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夏休み
80 歓迎パーティー
しおりを挟むアマーリエ様達がマクウェン領に来てから六日たった。
つまりこちらの世界で一週間。
今日は我が家で近隣の貴族家や有力者を集めての、アマーリエ様達の歓迎パーティーがおこなわれる。
とはいえスタンピード真っ最中なので、招待客二十人程度の小規模なものだ。
やる必要あるのかと聞いたら、王族をお迎えしておいて歓迎パーティーをしないという選択肢はない!と、近隣の貴族家に説教されたとお父様にぼやかれた。
自分達が王族とお近づきになりたいだけなんだと思う。
実に面倒だ。
「そういえば、シェリル様。学園のサマーパーティーの時体調を崩されていましたけど、ちゃんとお医者様に看てもらいましたの?」
髪色と同じ爽やかな水色のドレスのディアナ王女が言った。
「はい。一応領地に戻ってから検査してもらったんですけど、どこも何ともないって言われました」
あれは何だったんだろう。
死んじゃうかと思うくらい心臓がバクバクしたり痛くなったりしたのに。
「本当に検査したのね」
そう呟くアマーリエ様は、今日は赤というより橙色っぽいエンパイアドレス。
ライリー様の瞳の色だ。
「シェリルお姉様、体調を崩されていたんですか?」
心配そうな顔をして私を見るオリビア様は、淡い黄色のAラインのドレスを着ている。
三人とも流石王族と高位貴族令嬢だ。
大変お綺麗です。
「もう何ともないから、大丈夫ですよ」
ちやみに私は、サマーパーティーでも着ていた緑のドレス。
この一週間大変だった。
アマーリエ様達は我が家に三部屋あった客室に綺麗に収まったけど、引き連れて来た侍女や護衛のために、嫁いだお姉様の部屋や使っていなかった部屋を整え、さらに領地に一件しかない宿屋を借り上げた。
宿屋に泊まってた人達には、教会や他領の宿屋に移ってもらった。
そこに歓迎パーティーの準備も加わり大混乱する私と家族と領民達を尻目に、アマーリエ様が林檎の摘果をやりたがったり、断ったら木に登りたがったり、オリビア様が自作の魔道具で火の柱と水の柱をを同時に打ち上げたり、ディアナ王女が我が家の小さい図書室をひっくり返して家系図を探したり……。
控え目に言っても迷惑千万この上なかった。
もう早くスタンピード終わって帰ってくれないかな、というのがマクウェン男爵領に住まう人達の総意になりつつある。
まだ一週間なのに。
溜息を吐いていたら使用人が呼びに来たので、四人で会場に向かう。
本当ならマクウェン男爵家の当主であるお父様や、我が家の男性陣がアマーリエ様達のエスコートをしなくてはいけないのだけど、アマーリエ様から女子四人で会場入りしたいと希望があったのだ。
学園のパーティーで、女の子同士集まって会場入りするのが羨ましかったらしい。
アマーリエ様、やってみたかったけど出来なかったことを、私ん家でやろうとしていないか?
会場に入り一通り挨拶を終えご馳走を食べていたら、ディアナ王女が話しかけてきた。
「シェリル様とマクウェン男爵夫人が、バレンシアの血を引いているという証拠は掴めませんでしたわ」
どうやらパーティー参加者の人達に聞き取り調査をしていたらしい。
ディアナ王女はまだ私を“巨人に立ち向かうクラブ”に入れることを諦めていない。
“巨人に立ち向かうクラブ”は、背が低いという理由で弱い者とみなし、無闇に守ろうとしてくる背の高い人達に立ち向かうクラブなんだそう。
考えようによっては私が考える女性の人権問題と重なる所もあるけど、活動内容が主にレオナルド殿下に構われまくるディアナ王女を守ることだったので、残念ながらお断りしたのだ。
「バレンシアの血を引いていたとしても、“巨人に立ち向かうクラブ”には入りませんよ」
ただでさえレオナルド殿下には何かと絡まれているのに、これ以上面倒事に巻き込まれるのは御免被りたい。
「シェリル・マクウェン男爵令嬢」
名前を呼ばれて振り向くと、スラリと背の高い金髪に茶色い瞳の若い男性がニコニコしながら私を見ていた。
え?誰?
