極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
957 / 1,212
春遠からじ

34

しおりを挟む
「……いいだろう。とりあえず言い分は聞いて差し上げますよ。ですが、まだ完全にあなた方を信じたわけじゃない。その手に持っているシステムを引き渡していただいて、それが本物だと確認できたらこの二人を解放します」
 馬民マ ミィンは引き連れている男たちにワン親子を預けると、秘書が手にしていたアタッシュケースをよこせと言い張った。
 そこで鐘崎の出番だ。極力CEOの話し方を装いながら肝心の交渉に踏み出すことにする。
馬民マ ミィン君、まさかキミがこんなことをするだなんて――非常に残念だがね。息子たちの命には代えられない。この通りシステムはキミに渡すから、彼らの無事を約束して欲しい」
 そう言って秘書の女性からアタッシュケースを受け取り、それを開いてみせた。中からはモバイル型のパソコンが出てきて、鐘崎はそれを立ち上げてみせる。
「これを開くには私とここにいる彼女と――それから息子の子涵ズーハンの虹彩が必要でね。それが第一の鍵だ。次に私たち三人の指紋、最後に私のみが知るパスワードを入力して初めてアクセスが可能となる」
 システムを開くには子涵ズーハン自身が必要不可欠だと主張して、彼を解放するように要求した。
「……チッ! アクセスの鍵に息子の虹彩と指紋を組み込むとはね。あなたの溺愛ぶりには恐れ入りますよ」
 馬民マ ミィンは仕方なく子涵ズーハン少年を鐘崎らの元へと連れてくるように言った。
 これでひとまずは子涵を取り戻すことに成功――あとは本物のCEOを何とかしてこちらの手に引き渡すよう仕向けるのみだ。打ち合わせ通り外で待機している李らがこちらの会話を傍受しながら、さも本当に虹彩や指紋で一つずつ鍵が開いていくように繕ってくれることだろう。その間できる限り時間を稼ぐとして、源次郎らが上手く侵入口を見つけて突破してくれれば、その時点で李から椿の花の合図が送られてくるはずである。鐘崎は極力怯えたふりを装いながら、なるべく不器用に時間をかけてアクセスする動作を続けることにした。
 一方、子涵ズーハンの方でもその声に聞き覚えがあったのだろう、助けに来たのが鐘崎だと分かったようだった。むろん子供が実の父親を間違えるはずもないから、彼が自分たちを助ける為にやって来たということを理解したのだろう。ここに連れて来られてから何かとんでもない事件に巻き込まれたのだということを実感していたようだ。
 子涵ズーハンは怯えつつも鐘崎の顔を見上げながら小声でこう囁いた。
「遼兄ちゃん……だよね? 助けに来てくれたの?」
 その表情からは、昨夜は酷いことを言ってごめんなさいとでも言いたげな様子が窺えた。
「僕……その、迷惑掛けて……ごめんなさ……」
 鐘崎は子涵ズーハンの肩を抱き寄せると、表面上は父親のふりをしながら耳元で囁き返した。
「謝るのは父さんの方だよ、子涵ズーハン。怖い思いをさせてすまなかったな。だがもう大丈夫だ。父さんの言う通りにしていれば何も心配はないからな」
 幼い子涵にも今が緊急事態だというのは肌で感じるのだろう。鐘崎に合わせるように必死にうなずいた。
「うん……パパの言う通りにする」
 子供が父親だと認めたことから、馬民マ ミィンらにも鐘崎が本物のCEOなのだと信じ込ませることができた様子だ。苦々しげに舌打ちながらも、吐き捨てるようにこう言った。
「はん……! やはりこっちの男は替え玉だったというわけですか。しかし社長さん、よく自ら出向いてくれましたよ。あなたが来なければこの替え玉と息子さんの命は無かったところですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...