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この出会い方は予想外
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「おかげさまで助かりました、ありがとうございます!ワタクシ、この商館の責任者をしておりますフォストと申します」
そう言って深々と頭を下げる司会者フォスト。どうやらここの責任者らしい。
あの後、眠らされた人間の男は連れて行かれ、その騒動で競りは一時中断となってしまっていた。
ちなみに結果的に俺が助けた形となった少女からも顔を赤くされながらちゃんとお礼を言われた。
そして俺はというと、助けたフォストからもお礼をしたいとのことで商館の裏方に連れて来られている。
「おう。あの状況じゃ誰も動けなかったろうし、一応同族だしな。同族がバカやったら同族が止めなきゃと思っただけだ」
「いえいえ、そんな謙遜をなさらずども……あなたが動いて下さらなければもっと酷い被害が出ていたはずですから。つきましてはそのお礼のお話になるのですが、私共が取り扱う奴隷の中からお選びしていただこうかと思っております」
フォストはそう言うとゆっくりと歩き出す。
「……つまりお礼代わりに奴隷を差し出すと?元々奴隷なんて買うつもりはなかったんだがな……」
「金額に関しては心配には及びません。助けていただきご迷惑をおかけしてしまったお礼とお詫びということで、どの奴隷も一つ無料とさせていただきます。ああ、ただあまりに高額な奴隷となると難しいので、そちらは値引きという形にさせてもらいますが……」
ちゃっかりしてる辺りコイツも商魂逞しい。
というか俺が躊躇してるのは金額が問題じゃないんだけど……どうしたものか。
「奴隷なんて考えたことなかったからなぁ……いきなりくれるって言ってもどうしたらいいか」
「難しく考えることはありませんよ。なんせ今あなたの目の前にいる奴隷たちはもれなくほぼ全員無料なのですから!可愛いと思ったもの、強そうだと感じたもの、あなたの感性に従って選べばよいのですよ」
笑顔で囁くようにそう言うフォスト。人を誘導するのが上手いな。
しかし本当に困った。
何でもいいと言われても俺は居候の身。仮に魔物を貰ったとしても、それを持ち帰った時にヴェルネになんて言われるか……
それにこれから色んな場所を見て回ろうかという時にペットを飼い始めてもまともな飼育ができない。ヴェルネたちに面倒を見てもらうなんて以ての外。
だけどそのお礼を断れそうな雰囲気でもない……だとしたら選択肢は絞られてくる。
人型。
魔物以外に取り扱っている人間や魔族を貰い、自分で世話をさせれば何も問題は無い。そう、何も問題は無いじゃないか!
若干自分でも何を考えているのかわからなくなってきた辺りで無理矢理そういう結論を出して決める。
「ならとりあえず魔物みたいなペットになるやつ以外を見せてくれ」
「ペットになる動物以外ですね、かしこまりました。ではこちらへ……」
フォストに誘われて今いる場所から更に奥へと進む。
ちゃんと魔物と人型は区分けされているようで、徐々に魔族や人間、恐らく獣人らしき種族が増えてくる。
ただやはり軽犯罪とはいえ罪を侵した者たち。人相もだが雰囲気が良くない。
さっきの男と同じく人を殺しかけた、もしくは殺したかのどちらかだろう。
この中にはきっと人間を殺して魔族領に逃げて捕まった奴もいるはずだ。だから「軽犯罪」で済んでる。
単なる動物を殺した奴と人を殺した奴じゃ雰囲気が違うから一目でわかる。
「人間や魔族に調教はしておりませんが、どちらにしても主人に歯向かわないよう購入時には契約印を施すので心配する必要はございませんよ」
俺の心配を読み取ったかのような説明をするフォスト。
それに納得しつつ、ある程度進んだところでフォストが止まる。
「どうでしょう、ここまででビビッときた奴隷はおりますかな?」
「……いいや、いない。正直言って何かをしてもらう奴隷って俺には必要ないんだよな。掃除も料理も誰かにやってもらう必要がないし、戦闘にも手伝いは必要ないしなぁ……」
「すると……『夜』の方で?」
フォストは濁して言ったが、その意味は理解できたので首を横に振る。
「それも必要ない」
「ふむ、だとしたらどうしましょうか……」
フォストが顎に手を当てて「特殊な技能?いや、そうすると専用の場所を持った方でないと……聞いてみるか?」などと悩み呟く。
その間に俺は一応奴隷のいる周囲を見渡し、奥にまだ道があるのを見つける。
「……なぁ、もう奴隷はここまでなのか?あの奥には……」
「え?ああ、あの奥からは先程言った『高額の商品』となります。無料の奴隷はここまでとなりますがご覧になりますか?」
俺はそれに頷き、念の為見せてもらうことにした。
だがそこからは俺の予想を超えていた。
