極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
106 / 112
極道恋浪漫 第三章

104

しおりを挟む
「ホテル・エドモンドはここか――。本当にただの遊興か、あるいはお忍びでのアバンチュールとするなら――目的はカジノかバー辺りだろう。女連れならホステスのいるクラブや遊郭に立ち寄るという線は薄いか」
 イェンの警備体制とは別に、遼二りょうじの方ではカジノとバーに組員たちを配置して様子見をすることに決めた。殺し屋だからといって必ずしも殺しが目的とは限らない。カジノやバーで誰かと接触し、依頼を受けるか、報酬の受け渡しをするならこの地下街は絶好の隠れ蓑になるからだ。
 殺し屋が誰に依頼を受け、外の世界でどんな仕事をしようがイェンらにとっては直接口を挟む義理もない。だが、その仕事がこの地下街の中で行われるというなら黙って見過ごすわけにはいかないのだ。流れ弾で何の関係も無い者たちが犠牲になる可能性もゼロではない。それらを未然に防ぐのが統治者たるイェンの役目でもあるからだ。そして、そのイェンを支えることが遼二りょうじ鐘崎かねさき組香港事務所の存在意義でもあるのだった。



◇    ◇    ◇



 ロナルド・コックスという男がエドモンドに滞在してから丸一日が過ぎようとしていた。
 見張り組からの報告では、今のところ取り立てて男らに変わった動きは見られないという。ただ、気になることといえば、ロナルドと女はホテルの部屋に引き篭もったきり、外出すらしていないというのが妙といえなくもなかった。
 見張り組曰く、ロナルドらはチェックインしてからこのかた、食事もすべてルームサービスで取り、ホテル内のレストランにすら出歩かずにいるという。カジノどころか、バーで一杯を楽しむことも皆無だそうだ。加えて、部屋への来客者も見られないというのだから奇妙という他ない。
「ふむ、どこへも出掛けず来訪もなし――か。確かに妙だな。誰かと接触する様子も無いとなると……自分たちの存在を極力隠したいという意図が感じられる。何かよほどの目的があると勘ぐられても仕方あるまい」
 イェンは引き続き彼らの動きに目を光らせるよう指示を出した。

 一方、遼二りょうじの方ではイェンの側近たちとは別口でロナルドの様子を窺っていた。
駆飛かけい、お前さんの出番だ。エドモンドに滞在しているロナルドという客の屋根裏へ侵入して、様子を探ってくれ」
 組幹部の清水剛しみず ごうからそう指令を受けて、組員である小川駆飛おがわ かけいはしっかりとうなずいた。
 駆飛かけい鐘崎かねさき組に入ってからの年数こそ浅いものの、一番の若手で体力もある。何より人並み外れた運動神経の持ち主なのだ。実家は代々造園業を営んでいて、彼もまた当初は鐘崎かねさき組の庭を手入れする庭師であったが、その尋常ならぬ運動神経を見込まれて、組長の僚一りょういちから直々にスカウトを受けたという異色の経緯である。好奇心旺盛な若者の駆飛かけい僚一りょういちと若頭の遼二りょうじに心酔していたこともあって、二つ返事で組員となることを承諾したのだった。
 加えて、遼二りょうじが香港に事務所を構える際に年若い異色の彼が抜擢されたのにも理由がある。駆飛かけいの祖父は生まれがマカオであった為、彼自身もまた、幼い頃から広東語に精通していたからである。香港での活動に関して言語が理解できるかどうかは重要な要素となる。幹部の清水しみず以下、たちばな徳永とくながという組員たちもその点では流暢であったから香港行きに選ばれたのだ。駆飛かけいもまた、同様の理由で若頭を支えるべくついて来たというわけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

極道恋事情

一園木蓮
BL
極道、マフィアといった裏社会に生きる男たちが心底惚れ込んだ恋人を溺愛する恋模様。 事件あり、恋の横槍ありの紆余曲折の中、最愛の恋人と最高の友と共に難題を切り開いていくエピソード毎の読み切り連作です。 香港マフィア頭領の次男坊(周焔白龍)×天才ディーラーに育てられた天涯孤独の青年(雪吹冰)のカップリングと、腕の達つ始末屋として日本の裏社会に生きる極道(鐘崎遼二)×道場経営者の一人息子(一之宮紫月)という2組のカップルたちの恋模様と友情を綴っていきます。 ※表紙イラスト:芳乃 カオル様 ※裏社会といってもBL&MLファンタジーの世界観での話として妄想しています。すべてフィクションで、実在の地名、人物名、役職名とは全く関係がございません。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

裏切りの蜜は甘く 【完結】

Toys
BL
極道の家の次男は、幼い頃から完璧と言われる兄がいる為誰にも見向きもされなかった。 将来は兄を支えろと人生のレールを敷かれ彼は一人留学させられた。 大学生になり、日本に戻って早3年。 来年には盃を交わし極道の道へ入れられる。 常に誰にも媚びる事をせず、どんな事があっても顔色一つ変えず対処してしまう彼を組員の中には実際は憧れる者も多くいた。 そんな淡々と繰り返す日々に終止符が降りたのは、若頭の兄が一人の少年を連れてきた事だった ※暴力 グロい表現有り

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...