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身代わりの罠
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「奥様っていうことは籍も入れていらっしゃるの?」
「ええ」
「まあ、じゃあ本気ですのね。……どんな方なのかしら?」
「俺にとってはかけがえのないヤツです。世間一般の夫婦と何ら変わりませんよ」
「へえ……。奥様のことを愛していらっしゃるのね」
「もちろん」
老紳士の変装を解きながら鐘崎はごく当たり前のようにそう答えた。普通ならばそれ以上言及されることもないのだが、どういうわけかメビィは鐘崎の相手が男性というのが気になって仕方ないようだ。
「でも遼二さん、女性にもモテたんじゃありません? 鐘崎組といったら私たち裏の世界では知らない者がいないほどの有名処ですし、遼二さんもお父様の僚一さんもすごく男前ですもの。女が放っておかないと思うわ」
絶対に引き手数多のはずなのに、どうしてわざわざ同じ男性なんかと結婚までしたの? と言いたげだ。正直なところ鐘崎にとってはうっとうしい話題といえる。だがまあ、紫月からも一緒に組む女性に対して無愛想にするなよと釘を刺されていたこともあって、ここはにこやかに答えるしかなかろう。
「俺が生涯を共にしたいと思っただけです。男性だからとか女性だからというのは関係なく、俺はヤツと一緒に生きたいと思ったのでね」
この手の質問はこれまでにも嫌というほど受けているので、正直に答えるが賢明だ。メビィの方も鐘崎のあまりのストレートさにタジタジと押され気味でいる。
「……随分はっきりとおっしゃるのね。羨ましいご夫婦だと思うけど……でもじゃあ女性には全くご興味ないのかしら?」
「興味というよりも――既に結婚している身なのでね。そういった意味では自分の嫁以外には興味がないということになるだろうな。男性女性関係なく――ね」
鐘崎は笑いながらクラウス用の変装道具を衣装ケースから引っ張り出す。いくら時間に余裕があるといっても、そろそろ準備しなければまずいだろう。だが、メビィの方ではまだまだ興味が抑えきれない様子だ。鐘崎にとってはさすがに眉根を寄せさせられるような話題を振ってきた。というよりも、彼女にとってはそれが一番訊きたかったことなのかも知れない。
「ねえ遼二さん。あなたが奥様を大切にしてらっしゃるのは分かったけれど……。でもたまには違った空気に触れてみたいとは思わないのかしら?」
「――違った空気?」
「ええ、そう。例えば……奥様以外の女と寝てみたいとか、男性ならばそういう欲求があってもおかしくないと思うんだけれど」
つまり浮気願望はないのかということだろうか。
「――ねえな」
少々ぶっきらぼうに鐘崎は断言で返した。
「……随分はっきりおっしゃるのね」
「本当のことだからな。それよりあんたもそろそろ支度しなくていいのか? クラウスの嫁さんに変装するには化粧もせにゃならんだろうが」
これ以上仕事以外の話に付き合う義理もない。鐘崎は着替えるからと言って、メビィを隣の部屋へと追い返すことにした。
「ええ」
「まあ、じゃあ本気ですのね。……どんな方なのかしら?」
「俺にとってはかけがえのないヤツです。世間一般の夫婦と何ら変わりませんよ」
「へえ……。奥様のことを愛していらっしゃるのね」
「もちろん」
老紳士の変装を解きながら鐘崎はごく当たり前のようにそう答えた。普通ならばそれ以上言及されることもないのだが、どういうわけかメビィは鐘崎の相手が男性というのが気になって仕方ないようだ。
「でも遼二さん、女性にもモテたんじゃありません? 鐘崎組といったら私たち裏の世界では知らない者がいないほどの有名処ですし、遼二さんもお父様の僚一さんもすごく男前ですもの。女が放っておかないと思うわ」
絶対に引き手数多のはずなのに、どうしてわざわざ同じ男性なんかと結婚までしたの? と言いたげだ。正直なところ鐘崎にとってはうっとうしい話題といえる。だがまあ、紫月からも一緒に組む女性に対して無愛想にするなよと釘を刺されていたこともあって、ここはにこやかに答えるしかなかろう。
「俺が生涯を共にしたいと思っただけです。男性だからとか女性だからというのは関係なく、俺はヤツと一緒に生きたいと思ったのでね」
この手の質問はこれまでにも嫌というほど受けているので、正直に答えるが賢明だ。メビィの方も鐘崎のあまりのストレートさにタジタジと押され気味でいる。
「……随分はっきりとおっしゃるのね。羨ましいご夫婦だと思うけど……でもじゃあ女性には全くご興味ないのかしら?」
「興味というよりも――既に結婚している身なのでね。そういった意味では自分の嫁以外には興味がないということになるだろうな。男性女性関係なく――ね」
鐘崎は笑いながらクラウス用の変装道具を衣装ケースから引っ張り出す。いくら時間に余裕があるといっても、そろそろ準備しなければまずいだろう。だが、メビィの方ではまだまだ興味が抑えきれない様子だ。鐘崎にとってはさすがに眉根を寄せさせられるような話題を振ってきた。というよりも、彼女にとってはそれが一番訊きたかったことなのかも知れない。
「ねえ遼二さん。あなたが奥様を大切にしてらっしゃるのは分かったけれど……。でもたまには違った空気に触れてみたいとは思わないのかしら?」
「――違った空気?」
「ええ、そう。例えば……奥様以外の女と寝てみたいとか、男性ならばそういう欲求があってもおかしくないと思うんだけれど」
つまり浮気願望はないのかということだろうか。
「――ねえな」
少々ぶっきらぼうに鐘崎は断言で返した。
「……随分はっきりおっしゃるのね」
「本当のことだからな。それよりあんたもそろそろ支度しなくていいのか? クラウスの嫁さんに変装するには化粧もせにゃならんだろうが」
これ以上仕事以外の話に付き合う義理もない。鐘崎は着替えるからと言って、メビィを隣の部屋へと追い返すことにした。
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