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第11話:中身が似ている

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 「す、すいませんっ」
 「構いませんよ」
  恥ずかしさに赤面して謝るリオを見て、美貌の青年は穏やかに微笑んで立ち上がる。
  それから、ぽつりとこう言った。
 「似てますね」
 「え?」
  リオはキョトンとして、エレアヌの顔を見上げた。

  二人の身長差はかなりあり、並んで立つとリオの目の高さにエレアヌの肩がある。

 「リュシア様も、不器用な方でしたから」
  そう言って、若草色の瞳の青年は、遠い日を想う様な笑みをリオに向ける。
 「貴方を見ていると、少年時代のリュシア様が帰ってきたような気がします」
  エレアヌの目には、青銀の髪と瑠璃色の瞳をもつ少年の姿が、リオに重なって見えた。

  前世と現世、二つの顔は実際あまり似てはいない。
  リュシアの方が彫りが深く、やや切れ長の目であったし、頬から顎にかけての輪郭は、リオの方が少しふっくらしていた。

  それでも、緑の賢者と呼ばれるエレアヌには、双方の本質が同一のものだと判る。
 「さあ、そろそろ広間の方へ行きましょう。食事の用意が出来ていますから」
  ふと我に返ったように言うと、彼はリオを導いて、食堂の代わりとなっている場所へと歩き出した。


 ラーナ神殿では、四~五〇人の白き民と光・地・水・風・火の五人の神官が、岩の様に大きな水晶を置いた祭壇のある大広間で食事をとる。
  もともと、祭事がある度に人を集めて宴を開いていたという神殿には、百を超す数の椅子や、十人で一つの長方形のテーブルなどが常備されていたらしい。
  料理を作る者は決まっていて、若者や年輩者の中から、性別を問わず選ばれる。

 「『みんなそれぞれ得意分野を生かして共に暮らせばよい』というのが、リュシア様の方針でした」
  大理石に似た滑らかな廊下を歩きながら、エレアヌは言う。
 「それでここの料理は、それを得意とする者が作ってくれています」
 (……案外、エレアヌも上手かったりして……)
  常に穏やかな印象を与える、例えるならば白鳥を思わせる優し気な顔を見上げて、リオはそんなことを思う。
  寝台を整えた手さばきは、かなり慣れたものであった。文句を言いながらリオの布団を片付けていた母以上に。
  もしかしたら、ベッドで寝起きする習慣の人々は、みんなベッドメイクが上手なのかもしれないが、リオにはエレアヌが特別手際が良いように思えた。

 「こちらです」
  開いたままになっている大きな木戸の横で立ち止まり、エレアヌは上品な仕草で片手を上げ、先に入るよう勧めた。
  大広間の中から、白き民達の賑やかな話し声が聞こえてくる。
  だが、リオが一歩入った途端、人々の声はピタリと止んだ。
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