極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「これ……俺とじいちゃんの家の鍵」
「そうだ。小さい頃からお前が毎日使っていた鍵だ。本当はな、お前が俺のところに来てからすぐに渡しても良かったんだが――」
 周は瞳を細めながら鍵を握る愛しい掌に自分の手を添えて、共に握り包んだ。

 三年前、黄老人が亡くなり冰が汐留を訪ねた時のことだ。周はその日の内に彼に部屋を与え、同じ邸の隣の部屋で共に住むように手配してしまった。半ば強引だったかも知れない。
 当時の冰にしてみれば、恩人である『漆黒の人』に会い、これまでの礼を述べることができたならば、一旦は香港に戻るつもりでいたのだ。その後、漆黒の人――周焔――が住む日本に移住したいとは思っていたが、引っ越しや職探しなどは追々考えるつもりでいた。ところが周は自分の社で働かないかと誘ってくれて、住む部屋まで用意してくれたのだ。元いた香港のアパートの解約から引っ越しまで、すべて彼の方で行うから任せろと言われ、その言葉に甘える形で今日まできたわけだった。
 まあ実際に様々な手続きを行ったのは側近の李あたりがやってくれたのだろうことは想像がつくが、すべて周の指示で動いてくれたのだろう。冰が再び香港に足を運ぶことになったのは、汐留へ礼に訪れてから二ヶ月後のことだった。その時は既に心通わせ合って、周の実家に行き、家族にも紹介されたものだ。
 アパートの鍵は引っ越し手続きの際、記念にと思って大家から貰い受けてくれたのだろうか――冰はそう思った。
「まさかこれ……白龍が取っておいてくれたの?」
「ああ。お前にとって大切なじいさんとの思い出の物だと思ってな」
 鍵は解約の際に貰い受けて、大家には新しい住人の為に鍵を付け替えてもらったのだろう。周ならばそのくらいのことを頼むのはわけもなかっただろう。
「そう、これ取っておいてくれたの……」
 ポロリとこぼれた涙を拭いながら冰は嬉しさを堪えるように、くしゃくしゃと顔を笑顔に染めた。
「白龍、ありがとう……! 本当に……!」
 こんなふうに気遣ってもらえることが嬉しくて堪らなくて、拭っても拭っても溢れる涙がとまらない。
「明日、行ってみるか」
「いいの?」
「もちろんだ。俺にとっても懐かしい場所だ。お前と初めて出会った所なんだからな」
「うん……うん! ありがとう白龍!」
 アパートの部屋にはもう新しい住人が住んでいるだろうが、外から眺めるだけでも懐かしい思い出が浮かんできそうだ。それに、長い間使い慣れた鍵はこうして取っておいてもらえたのだ。冰には心が震えるほどに嬉しいプレゼントに他ならない。
 日本を発つ前に周が『清明節にふさわしいプレゼントだ』と言っていたが、誠その通りだったというわけだ。
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