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二年生 後期
46 失踪事件?
しおりを挟む似てる。
当たり前だけど、国王陛下はレオナルド殿下に激似だった。
王座に座っているから背の高さは分からないけど、彫刻のように彫りの深い整った顔立ちも、切長の目元もよく似ている。
でも全然違う。
思わず平伏してしまいたくなるような、圧倒的な存在感。
気を張っていないとその存在感に押しつぶされてしまいそうだ。
「楽にしろ」
悠然と室内を見渡しながら、無表情のまま国王陛下がそう言った。
国王陛下の斜め後ろには、この前怖い顔で魔術師団長のカルロス様を引っ張って行った、宰相のハイベルグ公爵が、ユラン様を凌駕する冷たい表情で立っていた。
「ではこれより、マチルダ・キャンベル伯爵令嬢失踪事件について裁定いたします」
ユラン様が負けじと冷たい表情で言う。
「本年一月十六日に、キャンベル伯爵家から長女のマチルダ嬢が失踪したとの届けがありました。キャンベル伯爵、間違いありませんか?」
「間違いありません」
キャンベル伯爵は叔母さんを睨みつけたまま言った。
「失踪したのは一月十六日で、書き置き等本人の意思を知らせるものは無かった、というのも、間違いありませんか?」
「間違いありません」
「マチルダ嬢、如何ですか?」
私の横でマチルダ様の体がピクンと跳ねる。
私はスカートの影に隠れてマチルダ様の手を握った。
握り返してきた手は、とても冷たくなっていた。
「私が家を出たのは、昨年の十二月二十日です。自室の机に手紙を置いて来ました」
「なんだと?!」
キャンベル伯爵は本気で驚いている。
「実際にマチルダ嬢が伯爵家からいなくなった日から、失踪したとされ届けが出された日まで、約一ヶ月のズレがあるようですが、キャンベル伯爵、どういうことでしょうか?」
「な…なんっ、そんな筈は…。マチルダが学園に行く馬車を待たせていると聞いて、使用人が部屋にいないと…」
「部屋を見に行ったんですか?」
「いや、それはマリー…使用人が…部屋も屋敷内も、探したがいないと言うから…」
「その日に失踪したと考えたのですね」
「そうだ」
「手紙はありませんでしたか?」
「し、知らん!使用人は何も言っていなかった」
狼狽えながら答えるキャンベル伯爵に、皆の視線が冷たく突き刺さる。
それまで黙っていたレオナルド殿下が口をひらいた。
「キャンベル伯爵。マチルダ嬢が伯爵家を出てから一ヶ月もの間、娘がいないことに気付かなかったのか?」
「そ、それは…」
「冬休みで学園もなく、自宅にずっといる筈の娘と顔を合わせないことを、疑問に思わなかったのか?」
「うっ…それはっ!あの女が!姉が仕組んだことだからです!」
キャンベル伯爵はマチルダ様の叔母さんを指差して叫んだ。
叔母さんは冷たい目をして、実の弟を見ている。
「リーバイ男爵夫人が、何を仕組んだのですか?」
ユラン様が静かな声で聞いた。
「マチルダを自分の物にしようとしたんだ!マチルダは姉と同じで、我が家にしては珍しく魔力が多いから、その力が欲しかったんだろう!その女がマチルダを誘拐したんだ!そうだろう!」
叔母さんを睨み付けながら、興奮して大声で叫ぶキャンベル伯爵。
言ってることが滅茶苦茶だ。
もし本当に誘拐されたのだとしても、一ヶ月娘の不在に気付かなかった言い訳にはならないだろうに。
「リーバイ男爵夫人、如何ですか?」
「とんでもありませんわ。弟に子供がいることは知っていましたが、どんな子だかは全く知らされていませんでしたもの。私を嫌って関係を絶ったのは貴方の方でしょう。
それに、私にはマチルダより魔力が多い子供が四人いますのよ。わざわざマチルダを誘拐する理由がありませんわ」
叔母さんは冷たい声でキャンベル伯爵に言った。
「そもそもマチルダ嬢は誘拐されたわけではなく、ご自身から家を出たと証言しています。これ以上リーバイ男爵夫人にありもしない罪を被せるなら偽証罪で訴えますよ」
ユラン様の冷たい声が響き、キャンベル伯爵が悔しそうに顔を歪めた。
「マチルダ嬢、貴女は何故、キャンベル伯爵家を出たのですか?」
ユラン様の問いかけに、ギュッと繋いだ手の力が強くなる。
「私…私は…、耐えられなくなったのです。家族でありながらいないことに一ヶ月も気付いて貰えないほど、私の居場所はあの家にはありませんでした。幼い頃からずっと、私はあの家で孤独を噛み締めて生きて来ました。だから、あの家を出たのです。誘拐された訳でも、叔母様のせいでもありません」
マチルダ様は父親であるキャンベル伯爵を真っ直ぐに見て言った。
「私は私の意思で、あの家を出たのです」
キャンベル伯爵はマチルダ様の言葉を聞いて、怒りで顔を真っ赤に染めた。
「なんだと!マチルダ!お前はここまで育てて貰った恩を忘れて仇で返すつもりか?!」
興奮しているせいで尻尾がボワボワに広がっている。
「うるさいな」
国王陛下の小さな呟きが室内に響いた。
途端にキャンベル伯爵が青い顔をして縮こまった。
…あれ?