最初に見たのは巨大な蛇。とぐろを巻いている状態でも十メートルはゆうに越し、もし頭から尻尾までを測ったのならばどれだけになるのかという巨体。
「まずはこちら『オールドスネーク』。歳を重ねる毎に体長は成長し続け、今の推定年齢は五百歳以上とされています。毒はありませんが獰猛で、食われた者はたった数十秒で胃液に溶かされてしまうとか……金額は通常金貨五十枚」
値段を聞いてヴェルネが言っていた普通の人が貰える金額が多くて金貨一枚になるかどうか、というのを思い出し、たしかにそれが高額だというのを理解できた。
「次にこちら『セイレーン』。有名なので多少知っているかとは思いますが、この者らの歌声には人を惑わせる力がございます。しかしそれは私生活で聞く分には問題なく、リラックスするには最適!金額は四十二枚」
それはたしかに安らぐような歌声のようなものを発し、そのセイレーン自体も人型に近く美しいと感じ、鑑賞用としても十分だというのがわかる。
「まだまだございますよ!『マーメイド』三十八枚、『ワイバーン』五十一枚『ビッグフット』六十四枚などなど……」
次々と紹介してくるフォスト。
ちょっと待って、今なんか凄いのいなかった?未確認生物的なの。
俺が気になったのも軽く流れていき、そして目玉商品と言わんばかりにテンションの上がったフォストが早足に進み、また別室へと移動する。
「本来、コレを見られるのは魔王様くらいなものですが、あなたは命の恩人。今回だけ特別ですよ?、」
そう言ってフォストに連れて来られてたそこはかなり広く、しかし奴隷らしきものは何も居なかった。
だがただ一匹……その一匹がその場を支配するようにそこに居た。
ソレは見上げることをしても全体像が見渡せず、それでもソレが何なのかを異世界初心者の俺でも理解できた。
「…………『竜』」
「そう、『竜』『ドラゴン』、人によっては『神の御使い』など仰る方もいるほどの存在。その人の血のように赤黒く艷めく鱗から『ブラッディドラゴン』と名付けられた竜でございます」
体を丸め、寝息を立てている竜。
その呼吸や身動ぎの一つからすでにクレイジースコーピオンなど足元にも及ばないというのがわかる。
まさか異世界に来て竜という存在とこういう形で出会うことになるとは思わなかった。
「こんなのを取り扱えてるのか、お前らは?」
「普通なら無理でしょうね。竜なんて少し動いただけで村や町を破壊し、本気を出せば国全土がただの荒地になってしまうでしょうから。しかしこの竜は発見した時にはこちらを見つめただけで何もせず、ここに連れて来られることにも抵抗がなかったようなのです」
実力があるのに抵抗をしなかった?温厚な性格なのか……
どちらにせよ、そんなものに手を付けようなんて大した度胸だ。
もちろん「愚か者」という意味で。そういう意味じゃ魔族も、俺の知ってる人間とあまり変わらないように思える。
すると竜から寝息が途絶え、その目がゆっくりと開いた。
「おぉ……お客様は幸運でございます……年に数回起きているかどうかの竜の起床に立ち会えたのですから!」
フォストも滅多に見ない竜の動きに興奮を隠せずにいた。
そして起きた竜は開いた目で俺を見つめる。
『妙な気配を感じると思ったが……異界の人間か』
……喋った。
喋ったぞ、この竜。
しかも俺を見ただけでこの世界の人間じゃないと理解した。
「竜って喋るのか?」
「え……?まさかそんな……何か聞こえたんです?」
『私の声が聞こえるのはお前だけだ、異界の人間よ』
驚くフォストを他所に竜が続けて話す。
すると今まで犬のように身を丸めて寝ていた竜が起き上がる。
『異界の人間、そして比類なき強者よ。お前は何故ここに来た?』
ただ少し動いただけで威圧感を放つ竜。
「ここにいる理由?ただの観光だ」
『違う、この世界に来た理由だ』
竜からそんなことを言われ、俺は少し考えて首を傾げる。
「……そっちは知らん。家に居たはずが、いつの間にか何も無い森の中に放置されちまったからな。なんなら今はこの世界のことを勉強中だ」
『そうか……』
横でフォストが「凄いです凄いです!竜と話せる方なんて私初めて見ましたよ!」なんて興奮しているが、それを無視して話を続ける。
「お前こそなんでこんな場所にいるんだ?さっきコイツから聞いたが、連れて来られることに抵抗しなかったらしいじゃないか」
『……今まで長く生きてきたが私の老い先はもう短い。あと数千年といったところだろう。だが人間やこの世界にいる他の種族の寿命はそれよりも短い。ならば少しでも楽しませるための見世物になってやってもいいと思ったのだ。もちろん無下に扱うようなら暴れるつもりだったがな』
そう言ってゆっくりと、しかし部屋中に重く響くような笑いをする竜。
フォストは驚いて腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
数千年……たしかに俺が聞いても途方もない年数だが、人間に例えればこの竜にとっては五年や十年程度に感じてしまうのか?
