【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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夏休み

76 中立派です

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大変大変お待たせいたしました。
こんなに長くお休みいただく予定ではなかったのですが(><)
お読み頂いているかたには、本当に申し訳ありませんでした。

夏休み編、スタートです。
毎日一話ずつ更新します。

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「お帰りなさい、シェリル」

「お母様!ただいま帰りました!」

「シェリルお帰り!お爺様とお婆様が居間で待ってるよ」

一年ぶりのマクウェン男爵邸の玄関でお母様と抱き合う。
お兄様の横にはお義姉様。
お腹が大分大きくなっている。

「お義姉様!お腹触らせてください!」

「こら!シェリル!挨拶が先だろ!」

「お兄様、お義姉様、ただいま帰りました。お腹触らせてください!」

「まあ!シェリルちゃんったら!」

お兄様は渋い顔をしていたけど、お義姉様は笑ってお腹を触らせてくれた。

パンパンに張っているのかと思えば意外とふんわり柔らかい。

「もうすぐ生まれるんですよね」

そう聞くとお兄様が嬉しそうに頷いた。
結婚四年目、待望の我が子だ。
同じ年に結婚したお姉様はすでに二歳の女の子がいて今は第二子を妊娠中。
同い年のいとこになると、両家共にはしゃいでいるところだ。

「あれ?お父様は?」

玄関ホールにいるのはお母様とお兄様とお義姉様。
お爺様とお婆様は居間にいると言っていたけど、お父様の姿が見えない。

「ああ、醸造所でトラブルがあって様子を見に行ったんだ。すぐ戻ると思う」

「先にお爺様達にご挨拶して来なさい。疲れたでしょう。シェリルの好きなお菓子を用意してあるわよ」

お母様が優しく労ってくれる。

「全然疲れてません。王宮から貸してもらった馬車、物凄く乗り心地いいし早いし」

私の答えを聞いたお母様が笑う。

いつもならマクウェン家のガタガタ揺れる小さな馬車で十日かけて帰ってくるのが、七日で帰って来れたのだ。
馬車も全然揺れないしお尻も痛くならない。
大変快適だった。

「護衛の人達はうちに泊まるんだろ?」

お兄様の言葉に小さく頷く。

夏休み中も王宮からの護衛がついて来た。
最初十人くらいの護衛と侍女二人と言われたのを、最小人数でとお願いして護衛四人侍女ひとりに減らしてもらった。
侍女は行き帰りの時だけで、領地ではつけなくていいことにしてもらった。
彼女は今日一晩我が家に泊まって、明日馬車と一緒に一旦王宮に戻ることになっている。

里帰りに護衛十人って、レオナルド殿下は何から私を守るつもりなのか。

「さあ、とにかくお茶を飲んでゆっくりしましょう。可愛いシェリルに王都で何があったのかは、ヒューゴが来てから聞きますからね」

お母様がニッコリ微笑みながら言った。

「…はい」

私がエルダー様に誘拐されたことは、貴族家なら必ず設置されている王宮からの緊急通信専用の魔道具で伝えられた。

国王崩御とか他国と開戦とか、本当に緊急時しか使われない通信魔道具がけたたましく鳴り響いて、我が家は大騒ぎだったらしい。

すぐお父様とお母様が王都に向かおうとしたけど、救出作戦が進行中であること、無事救出出来た場合あまり表沙汰に出来ないことを理由に待機を命じられてしまったそうだ。

まあ結局、表の理由はともかく、エルダー様に誘拐されたことは密かに広まってしまったけど。

何も出来ない動けない状況で、ひたすら私の安否を気遣っていた時間はとても長かったと、のちに送られてきたお義姉様の手紙に書いてあって、いたたまれない気持ちになった。

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした」

思わず謝ると、お母様がふわりと私を抱きしめた。

「無事でよかったわ」

そう言ったお母様の声が微かに震えているのが分かった。

「お母様…」

懐かしいお母様の温もりと匂い。

子供の頃、前世の記憶に苛まれパニックを起こすたびに抱きしめてくれたお母様。
この世界で一番安心するお母様の腕の中に包まれたら、急に胸が熱くなって涙が込み上げてきた。



「ううっ…ふっ、う、うわあぁ~ん」


怖かった。
痛かった。
不安だった。


我慢していた本当の気持ちが一気に溢れて来て、私はそのままお母様にしがみついて声を上げて泣いてしまった。


憎しみのこもった目、冷たく光るナイフ、皮膚の焼ける匂いと痛み。
成すすべなく目の前で暴走する魔力。
エルダー様の笑顔。


怖かった。
本当はすごく怖かった。

何より何も出来ない自分が悔しかった。

それに、私はあくまでも被害者だけど、今回の事件でその後の人生が大きく変わってしまった人もいる。
私のせいじゃないのは分かっていても、どうしてもやり切れず、あの時ああしていたらとか、もっと私に出来ることがあったんじゃないかとか考えてしまい後悔が止まらなかった。

ずっと苦しくて堪らなかった。
誰かにこうして抱きしめてもらいたかった。


お兄様とお義姉様も一緒に私を抱きしめて、誰のか分からない手が私の頭を優しく撫でる。

いつの間にかお母様もお兄様もお義姉様も泣いていて、玄関ホールに四人の泣き声が響いていた。


「うお!何だこりゃ?修羅場か?!」

お父様の間抜けな声が響くまでは。



感動の再会に水を差したお父様を引き連れて、居間で待っていたお爺様とお婆様に挨拶をしてから、みんなでいつものお茶を飲む。

「はあ~」

落ち着く。

「そう言えば、宰相がうちを伯爵家に陞爵するとか言って来たけど、面倒くさいから断ったら、シェリルに叙爵の話しをしてみるって言ってたな。シェリルは男爵になるのか?」

「なりません!」

いきなりその話しか?!
誘拐の件じゃなくて?

