極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
98 / 136
極道恋浪漫 第二章

96

しおりを挟む
「卒業後、彼女は興信所に就職しています」
「興信所だと?」
「いわゆる私立の探偵事務所といった小さな会社ですが、そこで老板ラァオバン――というよりも周ファミリーについて執拗に調べを進めていたようです」
 リー曰く、イェンが妾の子であることや、ファミリーの伴侶となった者には肩に字と同じ色の蘭の花の刺青が贈られることなどを調べ尽くしたようだというのだ。
 事実、頭領ボス周隼ジォウ スェン――つまりはイェンの父親だが――彼の背中にはあざなである黄龍ウォンロンを模った大きな黄色い龍の刺青が入っている。その伴侶である継母の肩には黄色い蘭の花が贈られていた。
 兄の周風ジォウ ファン夫婦も同様である。兄のあざな黒龍ヘイロンだから背中には黒い龍の刺青、そしてその妻となった高美紅ガオ メイフォンの肩先には黒い蘭の花が贈られた。それがファミリーの証になるのだ。
 もしもイェンが妻を娶れば、その肩にはあざなである白龍バイロンと対になる白蘭バイランの刺青が贈られるというわけだ。
 そのことを突き止めた女は自らの源氏名を白蘭バイランとし、ワインバーの店名をイェンあざなである白龍バイロンにしたというわけだ。
「興信所を退職した後、彼女はこの地下街のクラブで働き出し、その二年後にはワインバーを開き始めました。よほど老板ラァオバンに対する想いが強かったともいえますが、冷静に考えれば行き過ぎているように思えます」
 つまり、尋常ではないということだ。
「だがな、リー――俺自身にはその女からただの一度たりと接触を受けたことがねえ。仮に何らかの想いを寄せているというのなら、告白のひとつもあっていいようなものだが」
 だが、女が直に声を掛けてきたことはおろか、ましてや想いを打ち明けられたことなど一度もないというのだ。
「そこはあの女の性質――というよりも過去の出来事が起因しているものと思われます。彼女は老板ラァオバンに助けられるずっと以前、中学校時代の話ですが教師に恋情を抱き失恋を経験していたそうです」
「教師に失恋?」
「ええ。当時教師は同僚の女教師と結婚したばかりで、当然生徒からの恋情を受け入れられるはずもありませんでした。ところが女の方では諦められなかったようで、その教師を夜の校舎に呼び出して付き合ってくれとせがみ、教師が断るとその場で自分の腕を斬りつけたそうです」
 校内では女生徒が男性教師の前で自殺未遂を図ったと大騒ぎになり、教師は責任を取らされて退職を余儀なくされ、女の方も転校に至ったというのだ。
「それがトラウマとなってか、女は恋愛に臆病になったのではないかというのが当時の同級生らの見解でした。ゆえに老板ラァオバンへの想いも直接伝えることを躊躇ためらったのではないかと」
 告白したところで、もしも想いが叶わなければ再び傷つくことになる。それが怖くて言い出せずにいたのではないかというのだ。
 ただし想い自体は諦められない。だから興信所に就職して周一族について密かに情報を収集し、イェンのいる地下街のクラブに勤め、『白龍バイロン』などという意味深な店名のワインバーまで開いてはイェンの方から興味を持って近付いてきてくれるように仕向けたのでは――というのがリーの想像だそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...