「よかったよ、せっかく出会った竜と戦うことにならなくて」
『私もだ。今まで敵に対して恐怖など抱いたことはなかったが、今初めてお前とは戦いたくないと思った。人間も侮れないということか……しかしこうやって出会ったのも何かの縁だ。お前に贈りたいものがある。近くに来てくれ』
竜の言う通り、俺は奴に近寄る。
後ろではフォストが「あ、危ないですよ!」と声をかけてくるがそれも無視。
すると竜は腕を持ち上げ、人差し指を俺に向けてゆっくりと近付けてくる。
鋭く尖ったその爪に貫かれれば大抵の生物は死んでしまうだろう。それが俺の額にコツンと当たり、同時に眩く光る。
「……今のは?」
光が収まったところで質問する。
『見たところお前からは魔力を感じない。魔力を使うための道が開いていないせいだろう。だから私から「加護」を与えた。いつかきっと役に立つ』
体を見回すが、特に力が漲るとかいった現象はない。いつも通りだ。
「ま、何かはわからないが形が無いものならありがたく貰っておくよ」
『ありがとう、友よ……』
「友?」
いつの間にか友達にされていた件について。
『こうやって話したんだ、友人と言ってもよかろう?』
「まるで友達がないぼっち思考の奴みたいだな。別にいいけど……あっ、じゃあその友達になった記念に一ついいか?」
『ん?』
そう言って深々と頭を下げる司会者フォスト。どうやらここの責任者らしい。
あの後、眠らされた人間の男は連れて行かれ、その騒動で競りは一時中断となってしまっていた。
ちなみに結果的に俺が助けた形となった少女からも顔を赤くされながらちゃんとお礼を言われた。
そして俺はというと、助けたフォストからもお礼をしたいとのことで商館の裏方に連れて来られている。
「おう。あの状況じゃ誰も動けなかったろうし、一応同族だしな。同族がバカやったら同族が止めなきゃと思っただけだ」
「いえいえ、そんな謙遜をなさらずども……あなたが動いて下さらなければもっと酷い被害が出ていたはずですから。つきましてはそのお礼のお話になるのですが、私共が取り扱う奴隷の中からお選びしていただこうかと思っております」
フォストはそう言うとゆっくりと歩き出す。
「……つまりお礼代わりに奴隷を差し出すと?元々奴隷なんて買うつもりはなかったんだがな……」
「金額に関しては心配には及びません。助けていただきご迷惑をおかけしてしまったお礼とお詫びということで、どの奴隷も一つ無料とさせていただきます。ああ、ただあまりに高額な奴隷となると難しいので、そちらは値引きという形にさせてもらいますが……」
ちゃっかりしてる辺りコイツも商魂逞しい。
というか俺が躊躇してるのは金額が問題じゃないんだけど……どうしたものか。
「奴隷なんて考えたことなかったからなぁ……いきなりくれるって言ってもどうしたらいいか」
「難しく考えることはありませんよ。なんせ今あなたの目の前にいる奴隷たちはもれなくほぼ全員無料なのですから!可愛いと思ったもの、強そうだと感じたもの、あなたの感性に従って選べばよいのですよ」
笑顔で囁くようにそう言うフォスト。人を誘導するのが上手いな。
しかし本当に困った。
何でもいいと言われても俺は居候の身。仮に魔物を貰ったとしても、それを持ち帰った時にヴェルネになんて言われるか……
それにこれから色んな場所を見て回ろうかという時にペットを飼い始めてもまともな飼育ができない。ヴェルネたちに面倒を見てもらうなんて以ての外。
だけどそのお礼を断れそうな雰囲気でもない……だとしたら選択肢は絞られてくる。
人型。
魔物以外に取り扱っている人間や魔族を貰い、自分で世話をさせれば何も問題は無い。そう、何も問題は無いじゃないか!
