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第12話:静寂と怯え
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(……こういうのって、苦手だな……)
静まり返る人々に、頬が引き吊るのを感じつつ、リオは背後にいるエレアヌに助けを求める様な目を向けた。
「あちらの空いている席へどうぞ」
すぐに理解し、ほっそりした片手が広間の左端にある空席を指し示した。
視線という名の嘴につつかれているような気分で、リオはそちらへ歩いてゆくと、木の椅子に両手をかけて引いた。
(何も静まり返らなくたっていいのに)
ガタンという音が、妙に大きく聞こえる。
少し遅れてエレアヌが隣の椅子を引いたのが、せめてもの救いだった。
ほどなくして、一人の若い女性が、丸いパンとシチューに似た料理を木の盆に乗せて運んでくる。
しかしその表情は硬く、両手は微かに震えていた。
(やっぱり僕が怖いのか)
リオが溜め息をついた僅かな動きに反応して、少女のようにも見える女性はビクッと身を竦め、盆を落としてしまった。
「も、申し訳ありません!」
悲鳴に近い声で言うと、彼女は慌てて食器を拾い始める。
けれど陶磁器に似た椀の破片で指先を切ってしまい、短い悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
見るに見兼ねて手伝おうとしたエレアヌより一瞬早く、リオは椅子から離れて少女の隣に膝をついた。
「あ、スッパリ切っちゃってる。早く手当てしておいでよ。これは僕が片付けるから」
怯える少女を気遣い、リオはわざと明るく言って、割れた食器を拾い始めた。
そんな彼を、少女も周囲の人々も唖然として見つめる。
「あのっ、わ、私、自分で片付けますから…!」
引き吊った声で言って、再び破片を拾おうとする少女の手を、リオは軽く掴んで止めた。
少女が、微かな悲鳴を上げて身体を震わせる。
「いいって。手当てが先だよ」
リオが掴んだ手首から、少女の震えが伝わる。
その少し上腕には、衣服の袖に隠れているケロイド状の傷痕が在るのが見えた。
しかしリオは、それに気付かぬふりをした。
「でも、長の転生者がこんなこと…」
「そんなの関係ない」
リオはどうにかして相手を安心させようと、精一杯の笑みを向ける。
「え…?」
大きな目を真ん丸に見開いた少女には、黒髪の少年の顔に一瞬、懐かしい人物の笑顔がダブッて見えた。
「身分なんかどうでもいい。怪我をした人は手当てをしに行く、手の空いてる者は食器を片付ける、そんなの当然だろ?」
人なつっこい笑顔で言うと、リオは少女の腕を離した。
「さあ、行きなよ」
それでも少女が行こうとしないので、穏やかな眼差しで自分と少女とを見ていた淡緑色の瞳をもつ青年の方を振り返る。
「エレアヌ、この人の手当てを…」
「分かりました」
黄金の髪を揺らして立ち上がると、エレアヌは少女の手を引いて大広間から出て行った。
あとに残り、独りで食器を拾うリオを、白き民達は放心した様に見つめていた。
静まり返る人々に、頬が引き吊るのを感じつつ、リオは背後にいるエレアヌに助けを求める様な目を向けた。
「あちらの空いている席へどうぞ」
すぐに理解し、ほっそりした片手が広間の左端にある空席を指し示した。
視線という名の嘴につつかれているような気分で、リオはそちらへ歩いてゆくと、木の椅子に両手をかけて引いた。
(何も静まり返らなくたっていいのに)
ガタンという音が、妙に大きく聞こえる。
少し遅れてエレアヌが隣の椅子を引いたのが、せめてもの救いだった。
ほどなくして、一人の若い女性が、丸いパンとシチューに似た料理を木の盆に乗せて運んでくる。
しかしその表情は硬く、両手は微かに震えていた。
(やっぱり僕が怖いのか)
リオが溜め息をついた僅かな動きに反応して、少女のようにも見える女性はビクッと身を竦め、盆を落としてしまった。
「も、申し訳ありません!」
悲鳴に近い声で言うと、彼女は慌てて食器を拾い始める。
けれど陶磁器に似た椀の破片で指先を切ってしまい、短い悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
見るに見兼ねて手伝おうとしたエレアヌより一瞬早く、リオは椅子から離れて少女の隣に膝をついた。
「あ、スッパリ切っちゃってる。早く手当てしておいでよ。これは僕が片付けるから」
怯える少女を気遣い、リオはわざと明るく言って、割れた食器を拾い始めた。
そんな彼を、少女も周囲の人々も唖然として見つめる。
「あのっ、わ、私、自分で片付けますから…!」
引き吊った声で言って、再び破片を拾おうとする少女の手を、リオは軽く掴んで止めた。
少女が、微かな悲鳴を上げて身体を震わせる。
「いいって。手当てが先だよ」
リオが掴んだ手首から、少女の震えが伝わる。
その少し上腕には、衣服の袖に隠れているケロイド状の傷痕が在るのが見えた。
しかしリオは、それに気付かぬふりをした。
「でも、長の転生者がこんなこと…」
「そんなの関係ない」
リオはどうにかして相手を安心させようと、精一杯の笑みを向ける。
「え…?」
大きな目を真ん丸に見開いた少女には、黒髪の少年の顔に一瞬、懐かしい人物の笑顔がダブッて見えた。
「身分なんかどうでもいい。怪我をした人は手当てをしに行く、手の空いてる者は食器を片付ける、そんなの当然だろ?」
人なつっこい笑顔で言うと、リオは少女の腕を離した。
「さあ、行きなよ」
それでも少女が行こうとしないので、穏やかな眼差しで自分と少女とを見ていた淡緑色の瞳をもつ青年の方を振り返る。
「エレアヌ、この人の手当てを…」
「分かりました」
黄金の髪を揺らして立ち上がると、エレアヌは少女の手を引いて大広間から出て行った。
あとに残り、独りで食器を拾うリオを、白き民達は放心した様に見つめていた。
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