極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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「当たり前だ――確かにこのシステムに関して私たちは全力を注いできた……。だが、息子の命に代えられるわけもない。今はキミたちにお渡ししようとも、いつの日かこれを凌ぐ新しいシステムを開発してみせるさ」
 鐘崎はなるべく疑われないようにと、半ば口惜しい素振りも交えながら、わざと怯えたふりを装うように手を震わせて操作を続けていく。
「は――! ご立派なお心掛けですね! あなたのそういう向上心には感服いたしますよ」
 馬民は憎々しげにしながらもアクセスを待っている。鐘崎は子涵を懐に抱えながら画面に向かって瞳を開くように言った。
「いいか、子涵。ここに視線を合わせて少しの間じっと目を開けているんだ」
「……うん、分かった」
 子涵が言う通りにすると、虹彩を認知した画面が一つ目の鍵を開ける映像が表れた。
「次はあなただ」
 続いて秘書の女性の虹彩を認証させる。鍵は次々と開いていき、脇から画面をチラ見しながら馬民らが浮き足だっていく気配が感じられた。
「今度は指紋だ。子涵、ここに指を置いて押し付けておくれ。少しの間動かしちゃいかんぞ」
 鐘崎は子涵の手を画面に持っていき、一緒に手を携えながらわざとモタモタやって時間を稼ぐ。
「ん、もうちょっと手を開いて指の腹で押し付けるんだ」
 いかにも親子の愛情あふれるやり取りに、馬民らはすっかりと信じ込んだ様子だ。鍵が開くのを今か今かと待ち焦がれる顔つきでいる。すると、ここで李から潜入成功の合図である椿の画像が送られてきて、鐘崎は内心ホッと胸を撫で下ろした。あとは未だ囚われている本物のCEOを何とか上手く奪還するのみだ。
 三人の指紋認証が済んだところで馬民に向かってこう言った。
「第二の鍵が開いた……。あとは私がパスワードを入力するのみだが――その前に子涵と彼女と、それから私の身代わりになってくれたエージェントの男性を解放して欲しい。彼は私の為に人質になってくれたのだ。これ以上ご迷惑をお掛けするわけにはいかん」
 鐘崎が言うと、馬民はまあいいでしょうと言って承諾した。とはいえ邸の入り口には見張りが数人いる。この場から逃すふりをしながら結果的には見張りに拘束させればいいだけだと薄ら笑いを浮かべている。
「キミ、二人を頼むよ」
 鐘崎はお付きとして共にやって来ていた周に子涵らを預けると、自分たちの乗って来た車で無事に脱出してくれと告げた。周はうなずき、子涵少年と本物のCEO、それに秘書の女性とメビィを連れて地下室を後にした。
 当然、鐘崎にも入り口に敵が待ち構えていることくらいお見通しである。周ならばそれら数人を片付けるくらい朝飯前と知ってのことだった。
 その期待通りに周は易々見張りを打ち破り、王親子たちを外の李らに預けると、再び地下室へと舞い戻った。柱の陰に身を潜めては鐘崎がパスワードを打ち終えるタイミングを待つ。画面が閃光を放ったと同時に踏み込んで加勢に出る為だ。
 鐘崎もまたそのわずかな気配で周が戻って来たことを悟る。裏口からは既に源次郎らが潜入を果たしてくれているし、最後のパスワード入力と同時に踏み込んでくれるだろう。

 確保の瞬間までいよいよ準備は整った。
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