526 / 1,212
三千世界に極道の華
49
しおりを挟む
「なるほど。一戦構えるに当たっては、周りの関係ねえ者たちの安全を確保する必要があるな」
茶屋や遊女、それに外界から来る客たちを巻き込むわけにはいかないからだ。
「武器庫を押さえると共に兵糧を断つのも手だな。奴ら、メシはどうしてるんだ? 外から持ち込むと言っても弁当ばかりってわけじゃなかろう?」
さすがは鐘崎である。なかなかにいい目の付け所だが、この地下街は元々ここから出ずとも生活ができるようにと計算されて造られた街である。生鮮食料品などを売る店も存在しているし、それを生業にしている者たちも数多くいる。つまり、この街の住人すべてが遊郭関係者とは限らないわけで、外の世界と何ら変わることなく生活そのものができてしまうということだ。昔の戦のように移動する軍の兵糧を尽くのとは少々意味合いが違うのだ。丹羽もそこで苦労しているのだと言った。
「そうか……。兵糧の線が無理となるとやはり武器庫を襲撃するしかねえだろうな。思っていた以上にデカい戦になるかも知れねえな」
苦い顔の鐘崎に、皆も同様に難しい表情で黙り込む。
「とにかくこちらの戦力を万全にするしかねえ。時間は掛かるが、焦らず敵に気付かれねえよう注意を払いながら日々見方をこの地下世界に引っ張って体制を整える。ある程度制圧できそうだと踏んだところで一気に警察からの応援がなだれ込むようにして一網打尽にしたいと思っている」
それまでは今しばらくこれまで通りの営業を続けていくしかないと丹羽は言った。
「鐘崎は奥方のことが心配だろうから、毎日この茶屋に通い詰めるという形で常連になってくれ。その為に必要な資金は俺の方で都合する」
花魁を買うには膨大な資金が必要である。客が何日も居座り続けることは江戸吉原の頃からもご法度とされていたので、通い続けるには一度引き払ってからまた次の晩に新たな客として訪れるしかないわけである。当然資金も嵩むが、花魁をモノにするには賭場を通らなければならないとなると尚更だ。もちろん茶屋の主人に事情を打ち明けて協力してもらうという手もあるが、それだと敵への上納金が滞ってしまう。鐘崎としては紫月の為ならばそのくらいどうということもないわけだが、助力を頼む丹羽の側からすれば、それも経費といった認識でいるのだろう。
「周の方はこのまま茶屋の働き手という形でここに残ってくれ。入る時は客という名目で来たから大門でもそう厳しくはチェックされずに済む。一人二人帳尻が合わねえくらいなら、なんとかごまかしは効くはずだ。ここの主人には俺から伝えておく」
これでひとまず周は下男として茶屋に常駐できることになる。
「とにかく今夜はゆっくり休んでくれ。武器庫への襲撃の手筈が整ったらまた連絡する」
丹羽の仲間である警察関係者も各茶屋に散らばりながら機会を窺うというので、何かあればすぐにこの地下施設内でも団結は可能だ。そうして鐘崎らは丹羽を見送ると、ひとまずは久々の夫婦再会の時を過ごしたのだった。
茶屋や遊女、それに外界から来る客たちを巻き込むわけにはいかないからだ。
「武器庫を押さえると共に兵糧を断つのも手だな。奴ら、メシはどうしてるんだ? 外から持ち込むと言っても弁当ばかりってわけじゃなかろう?」
さすがは鐘崎である。なかなかにいい目の付け所だが、この地下街は元々ここから出ずとも生活ができるようにと計算されて造られた街である。生鮮食料品などを売る店も存在しているし、それを生業にしている者たちも数多くいる。つまり、この街の住人すべてが遊郭関係者とは限らないわけで、外の世界と何ら変わることなく生活そのものができてしまうということだ。昔の戦のように移動する軍の兵糧を尽くのとは少々意味合いが違うのだ。丹羽もそこで苦労しているのだと言った。
「そうか……。兵糧の線が無理となるとやはり武器庫を襲撃するしかねえだろうな。思っていた以上にデカい戦になるかも知れねえな」
苦い顔の鐘崎に、皆も同様に難しい表情で黙り込む。
「とにかくこちらの戦力を万全にするしかねえ。時間は掛かるが、焦らず敵に気付かれねえよう注意を払いながら日々見方をこの地下世界に引っ張って体制を整える。ある程度制圧できそうだと踏んだところで一気に警察からの応援がなだれ込むようにして一網打尽にしたいと思っている」
それまでは今しばらくこれまで通りの営業を続けていくしかないと丹羽は言った。
「鐘崎は奥方のことが心配だろうから、毎日この茶屋に通い詰めるという形で常連になってくれ。その為に必要な資金は俺の方で都合する」
花魁を買うには膨大な資金が必要である。客が何日も居座り続けることは江戸吉原の頃からもご法度とされていたので、通い続けるには一度引き払ってからまた次の晩に新たな客として訪れるしかないわけである。当然資金も嵩むが、花魁をモノにするには賭場を通らなければならないとなると尚更だ。もちろん茶屋の主人に事情を打ち明けて協力してもらうという手もあるが、それだと敵への上納金が滞ってしまう。鐘崎としては紫月の為ならばそのくらいどうということもないわけだが、助力を頼む丹羽の側からすれば、それも経費といった認識でいるのだろう。
「周の方はこのまま茶屋の働き手という形でここに残ってくれ。入る時は客という名目で来たから大門でもそう厳しくはチェックされずに済む。一人二人帳尻が合わねえくらいなら、なんとかごまかしは効くはずだ。ここの主人には俺から伝えておく」
これでひとまず周は下男として茶屋に常駐できることになる。
「とにかく今夜はゆっくり休んでくれ。武器庫への襲撃の手筈が整ったらまた連絡する」
丹羽の仲間である警察関係者も各茶屋に散らばりながら機会を窺うというので、何かあればすぐにこの地下施設内でも団結は可能だ。そうして鐘崎らは丹羽を見送ると、ひとまずは久々の夫婦再会の時を過ごしたのだった。
22
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる