79 / 159
極道恋浪漫 第二章
77
しおりを挟む
一方、遼二の方は遊郭街の紫月の元を訪れていた。冰らが皇帝邸を出て行ってしまったことについて相談する為である。
当然か、紫月もまたひどく驚いたようであった。
「冰君たちが――? なんでまた……」
それにしてもえらく急な話だなと、腕組みをしながら眉をしかめる。
「これといった理由は焔自身も聞いていないそうだ。ヤツの思うに、二人がこのまま皇帝邸に居れば、いずれ焔に迷惑がかかると思っているんじゃねえかと――」
「つまりは――なんだ、例えば将来的に皇帝様に結婚話とかが持ち上がったりした場合のことでも心配してるってことか?」
「焔の言うにはその逆も考えられるんじゃねえかと――」
「逆? ってことは、冰君に彼女でもできた際にいろいろと不都合が生じるってことか?」
「焔はそう考えているようだ。冰にとっては自分のような男と結婚するよりは、普通に女を娶って、爺さんに孫の顔のひとつも見せてやれる方が幸せなんじゃねえかとまで言ってな」
「孫の顔――か。分からねえでもねえけど……」
だが、それなら遊郭街から羅辰が消えて憂いが無くなった際にそうしていても良かったのではないかと紫月は言う。
「本来、皇帝様と冰君の婚姻話は遊郭街から救い出す為の策だったわけだ。お邸を出て行くってんなら時期が違うんじゃねえの?」
互いの将来を気に掛けて――というなら、黄老人は羅辰の権力が破綻した時点で暇を考えたはずだ。だが二人は引き続き焔邸で暮らすことを受け入れてきた。
「老黄と冰君の意思というより、外部から何らかの圧力でも受けたのかな」
「圧力か――」
「うん……。まあ圧力っつっても、実際には些細な嫌がらせ程度かも知れねえけどさ。例えば老黄のカジノ仲間からのやっかみって線もあるべ? 一ディーラーが皇帝様のお邸にご厄介になってるなんてお門違いだ――とかさ。好き勝手に言う輩はどこにでもいるからな……。または冰君の同級生からの嫌がらせって線も考えられなくはねえ」
「つまり――爺さんか冰のどちらかが同僚やクラスメイトに嫌味でも言われて、それを気にした二人が元いたアパートに帰ることにしたってことか……」
まあ、理由が必ずしもそうとは限らないだろうが、可能性としては有り得ない話ではない。
この地下街に暮らす者にとって皇帝の存在は確かに大きい。そんな彼と知り合いというだけでも嫉妬や憧れの感情を持つ者も多いだろう。ましてやそのお邸で一緒に暮らしているなどと聞けば、嫌味のひとつくらいぶつけられても仕方ないといったところか。
「――にしても、話が唐突過ぎるよな。なんなら俺が冰君に直接訊いてみるか」
一時期は自分の管理下で教育生として暮らしていたわけだ。冰にとって紫月は未だ兄様という認識だろうし、焔には言い難いことでも、自分にだったら理由を話してくれるのではと紫月は言う。
「うむ、世話を掛けてすまねえがそうしてくれるか? 俺の方は爺さんと冰の周囲をそれとなく当たってみようと思う」
遼二は誰か嫌がらせ的なことをした者がいないかという面から探るという。
「了解。そんじゃ明日にも冰君をここへ呼んで茶でもすべ!」
親身になってくれる紫月に、遼二は有り難い思いでいっぱいだった。
当然か、紫月もまたひどく驚いたようであった。
「冰君たちが――? なんでまた……」
それにしてもえらく急な話だなと、腕組みをしながら眉をしかめる。
「これといった理由は焔自身も聞いていないそうだ。ヤツの思うに、二人がこのまま皇帝邸に居れば、いずれ焔に迷惑がかかると思っているんじゃねえかと――」
「つまりは――なんだ、例えば将来的に皇帝様に結婚話とかが持ち上がったりした場合のことでも心配してるってことか?」
「焔の言うにはその逆も考えられるんじゃねえかと――」
「逆? ってことは、冰君に彼女でもできた際にいろいろと不都合が生じるってことか?」
「焔はそう考えているようだ。冰にとっては自分のような男と結婚するよりは、普通に女を娶って、爺さんに孫の顔のひとつも見せてやれる方が幸せなんじゃねえかとまで言ってな」
「孫の顔――か。分からねえでもねえけど……」
だが、それなら遊郭街から羅辰が消えて憂いが無くなった際にそうしていても良かったのではないかと紫月は言う。
「本来、皇帝様と冰君の婚姻話は遊郭街から救い出す為の策だったわけだ。お邸を出て行くってんなら時期が違うんじゃねえの?」
互いの将来を気に掛けて――というなら、黄老人は羅辰の権力が破綻した時点で暇を考えたはずだ。だが二人は引き続き焔邸で暮らすことを受け入れてきた。
「老黄と冰君の意思というより、外部から何らかの圧力でも受けたのかな」
「圧力か――」
「うん……。まあ圧力っつっても、実際には些細な嫌がらせ程度かも知れねえけどさ。例えば老黄のカジノ仲間からのやっかみって線もあるべ? 一ディーラーが皇帝様のお邸にご厄介になってるなんてお門違いだ――とかさ。好き勝手に言う輩はどこにでもいるからな……。または冰君の同級生からの嫌がらせって線も考えられなくはねえ」
「つまり――爺さんか冰のどちらかが同僚やクラスメイトに嫌味でも言われて、それを気にした二人が元いたアパートに帰ることにしたってことか……」
まあ、理由が必ずしもそうとは限らないだろうが、可能性としては有り得ない話ではない。
この地下街に暮らす者にとって皇帝の存在は確かに大きい。そんな彼と知り合いというだけでも嫉妬や憧れの感情を持つ者も多いだろう。ましてやそのお邸で一緒に暮らしているなどと聞けば、嫌味のひとつくらいぶつけられても仕方ないといったところか。
「――にしても、話が唐突過ぎるよな。なんなら俺が冰君に直接訊いてみるか」
一時期は自分の管理下で教育生として暮らしていたわけだ。冰にとって紫月は未だ兄様という認識だろうし、焔には言い難いことでも、自分にだったら理由を話してくれるのではと紫月は言う。
「うむ、世話を掛けてすまねえがそうしてくれるか? 俺の方は爺さんと冰の周囲をそれとなく当たってみようと思う」
遼二は誰か嫌がらせ的なことをした者がいないかという面から探るという。
「了解。そんじゃ明日にも冰君をここへ呼んで茶でもすべ!」
親身になってくれる紫月に、遼二は有り難い思いでいっぱいだった。
30
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
万華の咲く郷 ~番外編集~
四葩
BL
『万華の咲く郷』番外編集。
現代まで続く吉原で、女性客相手の男役と、男性客相手の女役に別れて働く高級男娼たちのお話です。
各娼妓の過去話SS、番外編まとめ。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、関係ございません。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる