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二年生 前期
14 アマーリエ王女の事情 ※アマーリエ視点
しおりを挟むファロット先生にしがみついて、ごめんなさいと謝りながら涙を流すシェリルを見て、わたくしも涙が止まらなくなってしまった。
キャンベルさんも、シェリルに叩いてしまったことを謝罪しながら泣いている。
シェリルが結界の中にいないことに気付いた時、わたくし達は何も出来なかった。
戦力になる男性は全員ヒュドラ討伐に向かってしまい、いるのはわたくしを含め四人だけ。
心配で心配で堪らないのに探しに行くことも出来ず、響くヒュドラとの戦闘音を聞きながら祈るしかなかった。
無事ヒュドラを倒し、帰ってきたガロン先生の腕に意識を失ったシェリルを見た時、心臓が止まってしまうかと思った。
無事で良かった…。
心からそう思い神々に感謝していたら、シェリルが突然顔を上げて言った。
「そういえば、キノコの魔物が私の近くに落ちていませんでしたか?」
わたくしの涙は一瞬で乾き、シェリルは再度怒りを爆発させたファロット先生とキャンベルさんに小一時間お説教をされていた。
そのあとお詫びだと言ってシェリルが作ってくれた、コカトリスとキノコの魔物のスープはとても美味しかった。
合同遠征実習が終わり、無事王宮の自室に帰ってきたわたくしは、侍女達を下がらせた。
首に下げている小さな鍵で机の引き出しを開ける。
中には何度も読み返したせいで、少しくたびれてしまった一冊のノート。
わたくしはノートを開き、合同遠征実習のイベントを確認する。
「やっぱり、ないわ」
ヒュドラが現れるなんてイベントはどこにもない。
「これもゲームと違う…」
小さく呟くわたくしの声が、静かな部屋に吸い込まれていった。
わたくしには前世の記憶がある。
十歳の時原因不明の高熱にうなされながら、この世界に生まれる前、日本という国で高校生だったこと、優しい両親と可愛い妹がいたこと、病気で亡くなったことを思い出した。
同時に、生まれ変わって十年生きてきたこの世界が、前世で妹と遊んだ乙女ゲームの世界であることに気付いた。
ゲームはヒロインの男爵令嬢が、メネティス王立魔法学園に入学するところから始まる。
攻略対象者は五人。
王太子のレオナルド・メネティス
宰相子息のユラン・ハイベルグ
名門公爵家子息のエルダー・シュトレ
魔術師団長子息のウィルフレッド・メーデイア
騎士団長子息のライリー・トリスタン
そして、悪役令嬢ならぬ悪役王女の
アマーリエ・メネティス
素直で可愛いヒロインに惹かれていく攻略対象者達。
兄や従兄弟や婚約者候補という、自分の身近な者がヒロインに惹かれていくのが許せず、執拗な嫌がらせをするアマーリエ。
卒業パーティーでヒロインと攻略対象者のひとりが互いの気持ちを確かめ合い、悪役王女は断罪されて幽閉か修道院送りになって物語は終了する。
わたくしはノートに今回の件を書き足していく。
ゲームのストーリーと違うことがあった時には、こうして記録しているのだ。
ふと、一番最初に書いた内容に目がとまる。
『ゲームでは、ライリーは無理矢理アマーリエに騎士の誓いをさせられていたけど、実際は、ライリーから騎士の誓いをしてきた』
初めて出会った時、わたくしを見るなり膝をつき、貴女を守る騎士になりますと誓いの言葉を口にしたライリー。
わたくしはまだ六歳でライリーは八歳だったけど、とても格好良くてドキドキしたのを覚えている。
いつも側にいてわたくしを守ってくれていたライリーは、わたくしの初恋であり今だに想いを寄せる相手でもある。
それにライリーは、わたくしの騎士であることや想い人である以上に大切な人でもある。
前世の記憶を思い出し、悪役王女であることに気付いて絶望していた時、ゲームと違っていたライリーの行動は希望の光でもあった。
もしかしたら、ゲームと違う人生を歩めるかもしれない、想いを寄せるライリーとの未来もあるかもしれない、そう希望を抱いた。
でも、現実は甘くなかった。
ライリーはわたくしの婚約者候補のひとりだけど、実際にライリーに降嫁することはありえない。
わたくしは王家の娘であり、わたくしの婚姻は国の政治に影響してくるからだ。
最初はエルダーが婚約者になる予定だったのが、ユランの妹が体調不良で第ニ王子アーサーとの婚約を解消したことで、婚約者候補にユランが加わった。
エルダーのシュトレ家とユランのハイベルグ家は共に建国以来の重鎮で、両家の派閥争いを緩和するために、わたくしの騎士であるライリーも婚約者候補に名を連ねられただけだったのだ。
「ライリー…」
涙が溢れた。
王家の娘として、意に染まない相手でも結婚しなくてはいけないことは分かっている。
でも、前世を思い出してしまったわたくしには、愛のない結婚は恐怖にしか感じられなくなってしまった。
せめて夫になる人から愛されればと思ったけど、エルダーとユランにとって、わたくしとの結婚はあくまでも家の繁栄のため、血筋の良い子を成すためのものであって、わたくしを愛してくれることはないだろう。
だったら…どうせ好きな人と結ばれることがないのなら…窮屈な王族という楔を断ち切り、修道院で神々に祈りを捧げながら生きたほうがいい。
そう決意して、乙女ゲームの舞台である魔法学園に入学したのに……。
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そして、この日からわたくしの目はシェリルに釘付けになった。
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そうすれば、奨学金のために勉強したり働いたりしなくても良くなるだろう。
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まだ心の整理はつかないけど、他の誰かが隣りに立つのを見るくらいなら、シェリルが隣りにいるほうがまだ我慢できそうな気がする。
「何か具体的な目標を立てたほうがいいかしら…」
わたくしはノートをめくり、攻略対象者達にやる気を出してもらうべく作戦を考え始めた。
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