極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「……分かった。アンタの言う通り撤収しよう」
 存外素直に引き上げる意を示してくれた。
「そっか。ご理解に感謝だ」
 紫月はニッと微笑んだ。それじゃあ、と言ってヒラヒラと手を振ったが、男たちは話し足りないといった顔つきでいる。
「なぁ、アンタ……。アンタもあの女と同じ中国人か? すげえ技持ってるのな。あんなパフォーマンス初めて見たぜ」
 すっかり感心して、逆に興味津々の様子だ。
「アンタら、できることならここに残って俺らのグループに入って欲しいくらいだぜ!」
 そうだそうだと皆で顔を見合わせながら敬服の視線で見つめてくる。その雰囲気をそのままに鄧がそっくりなゼスチャーまで携えて訳してくれるのに、さすがに笑いを堪えるのも限界といった紫月と曹であった。
「はは、有り難えが俺たちは単なる旅行者だ。気持ちだけ貰っとくぜ!」
 紫月が笑いをごまかしがてらニヤっと笑うと、その言葉だけでも感激だというようにして、全員が瞳を輝かせた。まるで可愛い仔犬の集団がちぎれんばかりに尻尾を振ってお座りしている図が思い浮かんでしまうほどだ。

(鄧浩、頼むからこの状況まで通訳してくれるなよ!)

 鄧のことだ。『皆さんが仔犬のような顔つきで尻尾を振っていますよー』などと説明されたらそれこそ腹筋崩壊につながると、曹は心の中で密かに叫ぶ。
 そんなことは露知らずの暴走グループは、名残惜しそうにしながらも素直に引き上げて行ったのだった。
 その後ろ姿を見送りながらホッと肩の荷を下ろす。
「おいコラ、鄧浩! 笑かすんじゃねえ!」
 遠ざかって行く一団の姿が小さくなったところで、曹がゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。
「はい――? 私、何かおかしなことをしましたか?」
 コロリといつもの口調へと戻った鄧に、紫月はもちろんのこと、楊宇までもが思わず吹きそうになるのを必死で堪え、皆一様に変顔になったのを見合っては、ついに大爆笑と相成った。何がそんなに可笑しいのかと、分かっていないのは鄧だけだ。ポカンと肩をすくめながら不思議そうに目をパチクリとさせている。
「や、すんません鄧先生。先生の通訳があんまりにも正確っつか、上手いもんで……きっとヤツらの口調そのまんまなんだろなって思いながらも、ここで笑っちゃいけねえって思って堪えるのに苦労しましたよ」
 ププーっと腹を抱えながら紫月が暴露する。
「おや、そうでしたか? それは失礼。なるべく遜色なくお伝えしなければと思ったものですから」
「遜色なくって……お前なぁ! はー、堪らん! もう勘弁してくれ。腹捩れそうだ! 鄧浩、お前さんがそんなユーモア男だとは思わなかったぜ!」
 文字通り腹を押さえながら笑い転げる曹を横目に鄧は相変わらずの不思議顔――そんな様子にまたもや皆で大爆笑となったのだった。
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