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奴隷商館
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奴隷……その言葉だけでも良いイメージはないのだが、町中でこれだけ堂々と店を出してるということはここでは合法なのだろう。
気になった俺は近くの店で売っていたお面を買い、その店の中に入っていた。
骸骨っぽい不気味なお面だが顔を隠せるのなら何でもいいだろう。
中に入ってすぐに魔族の従業員から番号を渡されて部屋に案内された。
中は劇団でも開けるくらい広く、すでに多くの魔族が椅子に座っている。
座席は前が見やすいよう段差になっており、正面は大きなステージが広がっている。
俺は誰もいない1番後ろの端にとりあえず腰を下ろした。
時間が経つにつれて入って来る魔族は増え、しばらくすると部屋の中が暗くなり、正面のステージに光りが照らされる。始まるようだ。
「紳士淑女の皆様、お待たせ致しました!これより奴隷市を開始さて頂きます!」
進行役の司会者の男が始めにマイクを持ってそう言うと、会場の中が一気に盛り上がる。
「では皆様ご存知かと思われますが、初めての方のためにまずは説明を。ここでは軽犯罪を侵した犯罪奴隷、借金を背負って返済できなかった借金奴隷、珍しい魔物や他種族の奴隷ペットなどを取り扱っております。適切な奴隷を競り落としてもらえれば戦闘から洗濯、様々な分野を任せることのできるパートナーに出会えるかもしれません。っと、ではその競り落とし方を説明致します」
そこで司会者は咳払いをし、一度言葉を区切る。
「方法は簡単。お手元に配られた数字があると思いますので、その数字をワタクシにら見えるよう挙げてもらい、提示した数字以上を言ってもらいます。そしてお客様の中で一番高い金額を提示した方が晴れて競り落とせます。簡単でしょう?」
話しかけるように説明をする彼の言葉をなるほどと思いながら聞く。
しかし犯罪や借金をして奴隷ね……この世界ではそういう措置なのか。
軽い犯罪であってもその生涯を一生誰かのために使うなんて……相手によっては地獄になるかもしれないな。
そんなことを思ってる間にも話は進む。
「もしお手元に数字をお持ちでない方は今すぐお近くのスタッフにお声掛けください!同じ奴隷は二度と手に入りませんので……では参りましょう!まずは――」
司会者が景気良くそう言って手足に枷を付けた奴隷を紹介していく。
軽犯罪を侵したというだけあって、あまり強そうでも賢そうでもなさそうな顔をした魔族が次々と出されるがあまり競り落とそうという奴はいなかった。
だがそれも次第に変わってくる。
「さて、では次から出てくるのは……魔物!すでに調教されて人を襲わなくなった可愛いから格好良い奴らばかり!では紹介致しましょう――」
司会者が手の平で指し示した先には小さい檻の中に入ったウサギっぽい何かがいた。
黒い一角が額から生えて二足歩行をしたウサギ。
「これはラビットピット、冒険者の中でも有名で駆け出しなどが相手にすることが多いと言われる魔物です!性格は基本的に温厚ですが、一度でも巣に近づいたと認識された者は敵と判断され、獰猛な性格に早変わり!といった恐ろしい魔物……しかしご安心下さい、主人を敵と認識しないよう訓練をさせております故。ではこちらのお値段ですが、ラビットピットの一ヶ月分の食料を含みましてなんと銀貨十五枚!」
銀貨十五枚……それってたしか人一人が一ヶ月働いて貰える金額くらいじゃなかったか?
まぁ、向こうでもペット一匹が安くて十万前後、高ければ数百万にもなるから不思議でもないか。
「さぁさぁ、ラビットピットを手にするのは一体どのお方か……競り落とし開始!」
司会者の合図と同時に会場の周囲から多くの声が上がる。さっきまでと違って凄い盛り上がりだった。
ラビットピットの結果は銀貨三十五枚で競り落とされた。
競り落としたのは豪華な服を着ているお嬢様らしく、かなり喜んでいる様子が窺える。
その後も色んな魔物が次々と競りに出されていき、俺も司会者の説明を一つ一つが勉強になったので有意義な時間と言えた。
そしてそろそろ競りも終盤に入るというところで事件は起きた。
「近寄るんじゃねぇ!」
「うわぁぁぁぁっ!」
男の声と司会者の悲鳴。それはステージの上で司会者が武器を持った人間の男に捕まってしまっていたのだった。
出来事はあっという間で、突然「人間が逃げたぞー!」という声と同時にステージの袖から現れたその男が司会者を捕まえ、首に刃物を突き付けたのである。
どうしてこんなところに俺以外の人間が?
