【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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二年生 後期

64 順番

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エルダー様から救出されて二週間。
やっと登校の許可が出て、久しぶりに教室に入る。

「おはようございます」

朝のどことなくザワザワした教室が、私が入った途端にシンッと静まり返る。
見渡しても誰とも目が合わない。

分かってはいたけど気持ちが重くなる。

無言のまま席につき教科書を取り出す。

学園を休んでいた二週間、ほとんど毎日ウィルフレッド様が王宮に来て、その日の授業の内容を教えてくれた。
たまにユラン様も来てくれた。

そのおかげで勉強に関しては心配ないけど、やっぱり人の口に戸は立てられなかった。


誘拐されたあの日、私が化粧室に入ってすぐに、私と背格好の似た金髪の女生徒を担いで走る不審者が現れ、私を護衛してた人はそちらを追いかけて行ってしまったらしい。

散々引っ張り回されて捕まえたらシュトレ派の貴族の子息と子女で、私にナイフを突き立てたカリナ様に命令されたと言う。

レオナルド殿下に知らせが行き、私がそのカリナ様と一緒に研究棟のほうへ向かったとの目撃情報も寄せられた。

この段階で、私に何かあったらしいという噂が春祭りの学園内に広まってしまったそうだ。

癒しの魔術の研究もあるけど、高位貴族であるエルダー様に言い寄られていたり、王宮に保護されたりしていた私は、知らないうちに注目されていたらしい。

続けて研究棟でウィルフレッド様が魔力暴走を起こし、それを抑えるためにレオナルド殿下の魔力が広がったことで研究棟周辺は壊滅状態。
春祭りに来ていた人達や生徒達も、高濃度の魔力に当てられ失神者続出。

とんだ大惨事だ。

ちなみにウィルフレッド様とレオナルド殿下もしばらくの間気を失っていたらしい。

そして大混乱の中気付いたら、私とエルダー様が消えていた、と。

もはや醜聞どころじゃない。
大事件の当事者だった。


あの後、エルダー様がどうしているのかは誰も教えてくれない。
ただ、エルダー様のお爺様にあたるシュトレ公爵が、事態を収拾するために王都に来ていると聞いただけだ。

シュトレ公爵家の人間は執着が強く、過去何人も執着の果てに亡くなったり、幽閉されたりした歴史があるそうだ。
エルダー様にはいっぱい迷惑かけられたけど、出来ることなら執着に打ち勝って強く生きて欲しいと思う。

私を取り囲んだエルダー様親衛隊の女生徒達は学園に来ていない。

特に私を刺したカリナ様の家は、国に保護される私に危害を加えた首謀者ということで屋敷に捜査が入った。
その際色んな不正や陰謀の証拠が山のように出て、親兄弟に親類縁者を巻き込んで貴族牢に入っている。

カリナ様は例の王宮人事長の血縁で、オリビア様をアーサー第二王子の婚約者から追い落とした家のご令嬢だったらしい。
アーサー第二王子の婚約者をカリナ様にしようと企んでいたそうだ。

ちなみに王宮人事長とマチルダ様の元家族も貴族牢に入っている。
こちらは元妹が学園長に魅了を使ったせいだけど。

元妹の魅了は、完全に元妹の独断でおこなわれたことだったそうだ。

レオナルド殿下の企みなんじゃないかと疑っていたけど、レオナルド殿下がしたのはキャンベル伯爵家とハリソン伯爵家の評判を落とす噂を流しただけだった。

いや、それも怖いけど。

王宮人事長は今回の誘拐には関わっていなかったけど、オリビア様のほうで関わっていた証拠がわんさか出てきたそうで、どちらにしても罪に問われることに変わりはない。

今、貴族牢はかつてないほど賑わっていますとユラン様が教えてくれたけど、牢屋は賑わっちゃいけないと思う。


蹴落とし、蹴落とされ、都合良く利用して捨てていく……。

今回、うっかり派閥争いに巻き込まれてしまったことで、私が知らなかった貴族社会の闇を垣間見た。

これまで私は貴族でありながら平々凡々と生きてきた。
前世の記憶はあるけど、前世でだってそんな陰謀渦巻く世界にはいなかった。

大変勉強にはなったけど、あんなドロドロした世界には出来れば金輪際関わりたくない。

あの世界を知ってしまうと、アマーリエ様の暇つぶしなんて本当に可愛いものだったんだなと思う。



「シェリル様…」

「!…はい!」

こんこんと考えていたら声をかけられた。
ウィンターパーティーで仲良くなった三人娘だ。

王宮に保護されてから寮の部屋に集まることは出来なくなったけど、女の子同士の気兼ねないお喋りは大切な癒しの時間だった。

思い詰めたように緊張した表情の三人を見て、心が重りを乗せたように沈んで行く。

何を言われるんだろう。
怖い……。


ムギュッ

何か柔らかいものが顔面に押し付けられた。

ムギュッ

左にも

ムギュッ

右にも

「「「ご無事で良かったですわ~」」」

ムギュギュー!!!