私は思わず戸惑ってしまった。
だって今日は近隣の良く知っている人達しか来ない筈なのに、目の前でニコニコ笑うこの男性には全く見覚えがないのだ。
挨拶回りの時にもいなかった。
「失礼しました。私はガード子爵と懇意にさせていただいている、アズバン王国のゼオンと申します」
私の戸惑いを感じたのか自己紹介をしてくれた。
ガード子爵はこのパーティーを開けとお父様を説教した人だ。
いつも偉そうな上、お爺様に怪しい投資話しを持ちかけてくるので、マクウェン領のみんなに嫌われている。
もちろん私も嫌いだ。
ゼオンと名乗った男性は突然片膝を床につくと、私の手を取った。
何故か瞳を潤ませている。
「今日はガード子爵にお誘い頂き、メネティス王国の高貴な姫君方を目にすることができ感動していましたが、まさかその感動を越える出会いがあるとは思っていませんでした」
何だろう。
何か前にもこんな風に片膝つかれて…花束出されて…紫の瞳に涙を滲ませてた人がいたような…。
「貴女こそ私の運命の人!シェリル・マクウェン男爵令嬢…いや、シェリル!私と結婚してください!」
いきなり何言ってんだ、この人。
「お断りします」
「えぇ?!」
ゼオンとかいう人は、私の手を持ったまま固まってしまった。
私はさっとその手を引っ込めて回れ右をする。
と、回った先にガード子爵がいた。
「お前!自分の立場が分かっているのか?!ゼオン様はアズバン王国の第三王子殿下でいらっしゃるんだぞ!!!」
ガード子爵はデカイ。
態度もデカイし背も高いけど、何しろ横幅がたっぷりあるのだ。
目の前に立たれると圧迫感が半端ない。
「ガードのおじさま、目の前に立つのは止めてくださいといつも言ってるじゃないですか」
邪魔だから。
「っ!これだからマクウェンの女共は生意気だと言うんだ!女のくせに口答えするな!」
……殴りたい。
思わず拳を握りしめていたら、固まっていたアズバン王国第三王子を名乗るゼオンとかいう人が、私とガード子爵の間に入って来た。
「ガード子爵、最初に身分を言わなかった私もいけなかったんです。シェリル、私と結婚してアズバン王国に来てくれるね?」
「お断りします」
「「!!!」」
驚愕の面持ちで固まる二人。
いや、ついさっき断ったでしょう。
何故二度聞いたんだ。
助けを求めて周囲を見渡すと、さほど広くないパーティー会場にいる全員が私達に注目していた。
そして何故か会場から家族の姿が消えている。
え?何で?
お客さん達放ってどこ行っちゃったの?
「アズバン王国は、東の小国群の王国のひとつですわね」
私の隣りにいたディアナ王女が冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
メネティス王国の東には、小国群と呼ばれる小さな王国や公国がひしめく地域がある。
しょっちゅう諍いを起こしては、どっかの国がどこどこに吸収されただの、どこどこの国の生き残りが新たな国を建国しただの、クーデターが起きて違う国になっただのとやっている。
国や国境がすぐ変わるので、地図上も小国群とだけ表記されていて国名や国境は書かれていない。
というか書けないのだ。
マクウェン領はメネティス王国の東側に位置していて、王都に行くより小国群の方が近いからやり取りのある国もあるけど、アズバン王国は聞いたことがない。
「たしか、小国群の南側にあった国の王族が亡命して、昨年新たな国を建国したと聞きましたが、それがアバズン王国でしたわね」
「そ、その通りです」
ゼオン王子が答える。
去年出来立てほやほやの国だった。
聞き覚えがない訳だ。
それにしてもディアナ王女は凄い。
小国群の国名や情勢なんて天気の移り変わりくらい頻繁に変わるから、経済学校の授業でだってまともにやらないと聞いているのに、去年出来たばかりの国や成り立ちまでちゃんと覚えているなんて、さすが未来の王妃様だ。
「っ!痛い!!!」
グイッと右腕を掴まれた。
見上げるとガード子爵が憤怒の形相で私を見下ろしていた。
「この小娘が!王族からの結婚の申し込みを断るなんて不敬だぞ!身の程を弁えろ!」
「身の程を弁えるのは貴方のほうですわ」
ディアナ王女がそう言うと、護衛達が飛んで来てガード子爵を私から引き剥がし押さえ付けた。
「な!何をする!」
「シェリル様は魔法研究の成果が認められ、メネティス王家に保護されていますのよ。乱暴は許しません」
ディアナ王女は冷たい笑みを崩さないまま言った。
「ガード子爵!うちの娘に何してるんだ!」
お父様が会場に飛び込んで来た。
その後ろにアマーリエ様とオリビア様がいる。
呼んできてくれたらしい。
「ヒューゴ!お前は娘にどういう教育をしてるんだ!目上の者に対する礼儀が全くなっとらん!」
護衛に押さえつけられながら喚くガード子爵。
それを全く無視してディアナ王女が話し始めた。
「マクウェン男爵、こちらのアズバン王国第三王子ゼオン殿下が、シェリル様に求婚されましたわ」
「ええ?!」
お父様が驚いてゼオン王子とガード子爵を見る。
「ですが、シェリル様は現在メネティス王家に保護されている大切な方ですの。ゼオン・アズバン第三王子殿下、シェリル様に求婚なさるのでしたら、メネティス王国国王陛下の許可を得てからになさってくださいませ」
背は小さいけど威厳たっぷりにそう言うディアナ王女は、まさに巨人に立ち向かうカッコいいヒーローのようだった。
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