周囲から「キャー!」と甲高い悲鳴が上がり、会場の中がパニック状態になってしまう。
「うるせぇ!いいか、ここから逃げようなんて素振りを見せた奴は今ここで殺す!コイツも殺す!俺は絶対こんなとこから逃げ出して奴隷になんてならねぇ!」
男も興奮した様子でそう言い、武器を振り回す。司会者の魔族もそれが恐ろしくて小さい悲鳴を漏らしていた。
そうか、アイツ奴隷としてここに最初からいたのか。
騒ぎを聞きつけた警備の奴らが扉から入って来るが……
「全員近付くんじゃねえぞ!近付いたらコイツを殺すからな?」
人質を取られていたせいで警備も迂闊に近付けずにいた。
まるで銀行強盗の現場に居合わせちまった気分だな……
「何が奴隷だよ……誰がお前らみたいな気持ち悪い奴らの奴隷になんてなってやるか!そんな化け物のペットに俺は……俺は――」
「うぅ……うえぇぇぇ……」
人間の男の血走った目が泣いてる少女を捉える。ああ、あれはマズイ。
「泣いてんじゃねえ!泣きてえのはこっちの方なのによぉ……それにテメェらの泣き顔を見てるとムカつくんだよ!」
すると人間の男は司会者を突き飛ばし、手に持った剣を振り上げて泣く少女に向かって行く。
その急な展開に会場中はざわめき、いくつもの悲鳴が上がる。
「ひぃっ!?」
「やれやれ……」
人間の不始末は同じ人間が拭わなきゃならんのね。
少女の眼前まで迫ったソイツの前まで飛ぶように移動し、振り上げていた腕を掴む。
「な、いつの間――」
「おちけつ」
ふざけた言い回しをしながら男をその場に組み伏せる。
「ぐあぁっ!? な、なんだテメェは!」
「はっはっは、そんな興奮すんなって。良いことでもあったか、人間さんよ?」
そう言って俺は仮面を外す。
組み伏せられていても向こうから俺の顔くらいは見えているはずだ。
「お前……お前も人間か?そうだよな!?」
俺が同じ人間だとわかった瞬間、まるで希望でも見出したかのようにそう言い始めた。
男の割と大きめな声で俺が人間だと言うことが周囲にバレ、またさっきとは違うざわつきが魔族たちの間で広がる。
「ああ、そうだ。俺は正真正銘人間だよ」
「だったら俺を助けろ!助けてくれよ……俺は奴隷になる人間じゃないんだ……」
最初は叫び、次に懇願する言い方に変わる人間の男。
「助けて」ね……
その心境は本心のようだが事実はどうなのやら。
「そこの司会者」
「ほ、はい!?」
俺に声を掛けられて驚く司会者。
「この人間はなんで奴隷になった?」
「あ、はい……こちらの人間は魔族領に入り、魔族の家族を殺害しようとしていたところを捕まり、奴隷商館で扱うこととなった次第です」
「正当な理由だな。だったら俺がどうこうする理由にはならないな」
「なんでだよ!お前も人間だろ?だったらそれだけで俺を助ける理由になるだろ!」
「ならねぇよ。俺も人のことを言えないが、人を殺そうとした危ない奴を助けると思うか?そもそもなんで俺がこの場にいるか、少し考えればわかるだろ」
そう言うと男の顔から生気が引いていく気がした。
そしてそれは徐々に怒りへと変わり――
「人間を裏切るのか!?」
焦燥混じりの怒りをぶつけてくる男。だがそんな男を哀れとも思わない。
「裏切り?いいや、違うね。俺は魔族の味方をするつもりも人間の味方をするつもりもない。俺が味方をするのは俺の味方をしてくれる奴だけだ。そして何の罪もない魔族を襲うような奴に肩入れする気もない」
「こ、の……ガアァァァァァッ!!!!」
助からないとわかった途端、力づくで暴れ出す男。だが男の力程度では簡単には外れない。
「司会者、こういう時の対策はしてないのか?」
「問題ありません。《微睡みを与え意識を混濁させよ――強制睡眠》」
司会者の魔族が呪文らしきものを唱えると暴れていた男の動きが鈍り、最終的にイビキをかいて眠ってしまった。
これも魔法、か……
気になった俺は近くの店で売っていたお面を買い、その店の中に入っていた。
骸骨っぽい不気味なお面だが顔を隠せるのなら何でもいいだろう。
中に入ってすぐに魔族の従業員から番号を渡されて部屋に案内された。