「まあ、あなた。そんなことよりシェリルと魔力の相性が抜群にいいという、ウィルフレッド様のお話しのほうが先でしょう」

「ぶはっ!!!」

思わずお茶を吹き出した。
お母様も気になるのはそっちですか?
貴女の娘、この前誘拐されたんですよ?
っていうか、

「な、何でそれを?!」

「アントレーネ様がお手紙をくださったわ」

アントレーネ様…ウィルフレッド様のお母様で王姉様だ。
そうだ確か、うちのお父様とお母様はアントレーネ様とフローラ様にくっつけてもらったってカルロス様が言っていた。

「汚いなぁ!お茶吹くなよ、シェリル」

私の正面にいたお兄様がぶつくさ言いながら顔を拭いている。
モロにかかったらしい。

「駄目だ!アントレーネ様とカルロスの息子なんて、絶対ろくでもないに決まってる!」

お父様が普段では考えられないくらい強い口調で言った。
王姉様と魔術師団長様をろくでもないって言ってるけどいいのかな?

「あなた、カルロス様はともかくアントレーネ様は私の大切な友人ですのよ?その息子のウィルフレッド様だって、きっと優しくてちょっと強引で可愛らしいに決まっています」

お母様がツンッと顎を上げて言い返す。

…ちょっと強引って何?

「ちょっと?ちょっと強引?あれの何処がちょっとなんだ?!」

お父様がなおも言いつのる。

いつも温厚なお父様が珍しい。
どうしたんだろう?

あ、そうだ。
お父様は王姉様とフローラ様にこき使われていたんだった。

「ヒューゴ、子供達の前で人の悪口はいけませんよ」

お婆様が優しく嗜めると、お父様がシュンと大人しくなった。

「王宮からの報告で大体のことは分かっているけれど、負担でないならシェリルの口から今回の事件について聞きたいわ」

お婆様が私を見て微笑んで言った。

だよね。
まずはそれを聞くよね、普通。


お婆様に促され、私は気を取り直し、順を追って二年生になってからのことを話し始めた。

アマーリエ様の暇つぶしのために私に絡んでいたエルダー様が、いつの間にか私を本気で好きになり執着を発症したこと。
エルダー様が私に構うせいで親衛隊から嫌がらせを受けたり睨まれていたこと。
ユラン様に頼まれて妹のオリビア様と親しくなったことで、親衛隊が勝手に派閥争いを絡めてきたこと。

あ、そういえば…

「うちって何処の派閥なんですか?」

今回帰省したら聞いておこうと思っていた疑問を口にすると、目の前の家族が揃って首を傾げる。

「派閥……」

「家系的にはメーディア?」

「キャリーの実家は?」

「ハイベルグでしたわ。でも、言われてみればマクウェン男爵家が何処の派閥か聞いたことはありませんわね」

みんな困惑した顔でお互いを見合っている。
頼りのお婆様もキョトン顔だ。

もしかして、派閥とか考えたこともなかったとか言わないよね?

すると大きなお腹に手を置いたお義姉様が穏やかに言った。

「私の実家は中立派でしたわ」

「「「中立!」」」

お義姉様の言葉にみんなが反応する。

「中立…中立だ!シェリル、我が家は中立派だ!」

お父様が嬉しそうに言い、ほかのみんなもうんうんと頷いている。

「今決めましたよね?」

「うっ」

みんなの目がふわふわと泳いでいる。

するとそれまで黙っていたお爺様が私を見て言った。

「シェリル、こんな田舎の小さな男爵家が中央の派閥争いに関わってもいいことなんてないし、向こうからしても、いてもいなくても変わらないような存在だ。だったら無理に何処かの派閥に入るより、こっそり中立でいたほうがいいだろう」

「おお!爺様が珍しくまともなことを言ってる!」

お爺様の言葉を聞いてお兄様が感動している。

「よし、じゃあ決まりだ!マクウェン男爵家は中立派!異議のある者はいるか?」

みんな首を横に振る。

こうしてマクウェン男爵家は何処の派閥にも属さない、あるいはいつでも何処かの派閥に擦り寄ることの出来る中立派になった。

今。


っていうか、本当にこれまで誰も派閥について考えたこと無かったのか…。

楽しそうに中立派~と笑い合う家族を見ながら、ドロドロの派閥争いを繰り広げていた人達を思い返す。



そうだよね。
派閥争いなんて関わってもいいことなんてなかった。

我が家は、私は、これでいいんだ。


胸のつかえが取れたような気持ちになって、また促されるまま誘拐事件について話しを進める。

夏休み、帰ってきて本当に良かった。
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