【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

輝石玲

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転生した意味

69話 泡沫の意識

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「それじゃあ始めるよ」

グドが呟いた
両手をしっかりと繋いで、瞳を閉じて額を合わせた
周りの水の気配が強くなる
状況が気になり目を開けてみると、周囲では水が逆上していた
凪いでいた水面は波に覆われ、細い水の柱が立っている
時間が経つにつれて柱は大きく多くなっていた
そしてそれらは僕とグドを包む

「落ち着いて、少しの間水の中に入るよ」

条件反射で目を閉じて息を止めた
グドはそれをクスッと笑って、僕にキスをした
それと同時に全身が水の中に入る
口の中から強い魔力が少しずつ流れ込む感覚
例え少量でも、あまりの強さに押しつぶされそうだ
段々と意識が薄れていく
手に力が入らない
なんとかグドが支えてくれたけど、僕の意識は簡単に消えた




ーーーーー

“来たか、人の子らよ”

目が眩むほど眩しい、天も地も無い空間
目の前に唯一あるのは現実離れした大きさの大樹
銀の幹と枝、そして青々とした葉
その根本には、床に着くほど長い銀髪と異様なまでに大きな緑の光る瞳の美しく恐ろしい誰かがいた
人にしか見えないけど、本能が『あれは人では無い』と判断する

“そなたらの望みを、我は知る。そして我はそれを叶え得る”

僕たちの望み…
そんなもの、キリがない程に沢山ある
それでも僕たちの最大の願いは同じ

“我に代わり、我の手の者として、役割を果たすのであれば、それを叶えよう”

なら…答えはたった一つだけ

“無論、役目を果たすその時まで、誓いを破らぬよう呪いを掛ける”

それでも構わない
僕たち2人が、孤独にならないようにそばにいれるのなら

人を殺すことだって厭わない



不思議だ
これは夢だとわかってるのに、この後が分かる気がする
でも、夢は目覚めと共に忘れるもの……
覚えないと行けない気がするけど、思い出さないと…………


ーーーーー




目が覚めると僕はベッドの上だった
どれくらい眠っていたんだろう……

「丸一日くらいだよ。回復は成功したけど眠っちゃうし、水の処理が間に合わなくて溺れちゃうしで少しぐだったけど…ま、完全復活おめでとう!」
「そ、そか。ありがと……」

きゅるるる………

………
……………

タイミングの悪い腹の虫
確かに丸一日眠ってたら普通はお腹減るよね
グドは目の前で腹を抱えて笑っている

「ははは…はぁ……なんか軽いもの持ってくるよ。食事が終わったら神殿の庭園にでも行こう!」
「そっか、もう外に出れるんだ」
「あぁ!でも神殿の敷地内までだからな。表向きは死んでるんだから」

グドは急いで厨房に向かった
僕はベッドから降りて、御神木の方へ歩いた
目に優しい光を放つ、少し背の低い樹木
美しいのに落ち着かないこれはなんだろう

…ふと、考えついた
なんでただの人間だった僕が神子になったんだろうか
その答えを知ってる筈なのに思い出せない
それでも、きっといつか分かるよね?
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