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吸い寄せられる猫「ダイソン」
しおりを挟む本作最初のエピソードの仔猫たちより以前。
2016年に、「ダイソン」と名付けた黒仔猫がいた。
同じ黒猫だけど、毛色から付けたわけではない。
この仔猫も、吸引力が凄かったのだ。
掃除機メーカーの回し者ではないよ。
つい名付けてしまっただけ。
ダイソンは前エピソードのチャトラやキジトラの兄弟。
4匹の中で最も人懐っこかった仔猫。
この兄弟はみんな膝に乗って甘えてくるけど、いつも真っ先に乗ってくるのがダイソンだった。
彼は膝に乗ってゴロゴロ喉を鳴らしながら寝てしまうので、帰るに帰れなくなったりする。
ダイソンたち兄弟には、別荘地で一緒に暮らす母猫がいる。
母猫は敷地の外へ出かけることが多く、2kmくらい離れた路上を歩いているのを見かけたりもする。
その母猫が一緒にいるとき、4兄弟のうちダイソンだけがする行動があった。
「お、お母さん、お願いきいてくれる?」
「なによ」
そろりそろりと母猫に歩み寄るダイソン。
なんで低姿勢なんだ?
「おっぱい吸……」
「だぁめ!」
どうやらまだ離乳しきれてないらしい。
しかし母猫は許さない。
「おねがい~!」
「だめって言ってるでしょ!」
なんか、プロレスみたいになってるぞ。
母猫はダイソンの頭を前足で抱えるようにしてガブッと噛んでいる。
「ねぇ~、ちょっとだけ~」
「しつこい子ね。だめなもんはだーめ」
制裁を加えた後すぐに離れて水を飲み始める母猫。
そこへ忍び寄るダイソン。
しかし母猫はヒラリと飛びのいた。
「よし! 今のうちに……」
「はぁ、なんであんただけ卒乳しないの」
母猫が庭石の上でくつろいでいるところへ、懲りずに近付くダイソン。
油断した母猫の腹の下に潜り込み、乳を吸い始めた。
すると母猫はまた飛びのいて、敷地の外へ走り去ってしまった。
多分、ダイソンがしつこく吸い付くから、母猫は敷地の外に出るんだろう。
母猫に逃げられて、しょげるダイソン。
つれなくされると、必ずこちらに来て甘える。
兄弟の中で一番の甘ったれは、卒乳することはなかった。
母猫がいないときは、人の後をついて回ったダイソン。
作業を終えて腰を下ろすと、隣に座る。
そんなダイソンが、ある朝いなくなった。
どこへ行ったんだろう?
探すあても無いので、帰ってくるのを待った。
1週間以上姿を見せなかったダイソンは、戻ってきたときには衰弱してフラフラになっていた。
片方の前足が押し潰されたようになっていて、かなり日数が経つのか干からびている。
そんな状態でも、ダイソンは甘えてすり寄ってきた。
慌てて抱き上げて車に乗せて、病院へ連れて行ったけれど、治療にはならず。
ダイソンはレントゲンを撮っている間に、心臓が止まったと獣医師が告げた。
おそらく交通事故に遭い、骨折して痛くて隠れている間に、前足は壊死したのだろうとのこと。
前足は肺に近いので、壊死したところから肺へと細菌が広がり、肺炎を起こして死に至ったらしい。
見せてもらったレントゲンは、肺の中が真っ白になっていた。
瀕死の状態でも甘えてすり寄ってきたダイソン。
母猫を追いかけて道路に出てしまったのかもしれない。
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