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極道恋浪漫 第三章
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「ホテル・エドモンドはここか――。本当にただの遊興か、あるいはお忍びでのアバンチュールとするなら――目的はカジノかバー辺りだろう。女連れならホステスのいるクラブや遊郭に立ち寄るという線は薄いか」
焔の警備体制とは別に、遼二の方ではカジノとバーに組員たちを配置して様子見をすることに決めた。殺し屋だからといって必ずしも殺しが目的とは限らない。カジノやバーで誰かと接触し、依頼を受けるか、報酬の受け渡しをするならこの地下街は絶好の隠れ蓑になるからだ。
殺し屋が誰に依頼を受け、外の世界でどんな仕事をしようが焔らにとっては直接口を挟む義理もない。だが、その仕事がこの地下街の中で行われるというなら黙って見過ごすわけにはいかないのだ。流れ弾で何の関係も無い者たちが犠牲になる可能性もゼロではない。それらを未然に防ぐのが統治者たる焔の役目でもあるからだ。そして、その焔を支えることが遼二ら鐘崎組香港事務所の存在意義でもあるのだった。
◇ ◇ ◇
ロナルド・コックスという男がエドモンドに滞在してから丸一日が過ぎようとしていた。
見張り組からの報告では、今のところ取り立てて男らに変わった動きは見られないという。ただ、気になることといえば、ロナルドと女はホテルの部屋に引き篭もったきり、外出すらしていないというのが妙といえなくもなかった。
見張り組曰く、ロナルドらはチェックインしてからこのかた、食事もすべてルームサービスで取り、ホテル内のレストランにすら出歩かずにいるという。カジノどころか、バーで一杯を楽しむことも皆無だそうだ。加えて、部屋への来客者も見られないというのだから奇妙という他ない。
「ふむ、どこへも出掛けず来訪もなし――か。確かに妙だな。誰かと接触する様子も無いとなると……自分たちの存在を極力隠したいという意図が感じられる。何かよほどの目的があると勘ぐられても仕方あるまい」
焔は引き続き彼らの動きに目を光らせるよう指示を出した。
一方、遼二の方では焔の側近たちとは別口でロナルドの様子を窺っていた。
「駆飛、お前さんの出番だ。エドモンドに滞在しているロナルドという客の屋根裏へ侵入して、様子を探ってくれ」
組幹部の清水剛からそう指令を受けて、組員である小川駆飛はしっかりとうなずいた。
駆飛は鐘崎組に入ってからの年数こそ浅いものの、一番の若手で体力もある。何より人並み外れた運動神経の持ち主なのだ。実家は代々造園業を営んでいて、彼もまた当初は鐘崎組の庭を手入れする庭師であったが、その尋常ならぬ運動神経を見込まれて、組長の僚一から直々にスカウトを受けたという異色の経緯である。好奇心旺盛な若者の駆飛は僚一と若頭の遼二に心酔していたこともあって、二つ返事で組員となることを承諾したのだった。
加えて、遼二が香港に事務所を構える際に年若い異色の彼が抜擢されたのにも理由がある。駆飛の祖父は生まれがマカオであった為、彼自身もまた、幼い頃から広東語に精通していたからである。香港での活動に関して言語が理解できるかどうかは重要な要素となる。幹部の清水以下、橘や徳永という組員たちもその点では流暢であったから香港行きに選ばれたのだ。駆飛もまた、同様の理由で若頭を支えるべくついて来たというわけだった。
焔の警備体制とは別に、遼二の方ではカジノとバーに組員たちを配置して様子見をすることに決めた。殺し屋だからといって必ずしも殺しが目的とは限らない。カジノやバーで誰かと接触し、依頼を受けるか、報酬の受け渡しをするならこの地下街は絶好の隠れ蓑になるからだ。
殺し屋が誰に依頼を受け、外の世界でどんな仕事をしようが焔らにとっては直接口を挟む義理もない。だが、その仕事がこの地下街の中で行われるというなら黙って見過ごすわけにはいかないのだ。流れ弾で何の関係も無い者たちが犠牲になる可能性もゼロではない。それらを未然に防ぐのが統治者たる焔の役目でもあるからだ。そして、その焔を支えることが遼二ら鐘崎組香港事務所の存在意義でもあるのだった。
◇ ◇ ◇
ロナルド・コックスという男がエドモンドに滞在してから丸一日が過ぎようとしていた。
見張り組からの報告では、今のところ取り立てて男らに変わった動きは見られないという。ただ、気になることといえば、ロナルドと女はホテルの部屋に引き篭もったきり、外出すらしていないというのが妙といえなくもなかった。
見張り組曰く、ロナルドらはチェックインしてからこのかた、食事もすべてルームサービスで取り、ホテル内のレストランにすら出歩かずにいるという。カジノどころか、バーで一杯を楽しむことも皆無だそうだ。加えて、部屋への来客者も見られないというのだから奇妙という他ない。
「ふむ、どこへも出掛けず来訪もなし――か。確かに妙だな。誰かと接触する様子も無いとなると……自分たちの存在を極力隠したいという意図が感じられる。何かよほどの目的があると勘ぐられても仕方あるまい」
焔は引き続き彼らの動きに目を光らせるよう指示を出した。
一方、遼二の方では焔の側近たちとは別口でロナルドの様子を窺っていた。
「駆飛、お前さんの出番だ。エドモンドに滞在しているロナルドという客の屋根裏へ侵入して、様子を探ってくれ」
組幹部の清水剛からそう指令を受けて、組員である小川駆飛はしっかりとうなずいた。
駆飛は鐘崎組に入ってからの年数こそ浅いものの、一番の若手で体力もある。何より人並み外れた運動神経の持ち主なのだ。実家は代々造園業を営んでいて、彼もまた当初は鐘崎組の庭を手入れする庭師であったが、その尋常ならぬ運動神経を見込まれて、組長の僚一から直々にスカウトを受けたという異色の経緯である。好奇心旺盛な若者の駆飛は僚一と若頭の遼二に心酔していたこともあって、二つ返事で組員となることを承諾したのだった。
加えて、遼二が香港に事務所を構える際に年若い異色の彼が抜擢されたのにも理由がある。駆飛の祖父は生まれがマカオであった為、彼自身もまた、幼い頃から広東語に精通していたからである。香港での活動に関して言語が理解できるかどうかは重要な要素となる。幹部の清水以下、橘や徳永という組員たちもその点では流暢であったから香港行きに選ばれたのだ。駆飛もまた、同様の理由で若頭を支えるべくついて来たというわけだった。
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