極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
90 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)

22

しおりを挟む
「組長さん、そちらがお嬢さんで――?」
 状況にそぐわないくらい落ち着いた声音でそう訊いた紫月を見るなり、道内は片眉を吊り上げながらソファから立ち上がった。
「なんだ、てめえはッ!? 若頭はどうした!」
「若頭は不在です」
「不在だとっ!? ふざけるな! こちとら娘が手籠めに遭ってんだ! どう落とし前つけてくれる!」
 如何にもわざとらしく被害者面を装っている。娘の方も肩を震わせながらうつむいたままだ。はたしてそれが演技なのかそうでないのかは、一見しただけでは判断しかねる。だが、彼女の青痣を見る限り、紫月には鐘崎の仕業ではないことが確信できた。
「――失礼ですが、お嬢さんはお幾つですか?」
 丁寧に紫月は訊いた。すると道内は、より一層いきり立ったようにして怒鳴り返してきた。
「よくぞ訊いてくれたな! うちの娘はまだ十九歳だ! 未成年に手を出しやがって、ただで済むと思うなよ!」
「――そうですか。ではこちらも失礼を承知でうかがいますが、未成年のお嬢さんを何故酒の席に連れて行かれたのですか? しかも今夜の会合は仕事絡みとうかがっておりますが」
 道内にとっては痛いところを突かれた質問だ。
「それは……! か、鐘崎の野郎がそうしろと言ってきたからだ! 俺に娘がいることを知っていやがったのか、灼のひとつもさせろって言うから! こ、こっちも仕事を頼む以上……そんくらいの要望ならと思って、娘を連れてった。それなのにあの野郎……ッ、いきなり俺の鳩尾に一発食らわせやがって! その場で娘を強姦しやがった! 俺は身動きが取れねえまんま、ただ見ているしかできなかったが、あいつは嫌がる娘を引っ叩いて汚ねえ欲を剥き出しにしやがったんだ! 大事な商談だからって人払いまでさせたのもあいつの方だ! 最初っから娘が目当てだったに違いねえ!」
 まるで立て板に水の如く、ベラベラと言いたい放題だ。鐘崎組の組員たちは怒りも心頭――若頭がそんなことをするはずがないと、今にも殴り掛かりたいのを必死で抑えているといった表情で唇を噛み締めている。
 だが、紫月は冷静にその場で自らの上着を脱ぐと、対面でうつむいている娘の肩を覆ってやりながら言った。
「――組長さん、あんたそこまでして鐘崎組と縁を持ちてえか? うら若えお嬢さんにこんな格好させて、男連中の前で晒し者にして……! それが親父のすることかよ」
 口調は冷静で、怒鳴るでもなければ至って丁寧だが、道内を見据えた紫月の視線の中には揺るがない怒りの焔が静かに燃え盛っているといったふうだ。
 何より驚いたのは道内の娘だった。上着を掛けてくれた紫月を見上げたまま、驚愕の表情を浮かべている。まさかこんなふうに庇ってもらえるとは思ってもみなかったのだろう。道内にとってもまた然りだったようだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...