【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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三年生

121 レオナルド殿下の進む道 ※レオナルド視点

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「アーサー様はオリビア様とお話しをしたことで、かなり落ち着かれたご様子ですわ」

青い瞳をキラキラ輝かせてそう報告するディアナは、今日も素晴らしく可愛い。

「それは良かった」

つい頬が緩みそうになるのを引き締めて返事を返す。

ディアナの報告を受けてカルロスも穏やかな笑みを浮かべて言った。

「国王陛下と宰相にも伝えてきたけど、自分の気持ちだけじゃなく、オリビア嬢の気持ちも考えるようになってたよ。おかげで執着をかなり抑えられている」

「朗報だな」

自身で執着を抑えられるようになれば、あの首輪をつけなくて済むかもしれない。

「ただ…」

ここでカルロスが困った顔をした。

「オリビア嬢はアーサー殿下との再婚約は望んでいないんだ。アーサー殿下はそのことを理解した上で、自分から首輪の装着と北の離宮への幽閉を希望してるんだよ」

「何でそうなる」



オリビアとアーサーの話し合いから一ヶ月。

応接室を飛び出したオリビアと探しに行ったアーサーが手を繋いで戻ってきたのを見た時に、二人の関係が修復したんだろうと喜んでいたのに。

何故振り出しに戻るんだ。


「ユラン、どういうことだ」

オリビアの兄であるユランを見ると、いつもと変わらない無表情で言った。

「オリビアは魔道具師になりたいのです。アーサー殿下と婚約するとということは、王子妃になるということです。王子妃として表に立つ立場になれば魔道具師にはなれないでしょう」

「待て。オリビア嬢はアーサーより魔道具を取るということか?」

「その通りです」

「オリビア嬢はハイベルグ公爵令嬢だぞ」

「そうですね」

「魔道具師になるのか?」

「先程からそう申し上げています」


公爵令嬢が王子妃を蹴って魔道具師になる。


「それは…いいのか?」

「いい悪いではありません。オリビアがそうしたいと望むのなら、私も父も全力でオリビアを支えるのみです。
それに、オリビアとアーサー殿下が婚約した理由だった、シュトレ派とハイベルグ派のバランスを取る必要は無くなっています。
シュトレ公爵家は中央議会に戻りませんし、シュトレ強硬派の粛正で派閥の力は落ちています。寧ろオリビアが王子妃になると、ハイベルグ派が強くなりすぎてしまいます」

ユランは立板に水が流れるようにツラツラと述べていく。

「なにより、幼い頃から学園の生徒でも頭を悩ますような課題をさせられたり、少しの失敗をあげつらって暴言を浴びせるような王子妃教育に四年も耐えたのですから。
これからは公爵令嬢としてではなく、オリビア自身の幸せを一番に考えてやりたいのです」

「ユラン様…」

ユランの言葉に、何故かディアナが感動して涙を浮かべている。


アーサーの為にも何とかしてやりたいところだが、今オリビアに対して強硬な手段を取るのは良くないだろう。

目の行き届かなかった王子妃教育やアーサーの執着のせいで、オリビアを傷付けハイベルグ公爵家に負担をかけてしまったのは事実だ。


だとしたらアーサーは幽閉するしかないのか…。

いっとき見えてしまった希望が閉ざされ、重い気持ちになる。


「レオナルド様」

ディアナが声をかけてきた。

「何だ」

「昨日シェリル様とご一緒にオリビア様のお気持ちを確認しましたの。オリビア様はご自分が再婚約を拒むことで、アーサー様が北の離宮に幽閉されると心を痛めていらっしゃいました」

「だったら…」

ディアナは首を横に振った。

「オリビア様は王子妃になるのが嫌なのです。考えただけで辛く苦しかった王子妃教育を思い出してしまうそうなのです。その時助けてくれなかったアーサー様や王家への信頼も取り戻せていませんわ。
それに、魔道具師になりたいという夢を叶えるには王子妃という立場は足枷にしかなりません。だから再婚約を拒まれているのです。
大切な幼馴染であるアーサー様のことを何とも思っていないわけではないのです」

ディアナがその美しい青い瞳を真っ直ぐに私に向けた。

「アーサー様が、王族籍から抜けることは可能でしょうか?」

「「「は?!」」」

私とユランとカルロスの声が被る。

「シェリル様が仰ったのです。アーサー様が王子じゃなくなればいいんじゃないかと。王族でなくなれば執着軽減の首輪をつけることも出来ますし、それにより感情制御が安定すれば王都に留まることができますわ。
オリビア様も、付き纏わなければ以前のように幼馴染として側にいるのは構わないと仰ってくれています。婚約は…まだ考えられないそうですが、そこはアーサー様の努力しだいです」

ディアナの言い分にユランが顔を顰める。

「王族という立場を簡単に辞めることなど…」

「いや待て!」

私は思わずユランの言葉を遮った。


腹違いとはいえアーサーは可愛い弟だ。
生涯出ることの叶わない北の離宮に幽閉なんてしたくない。


「ユラン」

「……はい」

「父上とアーサーと三人で話したい。調整してくれ」

「しかし…」

私は逡巡するユランに目を向けた。

「アーサーは北の離宮に幽閉されたら二度と日の目を見ることはない。少しでも普通に生きられる道があるなら、その可能性を捨てたくないんだ。
それに、王家の不手際で振り回してしまったオリビアの夢も応援してやりたい」

