41 / 138
極道恋浪漫 第一章
39
しおりを挟む
それからは焔と冰の婚礼に向けて日々が飛ぶように過ぎていった。
焔と遼二は父・隼の元を訪れながら今後の対応を検討。この機会に遊郭街の闇に少しでもメスを入れようと、そちらの方向でも対策が話し合われることとなった。
その助力の為に遼二の父であり、極道・鐘崎組を率いる僚一が組番頭の東堂源次郎を伴い香港にやって来ることとなった。
焔と遼二の父・周隼と鐘崎僚一は、かねてから九龍城砦内の治外法権とも謳われた闇の遊郭街を理想の花街に変えることを目指してきたものだ。これまではなかなかきっかけが掴めずに手が出せなかった遊郭街の裏事情だが、冰の一件を機に少しずつだが内情が分かってきた。
焔と遼二にとってもまた同様だ。実際にその目で目の当たりにした遊郭街の現状を憂い、闇と言われた部分を取り払うことに強い気持ちが芽生え始めていたのだ。
想像していたよりもはるかに若い少年少女らが誘拐され、教育を受けさせられて無理やり遊女や男娼として売られていく現実も目の当たりにしたわけだ。これを機に、どうにかしてそのような不幸を断ち切り、良い方向に切り開いていければと思うのだ。
とかく遼二にとっては、紫月という存在に出会ったことにより、何とかして彼の理想とする花街に近付けたいという思いが募っていったのだった。
冰を救い出してからかれこれ十日が過ぎようとしていた。あれ以来紫月には会っていない。彼は相変わらずにあの街で夜を過ごしているのだと思うと、遼二の胸はわけもなく逸ってならなかった。
この時の遼二の焦燥感を肯定すべく、遊郭街には実にまだ焔や遼二ら誰もが知り得ない仄暗い闇が蔓延していた。それを知るのはもう少し後のことになるのだが、そこには香港裏社会を治める周一族が本気で腹を据えて掛からねばならない、想像を超えた大きな戦が待っていることなど、この時の誰もが知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
一方、紫月の方でも周家への謝罪金を巡って頭目の羅辰との擦り合わせに忙しい日々が続いていた。
「頭目、お達しの通り女衒に支払う報酬を減らして、とりあえずのところですがまとまった現金を調達いたしました。明日にも周焔殿のところへ届けがてら謝罪に上がりたいと存じます」
確かに今回の件ではまだ就学中の未成年――しかもこの城壁内に住む冰を拉致した女衒の行為自体が罪といえる。罰金と称して報酬から差っ引くことはおかしくないやり方だ。女衒にはそうして灸をくれ、それを謝罪金として周家に渡すのは道理であろう。
ただ、焔と紫月の間に於いて、謝罪金というのはあくまで作戦の一環であって、実際に多額の支払いが動くといったわけではない。焔としては冰を遊郭街から取り返せればいいだけだし、わずかばかりの金など貰ったところで意味はない。とはいえ紫月の立場からすれば、羅辰の手前、女衒が冰を拐って来たことは一大事と思わせなければならないことから、見せかけだけでも大袈裟と思えるくらいの謝罪を行ったという大義名分が必要なわけだ。
焔と遼二は父・隼の元を訪れながら今後の対応を検討。この機会に遊郭街の闇に少しでもメスを入れようと、そちらの方向でも対策が話し合われることとなった。
その助力の為に遼二の父であり、極道・鐘崎組を率いる僚一が組番頭の東堂源次郎を伴い香港にやって来ることとなった。
焔と遼二の父・周隼と鐘崎僚一は、かねてから九龍城砦内の治外法権とも謳われた闇の遊郭街を理想の花街に変えることを目指してきたものだ。これまではなかなかきっかけが掴めずに手が出せなかった遊郭街の裏事情だが、冰の一件を機に少しずつだが内情が分かってきた。
焔と遼二にとってもまた同様だ。実際にその目で目の当たりにした遊郭街の現状を憂い、闇と言われた部分を取り払うことに強い気持ちが芽生え始めていたのだ。
想像していたよりもはるかに若い少年少女らが誘拐され、教育を受けさせられて無理やり遊女や男娼として売られていく現実も目の当たりにしたわけだ。これを機に、どうにかしてそのような不幸を断ち切り、良い方向に切り開いていければと思うのだ。
とかく遼二にとっては、紫月という存在に出会ったことにより、何とかして彼の理想とする花街に近付けたいという思いが募っていったのだった。
冰を救い出してからかれこれ十日が過ぎようとしていた。あれ以来紫月には会っていない。彼は相変わらずにあの街で夜を過ごしているのだと思うと、遼二の胸はわけもなく逸ってならなかった。
この時の遼二の焦燥感を肯定すべく、遊郭街には実にまだ焔や遼二ら誰もが知り得ない仄暗い闇が蔓延していた。それを知るのはもう少し後のことになるのだが、そこには香港裏社会を治める周一族が本気で腹を据えて掛からねばならない、想像を超えた大きな戦が待っていることなど、この時の誰もが知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
一方、紫月の方でも周家への謝罪金を巡って頭目の羅辰との擦り合わせに忙しい日々が続いていた。
「頭目、お達しの通り女衒に支払う報酬を減らして、とりあえずのところですがまとまった現金を調達いたしました。明日にも周焔殿のところへ届けがてら謝罪に上がりたいと存じます」
確かに今回の件ではまだ就学中の未成年――しかもこの城壁内に住む冰を拉致した女衒の行為自体が罪といえる。罰金と称して報酬から差っ引くことはおかしくないやり方だ。女衒にはそうして灸をくれ、それを謝罪金として周家に渡すのは道理であろう。
ただ、焔と紫月の間に於いて、謝罪金というのはあくまで作戦の一環であって、実際に多額の支払いが動くといったわけではない。焔としては冰を遊郭街から取り返せればいいだけだし、わずかばかりの金など貰ったところで意味はない。とはいえ紫月の立場からすれば、羅辰の手前、女衒が冰を拐って来たことは一大事と思わせなければならないことから、見せかけだけでも大袈裟と思えるくらいの謝罪を行ったという大義名分が必要なわけだ。
41
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
万華の咲く郷 ~番外編集~
四葩
BL
『万華の咲く郷』番外編集。
現代まで続く吉原で、女性客相手の男役と、男性客相手の女役に別れて働く高級男娼たちのお話です。
各娼妓の過去話SS、番外編まとめ。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、関係ございません。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる