいからコレ取ってよ!」

 怖がりながら怒るヴェルネ。その必死さが伝わってきて軽い溜め息と笑いが思わず零れてしまう。

「だってよ、だから離れてやってくれ」

 彼女の背中に張り付くデク人形にそう言ってやると、言葉を理解しているかのようにスッとヴェルネから降りた。
 デク人形が離れるとヴェルネは俺の背中に隠れて眉間にシワを寄せ歯を剥き出しにして警戒する。犬みたい。
 しかしまるで本当に言葉を理解してるみたいな反応だ。

「……もしかしなくても言葉を理解できてるのか?」

 俺の言葉に頷くデク人形。本当に理解してたのか……
 この場合どういう反応をしたらいいんだ?笑えばいいの?

「まぁ、とりあえずこれからもよろしくってことで……」

「えっ、コイツをこのままここに置くの!?」

 ヴェルネが露骨なほど嫌そうに言った。
 「ただのデク人形」であれば気にも止めなかっただろうが、自我を持って動き出してしまったデク人形が歩いていたらたしかに怖いだろう。

「むしろコイツを捨てたら祟られそうじゃないか?俺が住んでたとこにもそういう都市伝説があって、捨てられた人形が怨念によって動き出して元の持ち主のところに――」

「やめてやめろやめなさい。あたしそういうのホンットにダメなの……!」

「魔物は普通に倒せるのに?」

 俺の返しにヴェルネは「何言ってるの?」と言いたげに眉をひそめて見返してくる。

「……魔物は動物と同じ括りでしょ?」

 ……割とグロテスクな見た目をしたのが多いと思うのだが、それとこれとでは別のようだ。

「だったらこのデク人形も魔物の括りとして考えればいいんじゃないか?姿はデク人形だし、突然消えて現れるってわけでもないみたいだしな」

「うー……」

 ジト目でデク人形を見るヴェルネ。
 そのデク人形の目の前にルルアが値踏みをするかのように下からジロジロと見上げる。

「ルルアはいいと思うなー。こうやって人っぽく動くのってなんだか可愛いもの」

「俺は……どっちでもいいですけど、タコ殴りはもう勘弁してほしいですね……」

 ルルアが笑ってそう答え、ジルも苦笑いで言う。

「じゃ、多数決で決まりだな」

「どっちにしても捨てる気なかったでしょ、あんた」

 ヴェルネの指摘に俺は言葉では返さず、ただニッと笑い返した。
 すると俺の耳が気になったらしくジッと見てくる。

「……今気付いたけど、あんたあの子と同じものを耳に付けたのね」

「ああ、まぁな……やっぱり似合わないか?」

 予想だと「えぇ、変よ。オシャレするなら武器持ってた方が似合うんじゃない?」みたいなことを言われると思っている。
 だけど彼女の口からは予想外の言葉が出てきた。

「ふーん……別にいいんじゃない?ルルアとお揃いってのがちょっと腹立つけど」

 それだけ言うとヴェルネは屋敷の方へ振り向き、少しだけ歩いて止まるとデク人形を一瞥してまた足早にその場から立ち去って行った。
 「別にいいんじゃない」か……なんでだろうな、下手に褒めてこようとする言葉より嬉しい気がするのは。
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