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三千世界に極道の涙
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少し離れたところで代田がナイフを手にしたまま呆然というようにして突っ立っている。涼音は刺された汰一郎に覆い被さるようにして号泣していた。
「代田ッ! てめえ、いったい何しやがった!」
だが、聞かずとも状況は明らかだ。鐘崎はすぐさま代田を取り押さえて意識を刈り取り、紫月は汰一郎に駆け寄って刺された腹を確かめる。
「ク……ッ、かなり深えぞ。こいつぁ急がねえとやべえ!」
自らの着物の袖をむしり取って止血に掛かる。
「遼! 急いで綾さんを呼んでくれ!」
綾乃木は万が一の為にと応急処置が可能な医療具や薬剤を持って来ていたはずだ。彼がいればこの場で取り敢えずの手術も可能だろう。出血量からして一刻を争うのは確かだ。紫月は止血しながら汰一郎を励まし続けた。
「おい、しっかりしろッ! すぐに治療する! がんばるんだ!」
汰一郎はおぼつかない視線で紫月を見上げた。
「あ……んた、鐘崎組のヤ……クザだな……? もうちょっと……だったのに、しくじっちまった……。やっぱ俺は……一人じゃ何もできな……情けない男……だ。親の仇さえ……マトモに討てな……」
「いいからしゃべるな! すぐに縫合手術をする……。おとなしくしてるんだ」
側で泣きじゃくる涼音の話では、汰一郎が代田を刺そうとしたところ、逆に返り討ちに遭ったとのことだった。
「……アタシのせいよ……汰一郎さんはアタシを庇って刺されたの……!」
どのみち代田のようなチンピラには敵わなかったというところなのだろう。ところが汰一郎は虫の息ながら『そうじゃない』と言って話を続けた。
「別に……涼音を庇ったわけじゃ……ない。たまたま俺が……しくじっただけだ……。最初から解ってたんだ。代田のようなヤツには俺なんかじゃ敵いっこねえって。だから本当は……あの人……東堂のオヤジと代田を鉢合わせにして……東堂に殺してもらおうと思ってた……のに、あのオヤジったら乗ってきやしねえ……。仕方ね……から自分で殺るしかね……って思って」
紫月も鐘崎も驚いたが、やはりこの汰一郎は代田と源次郎を引き合わせて、源次郎に手を染めさせるつもりだったのだと知る。
「馬鹿野郎が……! てめえがそんなこと考えてたなんて知ったら……源さんがどんなに悲しむと思ってやがる……!」
さすがの紫月も悔し涙が抑えられない。グイと懸命に涙を拭いながらも、何とかして止血をせんと踏ん張っていた。
「死なせねえぞ! てめえにゃ、その根性叩き直して……源さんに会ってもらわなきゃなんねんだ……。この二十年、ずっとてめえンことを気に掛けてきた源さんの気持ちを……ちゃんと受け止めてもらわにゃなんねえってのよ……!」
懸命に処置を続けながらも、抑え切れない紫月の涙がポタリポタリと汰一郎の頬を打つ。そんな彼の表情を朧げに見上げながら、汰一郎の瞳からもまた、みるみると大粒の雫が溢れ出した。
「代田ッ! てめえ、いったい何しやがった!」
だが、聞かずとも状況は明らかだ。鐘崎はすぐさま代田を取り押さえて意識を刈り取り、紫月は汰一郎に駆け寄って刺された腹を確かめる。
「ク……ッ、かなり深えぞ。こいつぁ急がねえとやべえ!」
自らの着物の袖をむしり取って止血に掛かる。
「遼! 急いで綾さんを呼んでくれ!」
綾乃木は万が一の為にと応急処置が可能な医療具や薬剤を持って来ていたはずだ。彼がいればこの場で取り敢えずの手術も可能だろう。出血量からして一刻を争うのは確かだ。紫月は止血しながら汰一郎を励まし続けた。
「おい、しっかりしろッ! すぐに治療する! がんばるんだ!」
汰一郎はおぼつかない視線で紫月を見上げた。
「あ……んた、鐘崎組のヤ……クザだな……? もうちょっと……だったのに、しくじっちまった……。やっぱ俺は……一人じゃ何もできな……情けない男……だ。親の仇さえ……マトモに討てな……」
「いいからしゃべるな! すぐに縫合手術をする……。おとなしくしてるんだ」
側で泣きじゃくる涼音の話では、汰一郎が代田を刺そうとしたところ、逆に返り討ちに遭ったとのことだった。
「……アタシのせいよ……汰一郎さんはアタシを庇って刺されたの……!」
どのみち代田のようなチンピラには敵わなかったというところなのだろう。ところが汰一郎は虫の息ながら『そうじゃない』と言って話を続けた。
「別に……涼音を庇ったわけじゃ……ない。たまたま俺が……しくじっただけだ……。最初から解ってたんだ。代田のようなヤツには俺なんかじゃ敵いっこねえって。だから本当は……あの人……東堂のオヤジと代田を鉢合わせにして……東堂に殺してもらおうと思ってた……のに、あのオヤジったら乗ってきやしねえ……。仕方ね……から自分で殺るしかね……って思って」
紫月も鐘崎も驚いたが、やはりこの汰一郎は代田と源次郎を引き合わせて、源次郎に手を染めさせるつもりだったのだと知る。
「馬鹿野郎が……! てめえがそんなこと考えてたなんて知ったら……源さんがどんなに悲しむと思ってやがる……!」
さすがの紫月も悔し涙が抑えられない。グイと懸命に涙を拭いながらも、何とかして止血をせんと踏ん張っていた。
「死なせねえぞ! てめえにゃ、その根性叩き直して……源さんに会ってもらわなきゃなんねんだ……。この二十年、ずっとてめえンことを気に掛けてきた源さんの気持ちを……ちゃんと受け止めてもらわにゃなんねえってのよ……!」
懸命に処置を続けながらも、抑え切れない紫月の涙がポタリポタリと汰一郎の頬を打つ。そんな彼の表情を朧げに見上げながら、汰一郎の瞳からもまた、みるみると大粒の雫が溢れ出した。
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