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二年生 前期

24 冬休みの予定

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二年生前期の試験が終わり、いつもならホッと一息つく所なんだけど、いまいち気を緩められないのは、ユラン様のお願いを断れなかったから。

妹さんと私が会った所で何か出来るわけではないと言ったんだけど、とにかく一度会って欲しいの一点張りで根負けしてしまった。


「はあ~」

思わず溜息が漏れた。

「あら?シェリル、試験の結果悪かったの?」

溜息が聞こえてしまったのか、食事をしていたアンさんが聞いてきた。

「試験は今回も学年首位を死守しましたよ」

アマーリエ様の暇つぶしに翻弄されながらも、学年首位を守り切った自分を褒めてやりたい。

「じゃあなんでそんな浮かない顔してんだよ」

セイラさんに頭をぐりぐりされた。

「頭が取れるから止めてください」

「怖いこと言うな!」

慌てて手を離すセイラさん。

「冗談ですよ」

「分かってるよ!でもシェリルはちっちゃくて細いから、うっかりしたら本当に取れそうで怖いんだよ!」

クスクス笑いながら見ていたアンさんが、ふいに心配そうな顔をして言った。

「試験の結果が悪くなかったんなら、どうして溜息なんて吐いてたの?何かあった?」

「う~ん。あったというか、これからあるというか…。なんだか二年生になってから、高位貴族の人に絡まれることが多くて…」

「また年上好きの美少年に絡まれたのか?」

「はっ!そっちもあったんだ!」

セイラさんの言葉でエルダー様とダンスを踊る件を思い出した。

「もうやだぁ」

未来が面倒くさすぎて、思わずその場にしゃがみ込む。

「シェリル!何サボってるんだい!」

女将さんに叱られた。
食堂は混み合っていて、お客さん達はお腹を空かせて待っている。

「バイト終わったら話し聞かせろよ!」

セイラさんがそう言って、ついでにとお酒のおかわりを頼まれた。

「シェリル!年上好きの美少年って、この前のピンクの薔薇の子でしょう?」

「え?なになに?やっぱりエスコートしてもらうことになったの?」

セイラさん達との話しを聞いていたらしい他の従業員とお客さんに絡まれた。

エルダー様から貰ったピンクの薔薇の花束は、いったん寮の部屋に飾ったんだけど、研究資料が山と積まれた私の部屋にはあまりに不似合いだった。

おまけに見るたびエルダー様を思い出してイライラするから、宿に持ってきて受付に飾ってもらった。
そうしたら従業員とお客さんに囲まれて、花束を貰った経緯を洗いざらい吐かされたのだ。

片膝ついてのエスコートの申し込みは、恋バナに飢えていた女性達をおおいに沸かせていたらしい。
二週間の試験休みを終えてバイトに出たら、膨らむだけ膨らんだみんなの妄想を聞かされてギョッとした。

