極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 その日の夜は予定通り仲間内での会食が無事に済んだ。鐘崎と鄧も行程終了後は速やかに撤収し、何事もなく一日の任務を終えた。
 次の日はプライベートで買い物に出掛けるという行程だ。昨夜とは違って人目につくことが予想される為、いよいよ腹を据えて掛からねばならない。鐘崎がコネクティングルームに到着すると、隣の特別室からコンコンとドアを叩く音がして、メビィが声を掛けてきた。
「遼二さん、お着きになられたの? ちょっと失礼してよろしいかしら?」
 鐘崎はまだクラウスへと変装していなかったが、ルームの鍵を開けて彼女と対面した。
「あら! まあなんていうお姿!」
 メビィが驚くのも無理はない。鐘崎の出立ちが老紳士だったからだ。
「本当に遼二さん? これも変装ですの?」
「ああ。出入りの際はなるべくクラウスの雰囲気とはかけ離れた印象の方がいいと思ってな」
「でも……なんて見事な。これじゃどこから見ても七十代くらいにしか見えないわね!」
 大したものだとメビィが感心顔でいる。
「買い物に出掛けるのは昼少し前だったな。まだ時間的には余裕だ。小一時間もすれば鄧先生が迎えにやって来るだろう」
 鐘崎はそれまでにクラウスへの変装を整えると言った。
「私もこれから夫人に化けるわ。それにしても見事な変装用具ね。すごい衣装ケースの山だけど、この中にいろいろな変装道具が入っているの?」
 部屋には紫月の用意した変装用具一式がそれぞれの服から靴、小物に至るまで一パターンずつ衣装ケースに詰められて仕分けされたものが置かれていた。各ケース毎に老人風とかベンチャー企業の若社長風、会社の重役風などといったラベルが付けられていて、一目で何の変装かが分かるようになっている。
「それにしてもすごい準備ね。これなら時短ですぐに着替えられるわ」
 これも全部あなたが準備されたの? と訊く彼女に、鐘崎は微笑で答えた。
「これは俺の嫁が準備してくれたものだ。確かに時短で済むし、非常に助かっている」
「まあ、奥様が……。ご主人の仕事をよく理解していらっしゃるのね」
 メビィは感心しながらも、積まれたケースをしきじきと眺めていた。
「そういえば遼二さんの奥様は男性の方なんですってね」
 初対面で尚且つこちらの素性をある程度知っている相手であれば、必ずと言っていいほど一度は訊かれる質問だ。鐘崎にとっては特に隠すことでもないので、その通りだと答えた。
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