極道恋事情

一園木蓮

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慟哭

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 その倉庫の方ではまるで戦さながらの血の海と化していたが、誰一人葬ることなく意識を刈り取るだけで済ませた鐘崎の腕はもはや神業であった。
 正直に言えば全員を葬ってしまいたいのは山々だが、仮にもここは日本国内だ。海外ならばともかく、例え正当防衛といえどもやり過ぎだとの非難が殺到するのもまた確かだ。こんなふざけたことをやらかした極悪人どもに例え一ミリでも世間の同情をくれてやるつもりはない。一番厳しい方法で沙汰を下すには、命を奪うという形ではないことを鐘崎は重々承知していた。だからといって温情をかけるわけでは決してない。殺さないことが最も敵を貶める方法だというのを知っているだけだ。
 意識を刈り取られた敵連中は、おそらく肋が砕けるなどの重傷を負ったものの、命に別状はないギリギリの状態で仕留めてある。ただしすぐには動くこともままならず、治療後も二度と悪事に手を染めることはできないであろう。傭兵上がりという彼らにとって、いっそ葬ってくれた方が楽だといえるかも知れない生き地獄が待っているのみだ。これこそが生かしながらにして精神を折り、屍と葬り去る――鐘崎の見舞った決着の付け方といえた。
 そうしていよいよ残ったのは鞠愛と指示役の男だけとなり、焦った男が鐘崎に向けて発砲してきたが、まるで見当違いの方向に飛んだ弾が床で伸びている彼らの味方の腹を抉って血が噴き出した。単に気絶していただけの傭兵は着弾の衝撃で意識を取り戻したわけか、凄まじい絶叫を上げて床を転げ回る。撃った本人は腰を抜かしたように後ずさっては、「ヒィイイイ……」と恐怖に慄いていた。
「ま、待て……っ! 待ってくれ……ッ! こ、殺さないでくれえーーー!」
 叫ぶも既に嗄れて声になっていない。鞠愛は呆然としたように地面の上でへたり込んでいる。
 鐘崎は、這いずりながら逃げようと立ち上がった男の脚先を蹴り飛ばすと、その場で羽交い締めにしてコンクリートの床へと捩じ伏せた。
「お、お、お、俺が悪いんじゃない……! 俺は雇われただけだ! そ、そこの小娘に……上手いこと乗せられ……うぐぁあッ!」
 言い終わらない内に拳銃を握っていた手を思い切り踏みつけられて、地獄の業火に突き落とされたような絶叫が倉庫の天井まで届くほどにこだました。鈍いベキッという音は骨が砕けた証拠だ。もう二度と引き金を握ることすら不可能だろう。
「ひぃえああああー……や、やめろ……やめてくれえええええッ!」
 鐘崎が男の髪を掴み上げると、その顔は涙か汗か鼻水かといったくらいにぐちゃぐちゃになっていた。

「大河内莧だな? ふざけたことをしてくれた――」

 決して怒鳴っているわけではない声音が、逆にそら恐ろしい地鳴りを思わせるような怒りをたたえている。既にフルネームまで知られているということは、素性も身元もすっかり割れているのだろう。今更ながら鐘崎組を侮ったことに後悔の念が過ぎる。

「ヒ……ヒィイイイ……か、勘弁してくれッ! お、俺がやりたくてやったんじゃな……ッ」

「てめえは触れちゃならねえものに手を出した。この世で最も大事な俺の宝にな」

「し、知らな……俺は言われた通りにしただけだッ! そ、そこの女に……嵌められて……!」

「女のせいにするってのか」

「だ……っ、ほんとに……あ、あんたを恨んでるから……その嫁をぶっ殺してくれ……て、女が……」
 言い終わる前にドカっとその頭を踏みつけられて、男は完全に意識を失った。
 それを見ていた鞠愛は、恐怖に震えながらも鐘崎が自分を庇ってくれたと勘違いしたようだ。女のせいにするのか――という言葉が、彼女の耳には庇ってもらえたと聞こえたのだろう。まったくもって浅はかとしか言いようがない。
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