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二年生 前期
7 Aランチはコカトリス
しおりを挟む世の中上手く行かない。
あれから一週間たった。
今のところ協力者は二人。
ウィルフレッド様とユラン様。
ファロット先生によると、ウィルフレッド様は闇魔法による癒しの魔術や、眠りの魔道具自体に興味があったようで、あの日すぐに先生の研究室に来たそうだ。
流石魔術師団長のご子息。
ユラン様が協力してくれたのは意外だった。
私の話しに否定的な意見が多かったのに。
たんに真面目な人だから協力してくれたのか、アマーリエ様の暇つぶしの一環なのかは分からないけど、今の状況を見ると後者でもありがたい。
「はぁ」
思わず漏れた溜息の先には、学園内の食堂で一番お安いCランチ。
コッコ肉のソテーに温野菜とパンとスープで五十ソル。
前世の感覚だと五百円くらいかな。
協力者の集まらなさが気になって夜上手く眠れなくなり、今日はついに寝坊してしまった。
いつもお昼は節約のためサンドイッチを作って持って来るのに、そんな時間は無かった。
眠りの魔道具、今の私にこそ必要なんじゃない?
「シェリル・マクウェンさん?」
名前を呼ばれ顔を上げると、栗色の髪に猫耳を生やした猫獣人のお姉様を筆頭に、五人程の女生徒に囲まれていた。
「はい。何かご用ですか?」
なんだろう。
面識ないけど、多分三年生の先輩方だよね?
「貴女、最近調子に乗っているんじゃありませんこと?」
え?なに?何のこと?
「女性の身でありながら魔法の研究なんて、どういうおつもりですの?さらに、貴重な授業時間を使って危険な闇魔法の実験台を募るなんて!図々しいにも程がありますわ!」
ああ、そういうことか。
「闇魔法の研究は、国王陛下の許可のもとおこなっていることですし、魔術師団にも危険がないことを確認して頂いています。あと、授業時間を使って生徒の皆様に協力をお願いすることは、学園長先生がお決めになったことです」
「まあ!学年首位で先生方のお気に入りだからといって、学園長先生や魔術師団、さらに国王陛下にまですり寄っているなんて!
さすが男爵家のご令嬢ですわね。目上の方を誑かす技術はどこでお学びになるんでしょう?」
くすくすと後ろにいる女生徒達が笑う。
ナニコレ感じ悪い。
しかもこうしてる間にコッコのソテーが冷えてきた。
コッコは冷えると固くなって美味しくない。
「闇魔法の研究なんて無駄なことはやめて、ご自分に相応しい下位貴族か商家の男性でも誑かしたらよろしいのですわ。身の丈を弁えなさいませ!」
お~ほほほ、と高笑いする猫娘と取り巻き達。
「お言葉ですが」
高笑いがピタリと止まる。
「闇魔法の研究は無駄なことではありません。癒しの魔術が完成すれば、心の傷や病気で苦しんでいる人達を救うことが出来るんですから」
「研究は貴女がしなくてもよろしいでしょう?それこそ魔術師団や先生方にして頂けば良いことですわ」
猫娘め、まだ言うか!
「研究は私がしなくては意味がありません」
猫娘が怪訝な顔をする。
「何故です?貴女は女性なのですから、そういったことは男性に任せて…」
「私は、将来魔術師団に入りたいんです!
この研究で結果を出して、魔術師団入団試験の推薦を貰いたいんです!」
「あ…貴女は女性ですのよ?」
「だから何ですか?私は魔術師団に入り、闇魔法だけでなく、他の魔法の可能性も広げるために研究がしたいんです!そのために魔法学園に入学して、勉強も頑張っているんです!」
そして歴史に名を残し、アイツにざまあみろと言ってやるんだ!
「逆に、何故女性だからといってやりたいことを誰かに譲ったり諦めなくてはいけないんですか?」
猫娘の顔を正面から見据える。
「私の夢は私のものです。他の誰かのものではありません!」
しん……と、食堂が静まり返る。
いつの間にか声が大きくなっていて、注目を集めていたらしい。
え、どうしよう。
どうしたらいいの、この状況。
ひとり焦っていると、呆然と私を見ていた猫娘達も食堂の状況に気が付いたらしい。
「と…とにかく、これ以上エルダー様に馴れなれしくするのはおやめなさい!」
そう言い捨てて、慌てて食堂から出て行った。
ん?
エルダー様?
今の話し、エルダー様関係無くない?
「あいつら、エルダーの親衛隊なんだよ」
「はい?」
声のする方を見ると、ランチのトレーを持ったライリー様がいた。
なんだか楽しそうにニヤニヤ笑っている。
「前の席、いいか?」
そう言いながら私の向かいの席に座る。
許可していませんけど。
「お前、見た目弱そうなのに、言う時は言うんだな。いや~面白かった」
見た目弱そうってなんだ。
ちょっとムッとして、すっかり冷えてしまったコッコのソテーを口に入れる。
…固い。
ライリー様を見ると、一番お高いAランチだった。
Cランチにさらにジャガイモのガレットとフルーツタルトが付いていて、コッコではなく高級肉コカトリスのソテーだ。
「最近エルダーがお前にちょっかい出してるから、釘さしに来たんだろ。まあ、あんな風に言い返されるとは思ってなかっただろうけどな」
そう話しながらも、大盛りだろうAランチを凄い勢いで口に入れていく。
なんだ、そうだったのか。
だったら最初に言ってくれたら良かったのに。
研究にケチ付けられたと思って熱くなっちゃった。
「お前、聞いてただろ?」
「何をですか?」
「アマーリエの話し。お前に恋を教えろってやつ」
!!!
私が聞いてたこと、気付いてたんだ!
「他のヤツらは気付かなかったみたいだけどな」
ライリー様がニヤリと笑った。
「アマーリエの変な我儘はたまにあることなんだ。悪いけど、しばらく付き合ってやってもらえないか?」
ええー
「普通に迷惑なんですが」
「分かってる。でもお前なら回避出来そうだし、困った時は俺に言ってくれれば助けてやるから」
さっきは見てるだけで助けてくれなかったくせに。
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「とにかく、困ったら俺に言ってくれ。じゃ、よろしくな」
あっという間に空になったトレーを持って、去って行くライリー様。
ふさふさの尻尾が大きく振れている。
よろしくって…了解してないにアマーリエ様の暇つぶしに付き合うことは決まりなの?
もう!
行き場のないモヤモヤを、目の前のコッコのソテーにぶつける。
冷えてカチカチになったコッコを意地で咀嚼しながら、冷えても柔らかくて美味しいコカトリスを熱々のまま食べ切ったライリー様の後ろ姿を見送る。
あ~あ。
なんだか面倒なことになってきたな。
こんなことに巻き込まれるなら、私も奮発してAランチにしておけば良かった…。
私は小さく溜息を吐いた。
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