「うっ…く…苦し…!」

「まあ!狡いですわ!私だってシェリル様のこと心配してましたのに!」

ムギュッ

今度は誰かが後頭部に来た。

ムギュムギュー!!!

この世界の女性には、お胸で人の頭部を押し潰す遺伝子でも組み込まれているんだろうか。

「いっ…息が…」

「まあ!シェリル様が落ち着くまで待ちましょうとみんなで決めましたのに、抜け駆けはいけませんわ!」

「皆様!順番ですわよ!順番!」

誰かが仕切り始める声がして、私はクラスの女子全員に、ひとり十秒ずつ抱きしめられた。

男子からは握手を求められた。

「何やってるんだ?」

朝の教員会議に参加すると言っていたレオナルド殿下が教室に入ってきて、ズラリと並んだ男子生徒と握手をする私を見て言った。

レオナルド殿下の後ろにはウィルフレッド様とユラン様もいる。

「私にも良く分かりません」

「私も並んだほうがいいか?」

「ヤメテクダサイ」

男子との握手が終わった頃、ようやく担任のオーガスト先生が現れた。


午前の授業が終わり、いつもの三人娘と食堂でランチを食べる。

ほかのクラスや違う学年の人の中には、私を見てコソコソ噂話をする人もいるけど、この三人やクラスの人達が温かく受け入れてくれたことで、全く気にならなかった。

友情って大事、としみじみ思う。

一年前の、人との関わりを避けて勉強ばかりしていた私だったら、こんな風にクラスメイトに庇ってもらうことは無かっただろう。

秋の合同遠征実習の反省から、ウィンターパーティーや春祭りを通して、クラスの人達と仲良くするようにしてきて本当に良かった。

久しぶりの食堂ランチに舌鼓をうちながら、三人が私が療養していた間のことを教えてくれた。

なんでも倒壊した研究棟周辺はまだ立ち入り禁止で、魔道具の研究が出来ないオーガスト先生が、研究が出来る場所を求めて夜な夜な校舎をうろついて警備員をビビらせているらしい。

将来、学園七不思議に変化して語り継がれそうな内容だ。
オーガスト先生には是非今後も頑張って警備員をビビらせてもらいたい。


「そういえば、手を怪我されたと聞きましたけど、もう痛みはありませんの?」

子爵令嬢が心配そうな顔で聞いてくる。
そんな話しまで出回っているのか。

「はい。痛みもありませんし、傷も残らず綺麗サッパリ治りました」

左手をヒラヒラさせてみる。

そう。ジクド草とかいう草の汁を塗ったナイフで刺された傷は、光魔法では消せないけど、聖魔法でなら綺麗に消せることが分かった。

我が国は魔族の血を引く人が多いせいか、光魔法を持つ人は少ないし、聖魔法なんて滅多にいない。
私を刺したカリナ様も、まさか私が聖魔法で傷を治してもらえるとは考えていなかったんだろう。

その貴重な聖魔法で私の傷を治してくれたのは、メネティス王国中央神殿の神殿長様。
私に聖女の称号を、とか言ってた丸顔のおじさんだ。

聖女になるのを断った私に、嫌な顔ひとつしないで聖魔法をかけてくれた。
初対面の時は正直変な人だと思ったけど、普通にいいおじさんだった。


あれ?
そういえば…。

「アマーリエ様とライリー様がいない?」

ここ二週間王宮でも見かけなかったけど、教室にもいなかった。

「あら、アマーリエ様は謹慎中と伺いましたわ」

「謹慎中?」

伯爵令嬢がちょっと困った顔をする。

「詳しいことは知りませんけれど、その…今回の件に関わっていらしたと噂になっていますの」

え?!なにそれ、怖い!

アマーリエ様の暇つぶしなんて可愛いもんだったと思っていたのに、まさか黒幕でしたとか?!

「ライリー様もアマーリエ様の騎士を外されて、ご親戚であるアストロス辺境伯のもとに預けられたそうですわ」

婚活令嬢が声を潜めて言った。

「ライリー様が?!」

「「「シーッ!!!」」」

驚きすぎて声が高くなってしまった。


どうやらエルダー様のことのように、私に知らされていないことがまだあるようだ。

それにしても、ライリー様が騎士から外されて、王族のアマーリエ様が謹慎処分にされるなんて…。
アマーリエ様は何をしたんだろう?
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