若干自分でも何を考えているのかわからなくなってきた辺りで無理矢理そういう結論を出して決める。
「ならとりあえず魔物みたいなペットになるやつ以外を見せてくれ」
「ペットになる動物以外ですね、かしこまりました。ではこちらへ……」
フォストに誘われて今いる場所から更に奥へと進む。
ちゃんと魔物と人型は区分けされているようで、徐々に魔族や人間、恐らく獣人らしき種族が増えてくる。
ただやはり軽犯罪とはいえ罪を侵した者たち。人相もだが雰囲気が良くない。
さっきの男と同じく人を殺しかけた、もしくは殺したかのどちらかだろう。
この中にはきっと人間を殺して魔族領に逃げて捕まった奴もいるはずだ。だから「軽犯罪」で済んでる。
単なる動物を殺した奴と人を殺した奴じゃ雰囲気が違うから一目でわかる。
「人間や魔族に調教はしておりませんが、どちらにしても主人に歯向かわないよう購入時には契約印を施すので心配する必要はございませんよ」
俺の心配を読み取ったかのような説明をするフォスト。
それに納得しつつ、ある程度進んだところでフォストが止まる。
「どうでしょう、ここまででビビッときた奴隷はおりますかな?」
「……いいや、いない。正直言って何かをしてもらう奴隷って俺には必要ないんだよな。掃除も料理も誰かにやってもらう必要がないし、戦闘にも手伝いは必要ないしなぁ……」
「すると……『夜』の方で?」
フォストは濁して言ったが、その意味は理解できたので首を横に振る。
「それも必要ない」
「ふむ、だとしたらどうしましょうか……」
フォストが顎に手を当てて「特殊な技能?いや、そうすると専用の場所を持った方でないと……聞いてみるか?」などと悩み呟く。
その間に俺は一応奴隷のいる周囲を見渡し、奥にまだ道があるのを見つける。
「……なぁ、もう奴隷はここまでなのか?あの奥には……」
「え?ああ、あの奥からは先程言った『高額の商品』となります。無料の奴隷はここまでとなりますがご覧になりますか?」
俺はそれに頷き、念の為見せてもらうことにした。
だがそこからは俺の予想を超えていた。
最初に見たのは巨大な蛇。とぐろを巻いている状態でも十メートルはゆうに越し、もし頭から尻尾までを測ったのならばどれだけになるのかという巨体。
「まずはこちら『オールドスネーク』。歳を重ねる毎に体長は成長し続け、今の推定年齢は五百歳以上とされています。毒はありませんが獰猛で、食われた者はたった数十秒で胃液に溶かされてしまうとか……金額は通常金貨五十枚」
値段を聞いてヴェルネが言っていた普通の人が貰える金額が多くて金貨一枚になるかどうか、というのを思い出し、たしかにそれが高額だというのを理解できた。
「次にこちら『セイレーン』。有名なので多少知っているかとは思いますが、この者らの歌声には人を惑わせる力がございます。しかしそれは私生活で聞く分には問題なく、リラックスするには最適!金額は四十二枚」
それはたしかに安らぐような歌声のようなものを発し、そのセイレーン自体も人型に近く美しいと感じ、鑑賞用としても十分だというのがわかる。
「まだまだございますよ!『マーメイド』三十八枚、『ワイバーン』五十一枚『ビッグフット』六十四枚などなど……」
次々と紹介してくるフォスト。
ちょっと待って、今なんか凄いのいなかった?未確認生物的なの。
俺が気になったのも軽く流れていき、そして目玉商品と言わんばかりにテンションの上がったフォストが早足に進み、また別室へと移動する。
「本来、コレを見られるのは魔王様くらいなものですが、あなたは命の恩人。今回だけ特別ですよ?、」
そう言ってフォストに連れて来られてたそこはかなり広く、しかし奴隷らしきものは何も居なかった。
だがただ一匹……その一匹がその場を支配するようにそこに居た。
ソレは見上げることをしても全体像が見渡せず、それでもソレが何なのかを異世界初心者の俺でも理解できた。
「…………『竜』」
「そう、『竜』『ドラゴン』、人によっては『神の御使い』など仰る方もいるほどの存在。その人の血のように赤黒く艷めく鱗から『ブラッディドラゴン』と名付けられた竜でございます」
体を丸め、寝息を立てている竜。
その呼吸や身動ぎの一つからすでにクレイジースコーピオンなど足元にも及ばないというのがわかる。