上に立つものとして、情に振り回されている私は失格かもしれない。
それでも諦めたくない。

そう思ってユランを見ていたら、いつの間にかディアナが私の隣りに立っていた。

「ユラン様、アーサー様が幽閉されたらオリビア様のお心にも影が差しますわ。オリビア様の為にも、どうかご理解頂けませんか?」

ユランは困ったようにディアナと私をみていたが、ふと、そのブルーグレーの瞳を細め膝を折った。

「ディアナ殿下のご随意のままに」





「ユランが納得してくれて良かったね」

カルロスが気楽な声で言う。

「ディアナに臣下の礼をとっていたぞ。私の側近なのに」

何となく納得いかない。

「それに、大変なのはこれからだ」

父上と母上は説得出来る。
側妃もアーサーのためなら否とは言わないだろう。

問題はいまだ古い考えに凝り固まった者が多い中央議会の爺共だ。
奴等はアーサーを幽閉するくらいなら、オリビアに勅命を出して王子妃にしろと言っているのだ。

だが、現状でそんな勅命を出し結婚させても、二人は幸せにはなれないだろう。

アーサーが王族を抜けるとしても反発はあるだろうが、どうせ反発されるのなら、少しでも二人が幸せになる道を選びたい。


「オリビア嬢への風当たりが強くなるかもしれないね」

カルロスが困ったように頷く。

「議会も少しずつ若い世代に入れ替えてはいるけどまだまだだしね。でも、アーサー殿下の処遇とオリビア嬢の夢を叶える為には、ここが頑張りどころかな」

父上の代になってから、緩やかに、穏やかに、少しずつおこなわれてきた世代交代と意識改革。


「身分や男女差を完全に無くすことは出来ないが、能力のあるものが潰される世界であってはならない」

私がそう呟くと、カルロスが嬉しそうに微笑んだ。


これは異例の若さで魔法騎士隊長に上り詰め、ユランの父である宰相と魔術師団長であるカルロスと共に、国王となった父を支えるはずだったフェリックス・シュトレの言葉だ。

エルダーの父であるかの人は、文武両道、才色兼備、清廉潔白の素晴らしい人物だったと言われているが、実際は婚約者だったフローラ・キャンベル伯爵令嬢に剣の勝負で負けっぱなしだった上、その婚約者に捨てられてしまった可哀想な男だったと父上が笑いながら教えてくれた。

恋というよりは憧れをもって崇めていた婚約者が、自分より実力があるのに騎士になれなかったことに憤り、自分との婚約を解消し格下の男爵家に嫁いだことで実の弟に悪様に罵られたことに憤慨した。

そして、身分や男女差のない世の中を目指したいと、父上にシュトレ公爵家の中央議会入りを願ったのだそうだ。


「フェリックスの想いを、君が引き継いでくれるのは私達にとって僥倖だよ。レオナルド殿下」

カルロスが私を見て目を細める。

フェリックス・シュトレが亡くなったのは、エルダーが二歳、私が四歳の時だった。
父上と宰相とカルロスは、大切な幼馴染であったフェリックスの意思を引き継ぐことを約束したのだという。

だだ、長い時間がかかることが予想された。

我が国だけではない。
大陸全体に染み付いた、昔ながらの価値観を一朝一夕で変えることは出来ない。


大陸と海を隔てた女性上位思想のバレンシア王国から、私の婚約者であるディアナを迎えたのも、王宮の内側から女性に対する考えを変えたかったからだと、この前父上に打ち明けられた。


「ディアナ殿下の夏休みが終わってからの活躍は目を見張るものがあるね。シェリル嬢の影響かな」

カルロスの言葉に思わず苦笑いが出る。

「シェリル嬢の影響と考えると若干不満だが」


父上達はディアナに女性の権利について訴えて欲しかったのだが、予想に反してディアナはメネティス王国の風習を学び、自分を変え始めた。

愛する私に合わせようとしてくれていたのだ。

父上達もそんなディアナを微笑ましく思ってしまいそのままにしていたそうだが、ここにきて状況が変わった。

シェリル嬢の存在だ。

女性の身でありながら、魔術師団に入りたいと奮闘する彼女は、フェリックス・シュトレの、父上達の願いを実現するための起爆剤になりうる人物だった。

そして夏休み、私の知らないところで何があったのか、ディアナが突然覚醒した。

女性だけの騎士隊を作りたいと言い出し、中央議会の爺共、魔法学園の学園長や教師を説得し合同遠征実習での女性だけのチームを実現させたのだ。

公爵令嬢にも関わらず魔道具師になりたいと夢見るオリビアも、新しい時代を作る要となってくれるかもしれない。

ここに来て、時代の流れが変わるのが目に見えるようだ。



窓の外に目をやると、ディアナの瞳のような澄んだ青空が見えた。


ディアナを愛しく思えば思うほど、後ろに庇って守りたくなった。

小さくて可愛い私のディアナ。
世の中の汚いものなど見せず、私の腕の中で幸せに笑っていてくれたらいいと思っていた。



でも……


ディアナは私の隣りに立ちたいと言ってくれた。

私が辛い時は支えたいと言ってくれた。


私はひとりじゃない。
ディアナが隣りにいてくれる。

ひとりで進むのだと思っていた王としての道を、ディアナが共に歩いてくれるのであれば、私はどんな苦難にも立ち向かえるだろう。



窓から目を離しカルロスのほうへ向き直ると、ウィルと同じ黒い瞳が私を見ていた。

「メネティスの王族は、愛するものが出来て初めてその真価を発揮する」

カルロスはそう言うと、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「ディアナ殿下に来てもらって良かったよ」
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