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微笑む仔猫「チャトラ」

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 その仔猫は、いつも微笑みかけてきた。
 2016年に餌やりをしていた別荘地にいた猫の名は「チャトラ」。

 また毛色そのまんまやんって?
 それは気にしない方向で。
 この猫は、前エピソードのキジトラの兄弟だ。

「いいお顔は?」と話しかけると、ニコッと笑うように目を細める。
 画像はガラケーで撮影したものなので、画質は悪いけど思い出として残している。

 


 2016年の春生まれ。
 別荘地に居着いた野良猫13匹のうち1匹。
 ここの仔猫は8匹いて、その半数にあたる4匹が人懐っこかった。
 チャトラとキジトラの他に、黒猫2匹を入れた4兄弟が人懐っこい猫。

 餌やりに行くと駆け寄ってくる4匹。
 車に寄ってくるので危ないと思い、別荘地には駐車せずに付近の無料駐車場に車を停めるようにしたら、みんな揃ってそこまで迎えに来るようになってしまった。

 


 無料駐車場から餌場がある別荘まで20mくらい。
 チャトラたちは餌やり人が駐車場に車を停めて歩き出すと、すぐ気付いて走ってくる。
 お尻をフリフリしながら、先導するように前方を歩いて行く。

 可愛いけど、できれば道路には出てこないでほしい。
 この辺りは信号が無いからか、スピードを出す車が多い。

 あるとき1台の車が、猫がいるのを知りながら、わざと加速した。
 猫たちは道路脇にいたので、事故にはならなかったけど。
 レンタカーだったので島の人ではないのだろう。
 不慣れな道で、あの運転はダメだと思う。
 この辺りにはイノシシが出るから、ぶつかったら車も無事では済まないよ?

 


 乱暴な運転のレンタカーに不安を感じた数日後。
 ある朝餌やりに行ったら、チャトラが別荘地の入り口付近で倒れていた。
 鼻と口から血が出ていて、呼びかけても撫でても反応は無い。
 その身体は、死後硬直が始まっていた。
 夜の間に交通事故に遭ったらしい。
 笑顔が可愛い仔猫は、大人になれずにこの世を去ってしまった。
 この兄弟で、1歳を超えて今も生きているのは、キジトラだけ。
 別荘地にいた別の兄弟も、生き残って大人になれたのは1匹だけだった。
 猫はたくさん子供を産むけれど、野良の子が大人になるまで生きられる確率は4分の1くらいなのかもしれない。

 
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