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SS エルフは好き勝手に生きているのに、なんやかや愛されてる
しおりを挟むシンネラン王国の副都ホーヴェスタッドには、〝常緑〟と呼ばれる不可侵のエルフがいる。
ホーヴェスタッドの北西地区、平民が多く住まう第十三区画には、〝初恋の人〟と密かに呼ばれるエルフがいる。
そんな話が流れる様になって百年以上、それは間違っていないけれど、正しくもない事を、街で生まれ育った人々は知っている。
別人のように聞こえるかもしれないが、それはホーヴェスタッドにたった一人のエルフで、同一人物だ。
エルフは伝説に語られる妖精族の一種で、見目麗しい。
そこまでは正しい。
けれど、見目麗しい種族が人に優しいかと言うと、必ずしもそうではない。
「あの、お願いできませんでしょうか?」
「断る」
「あ、それは、なぜですか!?」
「気が乗らぬ」
「……えぇ」
普人族の大商家の跡取り、貴族、はたまた浮浪児であっても、見目麗しいエルフにとっては変わらない、と知るのは、新緑のように色鮮やかなのに冷え切った瞳で見つめられた時だ。
報酬を増やそうとも、条件を変えようとも。
気が乗らないから、とエルフが答えれば、依頼は受けてもらえない。
権力も地位も若さも美貌も、エルフは求めていない。
シンネランの国の中で、ただ生きていく事を邪魔するな、と冷たい瞳が告げてくる。
「エレン」
「どうした、ブレー?」
がっくりと崩れ落ちた若者が、助けを求める目で見上げた先に。
「少し手助けしてやってくれんか?」
「……分かった」
高祖父の代から取引がある、筋肉と髭と髪の塊の様なドワーフに向け頬を緩めるエルフの姿があった。
普人族として培った美醜感のせいなのか、自分の方が、と思ってしまう。
自分の方が若い。
自分の方が背が高い。
自分の方が見目が良い。
筋肉と毛だるまのドワーフに微笑むくらいなら、自分に微笑んでほしい。
そう願ってしまった者が、氷の壁を相手にしていると知って心を粉砕されるのは、日常茶飯事だ。
ゆえに初恋の人。
美しいエルフに初恋を奪われた者は、成長と共に知る事になる。
決して人に優しくないのに初恋を奪われてしまうのは、ドワーフへ向けられる柔らかな微笑みのせいだ、と。
街の人々は優れた技術を持つドワーフを一職人以上に敬っている。
ドワーフこそが、エルフの特別。
エルフがこの街にいるのは、ドワーフがいるから。
人々は今日も、見目麗しいエルフと素っ気ないドワーフの寄り添う姿を見る。
素気なく、濃い眉と胸元まで覆う髭で、なにを考えているか分かりづらくとも、エルフへ向ける視線に愛おしさを感じる。
ああ、この街は平和だ。
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