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第5章:黒髪の少女

第43話:生きる許可

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「もしよかったら、どうして死ななきゃいけなかったのか、教えてもらえるかな?」

エカはとりあえず事情を聞いてみる事にした。

部屋には入らず廊下からそっと見守るパーティメンバーと王様も、会話はエカに任せて静まり返っている。
医務室の先生も出入り口に佇んで、エカと少女の会話を静かに見守っていた。

「友達だと思ってた子たちから、死ねって言われたの」

女の子は、学校で虐められてたらしい。

「毎日、靴箱に紙が入っていて、死ねって書いてあったし、囲まれて言われたりもしたよ」

女の子がそう言われる理由は知らないけど、酷い話だと思う。

「クラスの子には無視されるし、先生も知らないフリするし、パパとママは忙しいから後にしてって言うから話せなかったし、もう死んじゃおうって思って橋から川へ飛び降りたの」

元の世界には、女の子の味方は1人もいなかったみたい。

「なのに、落ちたのは川の中じゃなくて雪の中で、凄く寒くて…そこからどうなったか、よくわかんない」

ボクの力で復活させた時に死の原因は分ったけど、女の子は溺死じゃなくて凍死だった。
元の世界で落下の途中に異世界転移したんだね。

「………」

女の子の話を聞いてるエカが、動揺していつもの変顔になったけど、女の子は床を見てるから気付かなかった。

「きっと雪の中で凍えて死ねたんだね。ちゃんと死んだから、もう虐められないよね?」

女の子が見詰める床に、新たな涙の滴がポタポタと落ちる。

「うん。君はちゃんと出来たよ」

エカは慎重に言葉を選んだ。

「だから、この世界で幸せになろうよ」
「幸せ…?」

そこでようやく女の子が顔を上げて、こちらを向いた。

「元の世界で虐められていた君は死んだ。これからは、この世界で楽しく生きていいんだよ」

エカはそっと、女の子に片手を差し出す。
女の子は今まで殴られたりしていたのか、ビクッとして少し後ずさった。

「大丈夫、ここには君を虐めるヤツはいない。もしも現れたら、俺の魔法でブッ飛ばしてやるよ」

手を怖がると分ったエカは、代わりに長いシッポを女の子の方へ伸ばす。
赤い毛並みの猫シッポを、少女は不思議そうに眺めた。

「猫ちゃん…魔法、使えるの?」
「うん」

柔らかい猫毛に覆われたシッポに心惹かれたらしく、女の子はそ~っと近付くと、手を伸ばして撫でた。
エカはシッポで女の子の頬を撫でてみた。

「フフッ、くすぐったい…」

初めて、女の子が笑みを見せる。

「わたし、この世界にいてもいいの?」
「うん」
「わたしがいる事を、嫌がる人はいない?」
「いないよ」

頬に触れるシッポに手を添えて、女の子は確認するように聞く。
エカはその問いに、微笑んで答える。

「わたしは、この世界で生きていいのね?」

少女が求める答えが何か、エカは気付いた。

「俺は、君に生きてほしいと思うよ」

それは、少女にとって初めて聞く言葉だった。
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