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三千世界に極道の涙
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「あ……んた、東堂さんと俺のこと……知って……」
「ああ! 知ってるともさ! 源さんは俺にとって親父もお袋も同然の人だからな! おめえだってホントは解ってんだろが! 源さんがどんなに……あったっけえ人かってのをよ! それなのに……てめえ、勝手にこんなバカなことしやがって!」
悔し涙に塗れながらも声を嗄らしてそう叫び、懸命に手当てを続けてくれる紫月に、汰一郎は嗚咽しながらコクりとうなずいた。
「……あ……んたの言う通りです……。本当は俺、東堂さんのこと……誰よりもいい人だって知ってた……。でも頭では解ってても、東堂さんを恨むことでしか自分を保てなかったん……だ。ホント……俺、大馬鹿野郎……だな」
汰一郎は震える手を差し出しながら、涼音に向かっても微笑みを見せた。
「涼……音、おめえにも……嫌な思いさして……すまな……い」
「汰一郎さんッ……!」
涼音はブンブンと首を横に振りながらも、大粒の涙で濡れた頬を汰一郎の差し出した手に擦り付けては泣いた。
「ご……めんな涼音。俺は……自分の逆恨みで……おめえまで騙そうだなんて……。けど……騙し切れなかった。最初は……おめえの親父に復讐するつもりで……おめえに近付いたのに……ホントに惚れちまうなんて……」
「汰一郎さん……! バカ……! あんた大馬鹿よ! アタイだって……アタイだって本気であんたのこと……」
「涼……」
すまない――そう言って汰一郎は意識を失ってしまった。と同時にちょうど綾乃木が駆け付けて、急ぎ容態を確かめる。
「大丈夫だ、息はある。紫月、急いで三浦屋に戻って縫合手術を行う! 手伝ってくれ」
「分かった!」
それを聞いた周が、すぐに汐留の鄧に連絡を入れて医療車を手配してくれた。ここから汐留なら車ですぐだ。綾乃木の手助けにもなるだろう。
こうして皆の懸命の処置により、汰一郎は一命を取り留めたのだった。
◇ ◇ ◇
汰一郎が意識を取り戻したのは一之宮道場の地下にある処置室だった。綾乃木と紫月、そして医療車と共に駆け付けてくれた鄧によって手術が行われ、無事に縫合が済んだのだ。紫月の処置が早かった為、思ったよりも重症にならなくて済んだとのことだった。
あの後すぐに源次郎も地下街にやって来て、術中もずっと汰一郎の側について見守っていた。源次郎の到着がもう少し早かったなら、汰一郎の思惑通り代田と鉢合わせてしまったかも知れない。そうならずに済んで良かったと思う鐘崎と紫月らであった。
「気がついたかい?」
「……東堂……さん」
「手術は無事に済んだそうだ。もう心配はいらない。傷が塞がればまた元のように元気になれる」
「……東堂さん、俺……」
「何も言うな。キミが無事だったんだ。それが何よりだよ」
細められた源次郎の瞳は赤く充血していて、寝ずに看病してくれていたのだろうことが窺えた。おそらくは己の思惑も、盗聴器の件も、既に何もかも知っているのだろう。汰一郎は本能でそう理解していた。
「ああ! 知ってるともさ! 源さんは俺にとって親父もお袋も同然の人だからな! おめえだってホントは解ってんだろが! 源さんがどんなに……あったっけえ人かってのをよ! それなのに……てめえ、勝手にこんなバカなことしやがって!」
悔し涙に塗れながらも声を嗄らしてそう叫び、懸命に手当てを続けてくれる紫月に、汰一郎は嗚咽しながらコクりとうなずいた。
「……あ……んたの言う通りです……。本当は俺、東堂さんのこと……誰よりもいい人だって知ってた……。でも頭では解ってても、東堂さんを恨むことでしか自分を保てなかったん……だ。ホント……俺、大馬鹿野郎……だな」
汰一郎は震える手を差し出しながら、涼音に向かっても微笑みを見せた。
「涼……音、おめえにも……嫌な思いさして……すまな……い」
「汰一郎さんッ……!」
涼音はブンブンと首を横に振りながらも、大粒の涙で濡れた頬を汰一郎の差し出した手に擦り付けては泣いた。
「ご……めんな涼音。俺は……自分の逆恨みで……おめえまで騙そうだなんて……。けど……騙し切れなかった。最初は……おめえの親父に復讐するつもりで……おめえに近付いたのに……ホントに惚れちまうなんて……」
「汰一郎さん……! バカ……! あんた大馬鹿よ! アタイだって……アタイだって本気であんたのこと……」
「涼……」
すまない――そう言って汰一郎は意識を失ってしまった。と同時にちょうど綾乃木が駆け付けて、急ぎ容態を確かめる。
「大丈夫だ、息はある。紫月、急いで三浦屋に戻って縫合手術を行う! 手伝ってくれ」
「分かった!」
それを聞いた周が、すぐに汐留の鄧に連絡を入れて医療車を手配してくれた。ここから汐留なら車ですぐだ。綾乃木の手助けにもなるだろう。
こうして皆の懸命の処置により、汰一郎は一命を取り留めたのだった。
◇ ◇ ◇
汰一郎が意識を取り戻したのは一之宮道場の地下にある処置室だった。綾乃木と紫月、そして医療車と共に駆け付けてくれた鄧によって手術が行われ、無事に縫合が済んだのだ。紫月の処置が早かった為、思ったよりも重症にならなくて済んだとのことだった。
あの後すぐに源次郎も地下街にやって来て、術中もずっと汰一郎の側について見守っていた。源次郎の到着がもう少し早かったなら、汰一郎の思惑通り代田と鉢合わせてしまったかも知れない。そうならずに済んで良かったと思う鐘崎と紫月らであった。
「気がついたかい?」
「……東堂……さん」
「手術は無事に済んだそうだ。もう心配はいらない。傷が塞がればまた元のように元気になれる」
「……東堂さん、俺……」
「何も言うな。キミが無事だったんだ。それが何よりだよ」
細められた源次郎の瞳は赤く充血していて、寝ずに看病してくれていたのだろうことが窺えた。おそらくは己の思惑も、盗聴器の件も、既に何もかも知っているのだろう。汰一郎は本能でそう理解していた。
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