「違います!パーティーは女の子達と行きます」

ついにシェリルに春が来ただの、一度宿に連れて来いだのみんな揃って姦しい。

「あんた達!喋くってる暇はないよ!五番と三番、料理あがってるよ!」

また女将さんに叱られた。

五番テーブルに料理を運んで戻って来たら、女将さんと常連のお客さんがワイワイ話していた。
アンさんとセイラさんも加わっている。

喋くってる暇はないんじゃなかったのか。

「あの花束見たかい?あれはシェリルの外見しか見てない証拠だよ!シェリルの中身を知ってれば、あんなピンクの花束選ばないさ!」

女将さんが息巻いて言う。

「確かに見た目はピンクの薔薇が似合う可愛い女の子って感じだからねぇ」

「見た目はね~」

「中身はだいぶ違うからな」

「猪突猛進だもんね」

「外から見ても分かりやすいように、危険物って札を首からかけておくってどうよ?」

どういう意味だと聞いてみてもいいだろうか。
いや、止めておいたほうがいい気がする。

「とにかく、シェリルの中身も知らないであんな花束贈ってくる男なんか、あたしは認めないからね!」

どうやらエルダー様は、女将さんのお眼鏡にはかなわなかったらしい。

「シェリルちゃん、六番さんの飲み物作ってくれるかな?」

厨房から旦那さんが声をかけてきた。
この宿で唯一の男性である旦那さんは、ガタイのいい元冒険者で、大きな怪我をしたため引退してこの宿屋を始めたと聞いている。

ちなみに女将さんも冒険者だったそうだ。
この宿のお客さんに冒険者が多いのは、旦那さんや女将さんが元冒険者だからなのかもしれない。

私は香りの強い蒸留酒をお湯割りにして、レモンをくし切りにしたものを添え、六番テーブルに運ぶ。
その間女将さん達は、私のお相手にどんな男性が相応しいか議論をかわしていた。

この世界の成人は十六歳。
まだ十四歳の私はお酒が飲めないけど、時々無性に呑んだくれてクダ巻いて暴れたくなる。

たとえば今とか。

「アイツら、まだ喋ってんのか?」

旦那さんが呆れたように女将さん達を見た。

「私を肴に楽しくしているようですよ」

「アハハハハ」

笑いごとじゃない。

「みんなシェリルちゃんが可愛くて仕方ないんだよ」

「可愛いのは見た目だけだそうですよ」

「そうだな」

肯定するんかい!
私は恨みがましい目で旦那さんを見た。

「ほら、揚げ芋やるから機嫌直せ」

旦那さんは楽しそうに笑ったまま、揚げたてホカホカの揚げ芋を小皿に乗せて出してくれた。

「やったー!」

この揚げ芋はただ芋を揚げただけではなく、旦那さんの特製衣をつけて揚げているから、カリカリしててすごく美味しいのだ。

料理の付け合わせからお酒のおつまみまで、この宿で一番人気のメニューだ。

「そういえば、冬休みは休日の夜も手伝ってくれるんだって?」

揚げ芋をハフハフ頬張っていたら旦那さんが話しかけてきた。

「はい。冬休み中は、日中は錬金術師ギルドで夜はこっちでガッツリ稼ぎたいと思ってます」

合同遠征実習のお詫びのハンカチ代が、枚数が多かったこともあって、けっこうな出費になってしまったのだ。
あと、刺繍をしてくれたお姉様が、今ウィンターパーティー用のドレスの手直しもしてくれている。
こっちも何かお礼をしないといけないだろう。

冬休み期間中、平日の日中も出来るだけバイトに入って、休日の夜も食堂で働けば、かなりまとまった金額になるはずだ。

「だけど、休みがなくなっちまうぞ。錬金術師ギルドは毎日じゃないだろう?」

「風の日はお休みにするって言われました」

この世界の一週間は六日。
火・水・風・土の日が平日で光・闇の日が休日になる。

「じゃあ、うちも風の日は休め」

「ええー!」

収入が減っちゃう。

「あ、じゃあ、星祭りの二日間は一日働かせてもらえますか?」

星祭りは年越しの夜から朝にかけておこなわれるお祭りで、夜通し花火が上がり、人々は神殿に行って七柱の神々に祈りを捧げる。

この二日間は錬金術師ギルドがお休みになる。

「星祭りの二日間は人手が足りないから助かるけど、無理すんなよ」

「おや、シェリル。星祭りの日、出てくれるのかい?」

やっとお喋りが終わった女将さんが戻ってきた。

「助かるけど、無理するんじゃないよ」

「は~い」

宿のみんなとのいつものやり取りのおかげか、ユラン様との話しからずっと張っていた気持ちがゆるゆると解けていく。

最後のひとつになった揚げ芋を口に入れる。
特製衣がカリカリと音を立て、程よい塩味とほのかなガーリックの風味が口の中に広がる。

ウィンターパーティーが終わったら一ヶ月の冬休みだ。
去年は片道一週間かけて領地に帰ったけど、今年は帰らずバイト三昧にする予定にしている。

稼げる時に稼いでおかないとね!
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