呟いたんだよね?
すんごいはっきり聞こえたけど。
「ユラン」
宰相閣下が先を促す。
ユラン様が頷いて、マチルダ様に問いかける。
「マチルダ嬢、置いて来たという手紙には、その旨が書かれていたのですか?」
「はい。その…もう少し具体的な内容もありましたが、自分の意思で家を出ることは書きましたわ」
「その手紙を自室の机に置き、十二月二十日に伯爵家を出たのですね?」
「はい」
「家を出て、何処へ向かおうとしていたのですか?」
「は…はい、あの…。叔母を頼るか、修道院へ向かうか迷っていました。手持ちのお金があまり無かったので、祖母から頂いた宝石を売って、それで行ける所まで行こうと考えておりました」
「カテリーナから盗んだ宝石もだろう!」
キャンベル伯爵がマチルダ様を睨みながら言った。
「そんな!お母様の宝石を盗んだりはしていませんわ!」
「この子はいつもこうなのです。手癖が悪くて、妻の宝石や使用人の私物を盗んで、問い詰めても自分では無いと嘘を付く!こんな嘘つきの言うことを聞いても意味はありません!つい先日無くなった妻の宝石も、マチルダが盗んで売り払ったのでしょう!」
キャンベル伯爵が吐き捨てるように言う。
マチルダ様の手がブルブル震え、見ると唇を噛み締めて目に涙を浮かべている。
「伯爵夫人から盗まれた宝石はどんなものですか?」
思わず聞いてしまった。
部屋の中の視線が一気に私に集中する。
特にレオナルド殿下の視線が痛い。
でも黙ってはいられない。
私達が宝石を売った宝飾店問い合わせれば、どんな宝石を売ったか記録があるはずだ。
「カテリーナの瞳と同じ色のサファイアの指輪だ!星祭りの夜に贈ったのに、次の日には無かった!」
マチルダ様を睨み付けたまま、憎々しげに言うキャンベル伯爵。
あれ?
星祭りの夜?
「星祭りって、この前の星祭りですか?」
「そうだ!」
私とマチルダ様は顔を見合わせた。
「マチルダ様は、去年の十二月二十日に伯爵家を出て、その二日後には王都を出ています。この前の星祭りに贈られたものを盗んだり出来ませんよ」
「え?」
キャンベル伯爵は驚いたように私を見た。
「いや、さっきから冬休みの間はもういなかったって言ってるでしょう」
私が言うと、キャンベル伯爵はマチルダ様と同じ鳶色の瞳をキョトキョトと泳がせた。
宝飾店に問い合わせる必要も無かった。
「そうやって、物がなくなるとマチルダ嬢のせいにしてきたのか?」
レオナルド殿下が低い声で問いかける。
「し、使用人が…マチルダが盗んだと…」
「キャンベル伯爵家では、ずいぶん使用人の言葉に重みがあるようだ。実の娘の言葉より」
レオナルド殿下にピシャリと言われて、キャンベル伯爵が項垂れる。
キャンベル伯爵が静かになったところで、ユラン様にマチルダ様が王都から出て行くまでの出来事について質問された。
問われるままに、私のバイト先の宿屋に匿ったこと、二人で一緒に宝石を売りに行ったこと、リーバイ男爵領方面に行く女性冒険者に同行させてもらい、十二月二十二日の朝に東門から王都を出たことを話した。
宝飾店の帰りにあの人達を見たことは、二人とも言わなかった。
あの光景と、その後の淑女らしからぬやけ食いは、私とマチルダ様二人だけの秘密だ。
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