【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

ただいま

137話 おかえり

あの日、キスをされた日からアズと目を合わせられない
エリー達も何かあったのかと心配しているけど、教えられるはずもない
あんな乱暴なキスは今までされた事なかった
触れるだけとか舌を絡めたりとかはあったけど、あんな一方的で深いのは初めてだった
……キスだけだったのに、犯されてるみたいな感覚
なんでアズはあんなことを……？


“さ～？なんでだろーねぇ？”


…………！？

「グド！？」


突然聞こえた聞き馴染みのある声
いつの間にすぐそこに小さな姿のグドがフヨフヨと浮いていた
……って、よりによってこんなタイミングで心読んだの！？

“再会したらなーんか悩んでるっぽいから、とりあえず読んでみた！”
「とりあえずで読まないで！」
“えっへへ、でもなんか面白いことになってるみたいだね？”

面白いこと？
面白いことなんて何もないよ
僕は色々と悩んでばっかなのに

“悩んでる、ね……。そうだ！一個試してみない？”
「試すって何を？」
“ディープキスをアズにされるのと俺にされるの、どう違うか試してみよっか”

……どう言うこと？
違い？試す？何のために？
なんて考えても分からないまま、グドは人間サイズになって僕にキスをした

「ぇっ、ちょ…………！」

グドとこんなに深いキスをするのは初めてだ
とは言え特に不快感も嫌悪感も無い
何が目的か分からないけど一応グドの好きにさせた

「ふっ…、ん………」
「……なんか気付いた？」
「…？何が？」
「こりゃ重症だな」

グドの目的が見えてこない
なんとなく、僕の記憶を元にグドが再現したような気はする
でもだからと言って何かあるわけでは……

あ、違う
何も無いのが違うんだ
ん？自分で考えておいてよく分からない…
でも、確かにグドはアズと同じことをしていた
なのに僕には何も起きない
それが違う
僕はアズにキスされた時、頭が真っ白になったり体が反応を見せていたりと変化があった
『もっと』って、なっていた

「お、やっと少しは気付けたか？」
「グド相手だとまぁ好きにさせれば良いかってなったけど、アズ相手だと僕自身もっと欲しくなってた………なんで？」

僕はアズを求めてる？
何でアズを？
……僕にとってアズは、義弟だった専属魔法士で……？
それで、何？


そうか………今になってようやく気付いた

アズ様が僕を心配してくれて守ろうとしてくれる時、申し訳なさと同時に温かさを感じていた
側にいるとどこか嬉しくて、安心できるけど落ち着かなくて
たった1人でシソーラスまで僕を探しに来た時も、本当は嬉しかった

全部、僕の心の裏側にずっと隠れてた
アズの行動に喜んで良いものだと思っていなかったから
でも嬉しかった事は変わらない事実


いつからかは分からない
でも、そっか……
僕は…アズを好きになっちゃったんだ

あーあ……どうしよう
僕はこの気持ちを隠しながらアズと過ごさないといけないんだ
だったら、気付きたくなかったな