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極道恋浪漫 第一章
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その後、私室に戻ると下男の菫が心配そうな表情ですっ飛んで出迎えにやって来た。
「兄さん! 如何でございましたか。お頭目は何と?」
「おう、菫か。お陰で何とか頭目を説得できた」
「左様でございましたか……。お疲れ様でございました」
「あの人の気が変わらねえ内に早速事を運ばにゃならねえ。すぐに冰君を連れて来てくれ」
「かしこまりました」
紫月はその日の内に冰を連れて皇帝・周焔の邸へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
九龍城砦内、周焔邸――。
「紫月! 上手くやってくれたか!」
紫月の隣に冰の姿を目にした焔は、事が上手く運んだことを悟ったのだろう。逸ったようにして自ら玄関先まで出迎えにやって来た。
「皇帝様、お陰様でこっちは何とか怪しまれずに頭目を納得させることができた。この通り冰君はお返しするぜ」
「ああ、ご苦労だった。本当によくやってくれた!」
感謝するぞと言って手を取った焔に、紫月は恐縮ですと深々頭を下げた。
「皇帝様、紫月兄様、本当にありがとうございます!」
冰もまた、涙ながらに頭を下げては皆に心からの礼を述べる。
「ボウズ、黄の爺さんが待ってる。まずは顔を見せてやれ」
焔に言われて冰は黄老人の待つ邸のリビングへ案内され、ひと月ぶりの再会を果たしたのだった。
その間、焔と紫月は頭目・羅辰の反応がどんなものだったかということに加えて、今後の段取りについて詳しく話し合うこととなった。むろん遼二も一緒である。
「紫月――すまなかったな。世話になった」
焔に続いて遼二からも紫月に礼の言葉が告げられる。とかく遼二にとっては頭目と紫月との間でどんな話向きとなったのかが気に掛かるところでもあったのだ。
滅多に人前に顔を見せないという羅辰のことだ。冰を引き渡すに当たって何か厳しい条件や嫌味のひとつも言われたのではないかと心配なのだ。だが、紫月は問題ないと言って明るく笑った。
「大丈夫だって! 遊郭街のことは遊郭街の者同士ってさ。何も心配ねえから。それよりも――思っていた通り、頭目も今回のことについてはさすがに軽く受け止めてはいねえようだ。当然のこと、追って謝罪金を含めた詫びが必要だってことは分かってるようだった」
計画通り今後改めて詫びという形で来訪したいと言う紫月に、
「ここまでスムーズに事が運べたのは紫月、お前さんのお陰だ。心から感謝する!」
焔は改めて丁寧に礼を述べた。
「いや、そいつを言うなら皇帝様が身を挺して覚悟を決めてくれたお陰だ。俺の方こそあの子だけでも救い出してやれたことに感謝してるさ」
そう言って笑ったが、とはいえ、遼二にとってはこの紫月の明るさが妙に気に掛かってならなかった。
先日、彼はあの遊郭街に売られてくる若者たちのことを憂いていた。そしてあの街に生きる誰もが誇りを持って生きられる質の高い花街に変えていければとも言っていた。つまり、彼自身あの遊郭街の現状に心から満足してはいないと受け取れるのだ。
もしかしたら顔には出さないだけで辛いこともあるのではないか――。
頭目である羅辰に逆らえない自分が情けないとも言っていた。
そんな彼に万が一にも何かしらの火の粉が降り掛かるようなことがあれば、自分が盾になって彼を守ってやりたい――遼二はそんなふうに思うのだった。
「兄さん! 如何でございましたか。お頭目は何と?」
「おう、菫か。お陰で何とか頭目を説得できた」
「左様でございましたか……。お疲れ様でございました」
「あの人の気が変わらねえ内に早速事を運ばにゃならねえ。すぐに冰君を連れて来てくれ」
「かしこまりました」
紫月はその日の内に冰を連れて皇帝・周焔の邸へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
九龍城砦内、周焔邸――。
「紫月! 上手くやってくれたか!」
紫月の隣に冰の姿を目にした焔は、事が上手く運んだことを悟ったのだろう。逸ったようにして自ら玄関先まで出迎えにやって来た。
「皇帝様、お陰様でこっちは何とか怪しまれずに頭目を納得させることができた。この通り冰君はお返しするぜ」
「ああ、ご苦労だった。本当によくやってくれた!」
感謝するぞと言って手を取った焔に、紫月は恐縮ですと深々頭を下げた。
「皇帝様、紫月兄様、本当にありがとうございます!」
冰もまた、涙ながらに頭を下げては皆に心からの礼を述べる。
「ボウズ、黄の爺さんが待ってる。まずは顔を見せてやれ」
焔に言われて冰は黄老人の待つ邸のリビングへ案内され、ひと月ぶりの再会を果たしたのだった。
その間、焔と紫月は頭目・羅辰の反応がどんなものだったかということに加えて、今後の段取りについて詳しく話し合うこととなった。むろん遼二も一緒である。
「紫月――すまなかったな。世話になった」
焔に続いて遼二からも紫月に礼の言葉が告げられる。とかく遼二にとっては頭目と紫月との間でどんな話向きとなったのかが気に掛かるところでもあったのだ。
滅多に人前に顔を見せないという羅辰のことだ。冰を引き渡すに当たって何か厳しい条件や嫌味のひとつも言われたのではないかと心配なのだ。だが、紫月は問題ないと言って明るく笑った。
「大丈夫だって! 遊郭街のことは遊郭街の者同士ってさ。何も心配ねえから。それよりも――思っていた通り、頭目も今回のことについてはさすがに軽く受け止めてはいねえようだ。当然のこと、追って謝罪金を含めた詫びが必要だってことは分かってるようだった」
計画通り今後改めて詫びという形で来訪したいと言う紫月に、
「ここまでスムーズに事が運べたのは紫月、お前さんのお陰だ。心から感謝する!」
焔は改めて丁寧に礼を述べた。
「いや、そいつを言うなら皇帝様が身を挺して覚悟を決めてくれたお陰だ。俺の方こそあの子だけでも救い出してやれたことに感謝してるさ」
そう言って笑ったが、とはいえ、遼二にとってはこの紫月の明るさが妙に気に掛かってならなかった。
先日、彼はあの遊郭街に売られてくる若者たちのことを憂いていた。そしてあの街に生きる誰もが誇りを持って生きられる質の高い花街に変えていければとも言っていた。つまり、彼自身あの遊郭街の現状に心から満足してはいないと受け取れるのだ。
もしかしたら顔には出さないだけで辛いこともあるのではないか――。
頭目である羅辰に逆らえない自分が情けないとも言っていた。
そんな彼に万が一にも何かしらの火の粉が降り掛かるようなことがあれば、自分が盾になって彼を守ってやりたい――遼二はそんなふうに思うのだった。
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