極道恋浪漫

一園木蓮

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極道恋浪漫 第三章

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 とにかくも敵がホテルの部屋にこもったきり出てこないというのなら、こちらから探りを入れるに当たって駆飛かけいの並外れた運動神経はまさに打ってつけだ。まるで忍びの如くロナルドらの天井裏へと潜入して行った。
「ふぅん? 意外と広いのな! 助かるわぁ」
 天井裏は想像していたよりも広くて移動が楽だ。駆飛かけいは音を立てないよう気遣いながら部屋の真上へと潜り込んだ。
 床板に階下の音を拾う録音機を押し当てて会話を探る。清水しみずから渡された物だ。声は若干くぐもっているものの、内容はどうにか拾えるようだ。そこで成されていた会話は駆飛かけいにとってもひどく驚かされる代物だった。なんと彼らの目的はこの地下街で人一人を始末すること。何より驚くべきはターゲットの名前だった。
雪吹冰ふぶき ひょう――だ? ってことは、おめえさんの親をったのはこの香港の人間じゃねえってことか?』
『その通りよ。でも見た目はアジア人だからくれぐれも間違えないように、よく写真を確認してからってちょうだいね』
『は――! そこら辺は抜かりねえさ。けどまあ、写真で見る限りじゃえらく綺麗なガキだな。っちまうよりは闇市にでも売り飛ばして金に変えた方が利がいいようにも思えるけどな』
 男はさらりと恐ろしいことを口にしている。だが、女にとってはターゲットの存在そのものが目障りなようだ。
『私の目的はお金じゃないのよ。報酬は私が以前この地下街でホステスをしていた時に稼いだすべてを渡す約束でしょ。足りないとは言わせないわよ』
『そりゃまあ、俺にとっては申し分ない金額ではあるけどな』
『あの子がこの世から消えてくれなきゃ後々困るの。くれぐれも変な考えを起こさないで、しっかり始末してちょうだいよ』
『へえへえ、分かってますよ。雪吹冰ふぶき ひょうね。きっちり葬ってやらぁな。その代わり、仕事が終わった後になっておめえさんも金を出し渋るなんて考えは起こさねえで欲しいね』
『分かっているわ。報酬は約束通り支払う。だから……くれぐれも頼むわよ』
 ひょうが狙われると知って、駆飛かけいは慌ててしまった。
雪吹冰ふぶき ひょうって……冗談だろ? わかのご友人の皇帝様と一緒に住んでるっていうあの子のことかよ……)

「……チッ! こいつぁやべえ! 早いとこわかたちに知らせねえと!」

 その駆飛かけいが偵察から戻ると、報告を聞いた遼二りょうじらもまた蒼白となり、急ぎイェンへ通達。と同時にすぐさま対応すべく鉄壁の体制が敷かれることと相成った。



◇    ◇    ◇



小川おがわ! よくやってくれた!」
 若頭の遼二りょうじと皇帝・イェンからも絶賛されて、駆飛かけいは役に立てたことを喜んだ。しかも、彼が天井裏で見聞きしてきたことは、誰の想像をもはるかに超える驚愕の企みだったからだ。
 殺し屋ロナルドのターゲットは、あろうことかひょうだというのだから驚きもするというものだ。
「あの殺し屋を雇ったのは一緒にいた女のようっス! なんでも両親を殺された復讐をしたいから、ひょうさんの家族に同じ思いを味わわせてやるんだとかって話してました」
 録音は鮮明とはいえないものの、女の声も拾えていた。話の内容から女は以前この地下街のクラブでホステスをしていたらしいことが判明した。とすれば、数ヶ月前に地下街を追われた例の白蘭バイランであろうか。未だイェンに対する想いを捨て切れずに、ついにはひょうの命を狙ってきたというわけか――。
 ただしイェンにしても遼二りょうじにしても白蘭バイランという女の声を直に聞いたことがないのは事実である。録音に残っている女の声だけで彼女が犯人と決めつけるには今ひとつ確証に欠けるが、誰であれひょうを亡き者にしようと企んでいるのは事実である。
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