まさか異世界に来て竜という存在とこういう形で出会うことになるとは思わなかった。
「こんなのを取り扱えてるのか、お前らは?」
「普通なら無理でしょうね。竜なんて少し動いただけで村や町を破壊し、本気を出せば国全土がただの荒地になってしまうでしょうから。しかしこの竜は発見した時にはこちらを見つめただけで何もせず、ここに連れて来られることにも抵抗がなかったようなのです」
実力があるのに抵抗をしなかった?温厚な性格なのか……
どちらにせよ、そんなものに手を付けようなんて大した度胸だ。
もちろん「愚か者」という意味で。そういう意味じゃ魔族も、俺の知ってる人間とあまり変わらないように思える。
すると竜から寝息が途絶え、その目がゆっくりと開いた。
「おぉ……お客様は幸運でございます……年に数回起きているかどうかの竜の起床に立ち会えたのですから!」
フォストも滅多に見ない竜の動きに興奮を隠せずにいた。
そして起きた竜は開いた目で俺を見つめる。
『妙な気配を感じると思ったが……異界の人間か』
……喋った。
喋ったぞ、この竜。
しかも俺を見ただけでこの世界の人間じゃないと理解した。
「竜って喋るのか?」
「え……?まさかそんな……何か聞こえたんです?」
『私の声が聞こえるのはお前だけだ、異界の人間よ』
驚くフォストを他所に竜が続けて話す。
すると今まで犬のように身を丸めて寝ていた竜が起き上がる。
『異界の人間、そして比類なき強者よ。お前は何故ここに来た?』
ただ少し動いただけで威圧感を放つ竜。
「ここにいる理由?ただの観光だ」
『違う、この世界に来た理由だ』
竜からそんなことを言われ、俺は少し考えて首を傾げる。
「……そっちは知らん。家に居たはずが、いつの間にか何も無い森の中に放置されちまったからな。なんなら今はこの世界のことを勉強中だ」
『そうか……』
横でフォストが「凄いです凄いです!竜と話せる方なんて私初めて見ましたよ!」なんて興奮しているが、それを無視して話を続ける。
「お前こそなんでこんな場所にいるんだ?さっきコイツから聞いたが、連れて来られることに抵抗しなかったらしいじゃないか」
『……今まで長く生きてきたが私の老い先はもう短い。あと数千年といったところだろう。だが人間やこの世界にいる他の種族の寿命はそれよりも短い。ならば少しでも楽しませるための見世物になってやってもいいと思ったのだ。もちろん無下に扱うようなら暴れるつもりだったがな』
そう言ってゆっくりと、しかし部屋中に重く響くような笑いをする竜。
フォストは驚いて腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
数千年……たしかに俺が聞いても途方もない年数だが、人間に例えればこの竜にとっては五年や十年程度に感じてしまうのか?
「よかったよ、せっかく出会った竜と戦うことにならなくて」
『私もだ。今まで敵に対して恐怖など抱いたことはなかったが、今初めてお前とは戦いたくないと思った。人間も侮れないということか……しかしこうやって出会ったのも何かの縁だ。お前に贈りたいものがある。近くに来てくれ』
竜の言う通り、俺は奴に近寄る。
後ろではフォストが「あ、危ないですよ!」と声をかけてくるがそれも無視。
すると竜は腕を持ち上げ、人差し指を俺に向けてゆっくりと近付けてくる。
鋭く尖ったその爪に貫かれれば大抵の生物は死んでしまうだろう。それが俺の額にコツンと当たり、同時に眩く光る。
「……今のは?」
光が収まったところで質問する。
『見たところお前からは魔力を感じない。魔力を使うための道が開いていないせいだろう。だから私から「加護」を与えた。いつかきっと役に立つ』
体を見回すが、特に力が漲るとかいった現象はない。いつも通りだ。
「ま、何かはわからないが形が無いものならありがたく貰っておくよ」
『ありがとう、友よ……』
「友?」
いつの間にか友達にされていた件について。
『こうやって話したんだ、友人と言ってもよかろう?』
「まるで友達がないぼっち思考の奴みたいだな。別にいいけど……あっ、じゃあその友達になった記念に一ついいか?」
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