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極道恋浪漫 第一章
41 動き出す運命の歯車
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砦内、焔邸――。
遊郭街の悪しき闇にメスを入れるべく、日本から遼二の父・鐘崎僚一が助力にやって来たことで、いよいよ本格的に腰を上げる体制が整い始めた。
焔の父・隼にしてみても、いつかはあの治外法権を撤廃したいと考えていたものの、まさかこれほど早くに着手できることになろうとは思ってもみなかったというところだ。
息子・焔と遼二の手際の良さに、二人の父親たちからは感心と絶賛の言葉が贈られた。
「しかし黄氏の息子の件がきっかけとはいえ、よくぞここまで事を掘り進めてくれたものだ」
まさにあっぱれとしか言いようがないと両手放しの褒めようだ。とりわけ僚一には、どうやって冰という少年を引き渡してもらえることになったのかと、その経緯に興味津々だったようだ。
「実は俺たち自身驚いているところです。当初父上からこの話を受けた時は、正直なところこうもすんなりと運ぶとは考えていなかったものです」
焔はそもそもこうなれたきっかけは遼二にあると言って、その手柄を讃えた。
「カネのヤツがあの男娼を指名しようと言わなかったら、今頃はまだ五里霧中だったことと思います」
「ほう? 男娼とな? それほど理解のある男だったのか」
「ええ。とにかくは様子見と思って遊郭街を訪れた際、ちょうど大店の前で高級男娼と思われる男を見掛けましてね。俺は別の――もっと格下の男娼でもと思ったんですが、カネのヤツがどうせならああいった御職らしき男に訊いた方が話は早いと言ってくれまして」
「ほう、遼二がな」
僚一も息子の機転と聞いて満足そうな表情を浮かべた。
「それで、その男娼というのはどんな人物なのだ」
こんなに手際の良く冰という少年を返してくれた采配には非常に興味を引かれるところだ。今後、遊郭街を立て直すに当たって、そのような男娼を味方につけることができれば、より一層やりやすくなるからだ。
「ええ、歳は俺たちよりも少し下といった印象でしたが、こちらの話もよく聞いてくれて非常に頼りになる男でした。冰を救い出す算段もその彼が考えてくれたんですよ」
焔は名刺を差し出して父親たちに見せた。
「椿楼、紫月というのか」
隼は是非一度会ってみたいものだと期待を寄せる。
「ヤツは頭目直下で男遊郭を仕切っている人物とのことですが、非常に頭のキレる男です。女衒が若者を売り買いする遊郭の現状を憂いているふうなところも感じましたし、おそらくですが今後ますます彼のような男の助力は貴重になるかと」
「なるほどな。我々の思いを理解して力になってくれると頼もしいのだが――」
周親子がそんなやり取りをしている傍らで、片や僚一はじっと名刺を見つめながら何か考え事をしている様子でいた。
「――椿楼、紫月か」
ボソリと独りごちる。
「親父? その名刺がどうかしたのか?」
気になって遼二がそう訊いた。
すると僚一は懐から財布を取り出し、その中にしまっていた一枚の写真を差し出してみせた。
「紫月というのはこんな感じの男じゃなかったか?」
写真を見て遼二は一瞬絶句するほどに驚かされてしまった。なんとそこには紫月本人と思われる男が写っていたからだ。
「親父……ッ、これ……」
なぜ日本にいる父が紫月の写真を持っているのか。しかも常々持ち歩く財布の中に大切そうにしまい込んでいること自体に驚きを隠せない。硬直状態の遼二の傍らでは、焔もまた同様に驚きの表情で目を丸くしていた。
「親父さん……この男を、紫月を知っているんですか?」
息子たちの問いに、「ああ――」と言って僚一はうなずいた。
遊郭街の悪しき闇にメスを入れるべく、日本から遼二の父・鐘崎僚一が助力にやって来たことで、いよいよ本格的に腰を上げる体制が整い始めた。
焔の父・隼にしてみても、いつかはあの治外法権を撤廃したいと考えていたものの、まさかこれほど早くに着手できることになろうとは思ってもみなかったというところだ。
息子・焔と遼二の手際の良さに、二人の父親たちからは感心と絶賛の言葉が贈られた。
「しかし黄氏の息子の件がきっかけとはいえ、よくぞここまで事を掘り進めてくれたものだ」
まさにあっぱれとしか言いようがないと両手放しの褒めようだ。とりわけ僚一には、どうやって冰という少年を引き渡してもらえることになったのかと、その経緯に興味津々だったようだ。
「実は俺たち自身驚いているところです。当初父上からこの話を受けた時は、正直なところこうもすんなりと運ぶとは考えていなかったものです」
焔はそもそもこうなれたきっかけは遼二にあると言って、その手柄を讃えた。
「カネのヤツがあの男娼を指名しようと言わなかったら、今頃はまだ五里霧中だったことと思います」
「ほう? 男娼とな? それほど理解のある男だったのか」
「ええ。とにかくは様子見と思って遊郭街を訪れた際、ちょうど大店の前で高級男娼と思われる男を見掛けましてね。俺は別の――もっと格下の男娼でもと思ったんですが、カネのヤツがどうせならああいった御職らしき男に訊いた方が話は早いと言ってくれまして」
「ほう、遼二がな」
僚一も息子の機転と聞いて満足そうな表情を浮かべた。
「それで、その男娼というのはどんな人物なのだ」
こんなに手際の良く冰という少年を返してくれた采配には非常に興味を引かれるところだ。今後、遊郭街を立て直すに当たって、そのような男娼を味方につけることができれば、より一層やりやすくなるからだ。
「ええ、歳は俺たちよりも少し下といった印象でしたが、こちらの話もよく聞いてくれて非常に頼りになる男でした。冰を救い出す算段もその彼が考えてくれたんですよ」
焔は名刺を差し出して父親たちに見せた。
「椿楼、紫月というのか」
隼は是非一度会ってみたいものだと期待を寄せる。
「ヤツは頭目直下で男遊郭を仕切っている人物とのことですが、非常に頭のキレる男です。女衒が若者を売り買いする遊郭の現状を憂いているふうなところも感じましたし、おそらくですが今後ますます彼のような男の助力は貴重になるかと」
「なるほどな。我々の思いを理解して力になってくれると頼もしいのだが――」
周親子がそんなやり取りをしている傍らで、片や僚一はじっと名刺を見つめながら何か考え事をしている様子でいた。
「――椿楼、紫月か」
ボソリと独りごちる。
「親父? その名刺がどうかしたのか?」
気になって遼二がそう訊いた。
すると僚一は懐から財布を取り出し、その中にしまっていた一枚の写真を差し出してみせた。
「紫月というのはこんな感じの男じゃなかったか?」
写真を見て遼二は一瞬絶句するほどに驚かされてしまった。なんとそこには紫月本人と思われる男が写っていたからだ。
「親父……ッ、これ……」
なぜ日本にいる父が紫月の写真を持っているのか。しかも常々持ち歩く財布の中に大切そうにしまい込んでいること自体に驚きを隠せない。硬直状態の遼二の傍らでは、焔もまた同様に驚きの表情で目を丸くしていた。
「親父さん……この男を、紫月を知っているんですか?」
息子たちの問いに、「ああ――」と言って僚一はうなずいた。
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