中は劇団でも開けるくらい広く、すでに多くの魔族が椅子に座っている。
座席は前が見やすいよう段差になっており、正面は大きなステージが広がっている。
俺は誰もいない1番後ろの端にとりあえず腰を下ろした。
時間が経つにつれて入って来る魔族は増え、しばらくすると部屋の中が暗くなり、正面のステージに光りが照らされる。始まるようだ。
「紳士淑女の皆様、お待たせ致しました!これより奴隷市を開始さて頂きます!」
進行役の司会者の男が始めにマイクを持ってそう言うと、会場の中が一気に盛り上がる。
「では皆様ご存知かと思われますが、初めての方のためにまずは説明を。ここでは軽犯罪を侵した犯罪奴隷、借金を背負って返済できなかった借金奴隷、珍しい魔物や他種族の奴隷ペットなどを取り扱っております。適切な奴隷を競り落としてもらえれば戦闘から洗濯、様々な分野を任せることのできるパートナーに出会えるかもしれません。っと、ではその競り落とし方を説明致します」
そこで司会者は咳払いをし、一度言葉を区切る。
「方法は簡単。お手元に配られた数字があると思いますので、その数字をワタクシにら見えるよう挙げてもらい、提示した数字以上を言ってもらいます。そしてお客様の中で一番高い金額を提示した方が晴れて競り落とせます。簡単でしょう?」
話しかけるように説明をする彼の言葉をなるほどと思いながら聞く。
しかし犯罪や借金をして奴隷ね……この世界ではそういう措置なのか。
軽い犯罪であってもその生涯を一生誰かのために使うなんて……相手によっては地獄になるかもしれないな。
そんなことを思ってる間にも話は進む。
「もしお手元に数字をお持ちでない方は今すぐお近くのスタッフにお声掛けください!同じ奴隷は二度と手に入りませんので……では参りましょう!まずは――」
司会者が景気良くそう言って手足に枷を付けた奴隷を紹介していく。
軽犯罪を侵したというだけあって、あまり強そうでも賢そうでもなさそうな顔をした魔族が次々と出されるがあまり競り落とそうという奴はいなかった。
だがそれも次第に変わってくる。
「さて、では次から出てくるのは……魔物!すでに調教されて人を襲わなくなった可愛いから格好良い奴らばかり!では紹介致しましょう――」
司会者が手の平で指し示した先には小さい檻の中に入ったウサギっぽい何かがいた。
黒い一角が額から生えて二足歩行をしたウサギ。
「これはラビットピット、冒険者の中でも有名で駆け出しなどが相手にすることが多いと言われる魔物です!性格は基本的に温厚ですが、一度でも巣に近づいたと認識された者は敵と判断され、獰猛な性格に早変わり!といった恐ろしい魔物……しかしご安心下さい、主人を敵と認識しないよう訓練をさせております故。ではこちらのお値段ですが、ラビットピットの一ヶ月分の食料を含みましてなんと銀貨十五枚!」
銀貨十五枚……それってたしか人一人が一ヶ月働いて貰える金額くらいじゃなかったか?
まぁ、向こうでもペット一匹が安くて十万前後、高ければ数百万にもなるから不思議でもないか。
「さぁさぁ、ラビットピットを手にするのは一体どのお方か……競り落とし開始!」
司会者の合図と同時に会場の周囲から多くの声が上がる。さっきまでと違って凄い盛り上がりだった。
ラビットピットの結果は銀貨三十五枚で競り落とされた。
競り落としたのは豪華な服を着ているお嬢様らしく、かなり喜んでいる様子が窺える。
その後も色んな魔物が次々と競りに出されていき、俺も司会者の説明を一つ一つが勉強になったので有意義な時間と言えた。
そしてそろそろ競りも終盤に入るというところで事件は起きた。
「近寄るんじゃねぇ!」
「うわぁぁぁぁっ!」
男の声と司会者の悲鳴。それはステージの上で司会者が武器を持った人間の男に捕まってしまっていたのだった。
出来事はあっという間で、突然「人間が逃げたぞー!」という声と同時にステージの袖から現れたその男が司会者を捕まえ、首に刃物を突き付けたのである。
どうしてこんなところに俺以外の人間が?
周囲から「キャー!」と甲高い悲鳴が上がり、会場の中がパニック状態になってしまう。
「うるせぇ!いいか、ここから逃げようなんて素振りを見せた奴は今ここで殺す!コイツも殺す!俺は絶対こんなとこから逃げ出して奴隷になんてならねぇ!」
男も興奮した様子でそう言い、武器を振り回す。司会者の魔族もそれが恐ろしくて小さい悲鳴を漏らしていた。
そうか、アイツ奴隷としてここに最初からいたのか。
騒ぎを聞きつけた警備の奴らが扉から入って来るが……
「全員近付くんじゃねえぞ!近付いたらコイツを殺すからな?」
人質を取られていたせいで警備も迂闊に近付けずにいた。
まるで銀行強盗の現場に居合わせちまった気分だな……
「何が奴隷だよ……誰がお前らみたいな気持ち悪い奴らの奴隷になんてなってやるか!そんな化け物のペットに俺は……俺は――」
「うぅ……うえぇぇぇ……」
人間の男の血走った目が泣いてる少女を捉える。ああ、あれはマズイ。
「泣いてんじゃねえ!泣きてえのはこっちの方なのによぉ……それにテメェらの泣き顔を見てるとムカつくんだよ!」
すると人間の男は司会者を突き飛ばし、手に持った剣を振り上げて泣く少女に向かって行く。
その急な展開に会場中はざわめき、いくつもの悲鳴が上がる。
「ひぃっ!?」
「やれやれ……」
人間の不始末は同じ人間が拭わなきゃならんのね。
少女の眼前まで迫ったソイツの前まで飛ぶように移動し、振り上げていた腕を掴む。
「な、いつの間――」
「おちけつ」
ふざけた言い回しをしながら男をその場に組み伏せる。
「ぐあぁっ!? な、なんだテメェは!」
「はっはっは、そんな興奮すんなって。良いことでもあったか、人間さんよ?」
そう言って俺は仮面を外す。
組み伏せられていても向こうから俺の顔くらいは見えているはずだ。
「お前……お前も人間か?そうだよな!?」
俺が同じ人間だとわかった瞬間、まるで希望でも見出したかのようにそう言い始めた。
男の割と大きめな声で俺が人間だと言うことが周囲にバレ、またさっきとは違うざわつきが魔族たちの間で広がる。
「ああ、そうだ。俺は正真正銘人間だよ」
「だったら俺を助けろ!助けてくれよ……俺は奴隷になる人間じゃないんだ……」
最初は叫び、次に懇願する言い方に変わる人間の男。
「助けて」ね……
その心境は本心のようだが事実はどうなのやら。
「そこの司会者」
「ほ、はい!?」
俺に声を掛けられて驚く司会者。
「この人間はなんで奴隷になった?」
「あ、はい……こちらの人間は魔族領に入り、魔族の家族を殺害しようとしていたところを捕まり、奴隷商館で扱うこととなった次第です」
「正当な理由だな。だったら俺がどうこうする理由にはならないな」
「なんでだよ!お前も人間だろ?だったらそれだけで俺を助ける理由になるだろ!」
「ならねぇよ。俺も人のことを言えないが、人を殺そうとした危ない奴を助けると思うか?そもそもなんで俺がこの場にいるか、少し考えればわかるだろ」
そう言うと男の顔から生気が引いていく気がした。
そしてそれは徐々に怒りへと変わり――
「人間を裏切るのか!?」
焦燥混じりの怒りをぶつけてくる男。だがそんな男を哀れとも思わない。
「裏切り?いいや、違うね。俺は魔族の味方をするつもりも人間の味方をするつもりもない。俺が味方をするのは俺の味方をしてくれる奴だけだ。そして何の罪もない魔族を襲うような奴に肩入れする気もない」
「こ、の……ガアァァァァァッ!!!!」
助からないとわかった途端、力づくで暴れ出す男。だが男の力程度では簡単には外れない。
「司会者、こういう時の対策はしてないのか?」
「問題ありません。《微睡みを与え意識を混濁させよ――強制睡眠》」
司会者の魔族が呪文らしきものを唱えると暴れていた男の動きが鈍り、最終的にイビキをかいて眠ってしまった。
これも魔法、か……
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