極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「な、なるほどね。で、女の名前は?」
「バーじゃユリアとか呼ばれてたが、本名は知らねえ。ホントか嘘か知らねえが、親父がマフィアだからってえらく高飛車だったぜ。ただ……実際羽ぶりも良くて、俺らも何度か奢ってもらった」
 やはりか。愛称を使っていても素性を聞けば楚優秦に間違いないだろう。
「それで俺たちを襲撃することになった?」
「そうだ……。いい金になるバイトがあるから乗らねえかって。俺たちも暇だったし、面白そうなんで引き受けたんだ。だがまさかこんなにデキる相手だなんて聞いてなかったっつーか……」
 鄧が相変わらずにそんな訳し方をするものだから、紫月も曹も『本当にそんなことを言ってるのか?』と、思わず顔の筋肉がピクピクと動いてしまいそうになり、ここで吹いてはさすがに相手にも失礼だろうと笑いを堪えるから、傍目から見ればまさに変顔になっていそうな勢いだ。紫月は咳き込みそうになりながらも、極力真面目を装って話を続けた。
「……ゴホッ……と、失礼。あー、その……なんだ。お褒めに与って光栄だがね。それで報酬は一人いくらの約束だったんだ?」
 それは日本円にして一人頭二、三万という額だったそうだ。
「俺たちは好きに暴れていいって話だったし、それで小遣い稼ぎになるんならと思ってよー……。ところがいざ蓋を開けてみりゃあ、バケモノみてえに強えヤツらが相手って……。ったく、冗談キツいってのよ。こちとら面目丸潰れだ」
 口ぶりはもちろんのこと、少々ふてくされた表情まで再現する鄧の通訳に、ますます変顔に拍車が掛かってしまう紫月であった。
「ハ、ハハ……。そいつぁ恐縮だ。だがまあ、さっきも言った通り、女はウチの仲間が取り押さえた。あんたらの報酬はチャラになっちまったが、警察に差し出されるよりはマシだろ? このまま引き上げてくれるってんなら今夜のことは無かったことにしてもいい。どうだ?」
 男たちにとっては選択肢など決まっている。報酬が貰えなくなったことは腹立たしいが、その上警察に突き出されては堪ったものじゃない。おとなしく引き下がるしかない。
 もう一つ選択肢があるとすれば、ここで再度やり合って紫月らを潰すという道も残ってはいるが、十中八九惨敗するのは目に見えている。これ以上マシーンを傷付けたり、怪我人が出ない内に退散するが賢明だ。
「……正直アンタらには勝てる気がしねえ。ってよりも、今となってみりゃ……あの女にいいように踊らされたことに腹が立って仕方ねえ」
 男たちにしてみれば、彼女がどういった目的でこの紫月らを潰したいのかが分からないようだったが、これまでの対戦や会話を通して、思っていたのとはえらく印象が違ったのだろう。おそらくは女のくだらない我が侭などで、自分たちは単に都合よく使われただけだということを悟ったようだった。
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