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封印せし宝物
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「それじゃ冰――そろそろ休むか。明日は朝一でアパートに回ってみよう。その後は散歩でもしながらお前の行ってみたいところがあればブラブラすりゃあいい」
「うん。あ、でも……お父様たちにご挨拶しなくていいの?」
今回は短期間での小旅行だ。明後日にはもう帰らなければならないのだし、香港に来ているというのに実家に挨拶もせずに帰るというわけにはいかない。そう言いたげな冰に、周はクスッと不敵に笑んでみせた。
「構わんさ。親父たちにはまたいつでも会える」
「でも……」
香港に行くと聞いて、冰はいつものようにファミリーへの土産を用意していたからだ。不安や悩みの中にあっても、そうした細かな気遣いを忘れないところは冰ならではだ。
「だったら夜にでも少し顔を出せばいい。行けば晩飯くらいは付き合うことになろうから――お前にも世話を掛けるが」
「ううん、そんな! 俺だってお父様たちのお顔を見たいもの!」
「そうか。ありがとうな」
「ありがとうは俺の方だよ。白龍、本当に俺……こんなにしてもらって。なのにヤキモチなんか焼いちゃったりして……恥ずかしい」
未だ不安の原因が焼きもちによるものだと思い込んでいるような様子に、周はこの尊い嫁のことが愛しくて堪らない思いにさせられるのだった。
「それじゃ我が奥方、休む前に亭主の頼みをひとつ聞いてくれるかな?」
ニッと意味ありげな笑みと共に今一度強く抱き寄せられる。
「カネじゃねえが、俺も獣の本能がな……。もう我慢できねえと言ってる」
つまり抱きたいというサインだ。
「白龍ったら……」
ポッと頬を染め、途端にモジモジとし出すところが可愛らしい。初めて情を交わし合ってから三年にもなろうというのに、いつまで経っても初々しい嫁に獣云々の冗談はともかく本当に野獣化しそうな気持ちにさせられる、そんな周だった。
◇ ◇ ◇
次の日、清明節にふさわしく穏やかな晴天となった清々しい朝の空気の中、鐘崎らと共に四人でアパートへと向かった。
建物はもう古いがアパートは当時のまま健在で、懐かしさが込み上げる。
「変わってないなぁ」
紅潮した頬に朝日を受けながら、冰は昨夜周から貰った大切な鍵を握り締めては瞳を細め、黄老人と共に住んでいた部屋の窓を見上げた。
「冰君たちが住んでたのはどの辺り?」
紫月に訊かれて冰はひとつの部屋を指差した。
「あそこです。あの三階の――」
アパートといっても建物はかなり大きく、ビルといえる。五階建てで戸数も多く、日本でいえばマンションといった感じである。壁や窓枠などは確かに古いが、趣きがある。繁華街ゆえに道幅も広く、朝から車通りも結構ある賑やかさだ。
「ここ、交通量も多いでしょう? 俺が子供の頃はよくじいちゃんに言われたっけなぁ。車に気をつけて学校行くんだぞって」
「そうだったんか。黄のじいちゃん、冰君のことホント大事にしてたんだな」
「ええ。とてもやさしいじいちゃんでした。あ、でもディーラーの技を教えてくれる時は厳しかったけど」
「はは! なるほどー」
そんな話に花を咲かせていると、道路脇に一台の高級車が滑るようにやって来ては冰らの目の前で停まった。
「あ――!」
降りて来た人物に驚かされる。なんとそれは周の兄の風と、側近の曹来だったからだ。しかももう一人――鄧浩の兄の鄧海も一緒だった。
「うん。あ、でも……お父様たちにご挨拶しなくていいの?」
今回は短期間での小旅行だ。明後日にはもう帰らなければならないのだし、香港に来ているというのに実家に挨拶もせずに帰るというわけにはいかない。そう言いたげな冰に、周はクスッと不敵に笑んでみせた。
「構わんさ。親父たちにはまたいつでも会える」
「でも……」
香港に行くと聞いて、冰はいつものようにファミリーへの土産を用意していたからだ。不安や悩みの中にあっても、そうした細かな気遣いを忘れないところは冰ならではだ。
「だったら夜にでも少し顔を出せばいい。行けば晩飯くらいは付き合うことになろうから――お前にも世話を掛けるが」
「ううん、そんな! 俺だってお父様たちのお顔を見たいもの!」
「そうか。ありがとうな」
「ありがとうは俺の方だよ。白龍、本当に俺……こんなにしてもらって。なのにヤキモチなんか焼いちゃったりして……恥ずかしい」
未だ不安の原因が焼きもちによるものだと思い込んでいるような様子に、周はこの尊い嫁のことが愛しくて堪らない思いにさせられるのだった。
「それじゃ我が奥方、休む前に亭主の頼みをひとつ聞いてくれるかな?」
ニッと意味ありげな笑みと共に今一度強く抱き寄せられる。
「カネじゃねえが、俺も獣の本能がな……。もう我慢できねえと言ってる」
つまり抱きたいというサインだ。
「白龍ったら……」
ポッと頬を染め、途端にモジモジとし出すところが可愛らしい。初めて情を交わし合ってから三年にもなろうというのに、いつまで経っても初々しい嫁に獣云々の冗談はともかく本当に野獣化しそうな気持ちにさせられる、そんな周だった。
◇ ◇ ◇
次の日、清明節にふさわしく穏やかな晴天となった清々しい朝の空気の中、鐘崎らと共に四人でアパートへと向かった。
建物はもう古いがアパートは当時のまま健在で、懐かしさが込み上げる。
「変わってないなぁ」
紅潮した頬に朝日を受けながら、冰は昨夜周から貰った大切な鍵を握り締めては瞳を細め、黄老人と共に住んでいた部屋の窓を見上げた。
「冰君たちが住んでたのはどの辺り?」
紫月に訊かれて冰はひとつの部屋を指差した。
「あそこです。あの三階の――」
アパートといっても建物はかなり大きく、ビルといえる。五階建てで戸数も多く、日本でいえばマンションといった感じである。壁や窓枠などは確かに古いが、趣きがある。繁華街ゆえに道幅も広く、朝から車通りも結構ある賑やかさだ。
「ここ、交通量も多いでしょう? 俺が子供の頃はよくじいちゃんに言われたっけなぁ。車に気をつけて学校行くんだぞって」
「そうだったんか。黄のじいちゃん、冰君のことホント大事にしてたんだな」
「ええ。とてもやさしいじいちゃんでした。あ、でもディーラーの技を教えてくれる時は厳しかったけど」
「はは! なるほどー」
そんな話に花を咲かせていると、道路脇に一台の高級車が滑るようにやって来ては冰らの目の前で停まった。
「あ――!」
降りて来た人物に驚かされる。なんとそれは周の兄の風と、側近の曹来だったからだ。しかももう一人――鄧浩の兄の鄧海も一緒だった。
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