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第三章
【小休憩SS】王弟殿下の華麗なる1日…みたいな?話(前編)
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「作戦決行時間は、ひとごーまるまる。レナート・ディノルフィーノ、必ず生きて戻れ!!」
「イエス、マム」
「互いの検討を祈る!!」
ピンク頭のメイドと、異世界軍人の祖父を持つ少年は、ガーフィールド公爵邸の別館で敬礼をする。
「「「みゃー、みゃー」」」
そんな彼らの足元では、二人の作戦の成功を祈るかのように、数十匹の子猫達が鳴き声をあげた。もしくはおやつの催促か。
「ねぇねぇアリアリ、この子達におやつあげていい?」
「朝からおやつは駄目よ、ノル」
なんて会話をする少女と少年の存在は、今はまだ邸の主人には知られていなかった。
***
王弟、ガーフィールド公爵の1日は、とても忙しい。
どこぞの転生者のように本来やるべき仕事を放り出して、日がな一日、雄ッパイのついた細マッチョなオネェとお茶をしばいたり、顔くらいしか取り柄のない婚約者と「きゃっきゃ」「うふふ」と追いかけっこをするような暇はないのである。
「何だこれは」
王宮の執務室で書類のチェックをしていた王弟殿下は、不機嫌に書類を叩いた。
「何かおかしな事でも?」
秘書官のフェデルタが席から立ち上がり、王弟殿下の手元にある書類を覗き込む。
今王弟殿下の元にあるのは、数々の王宮内の部署で精査され、最後の確認として印を押すだけになっている筈の書類だ。
「城下の猫のノミダニ駆除計画書……?? このちまちました丸っこい字、書いたのはドールですね」
書類には、城下にて保存食を食い荒らし、疫病を媒介するネズミを駆除する猫達に、ノミやダニが大量発生している事案が記されていた。
ノミやダニのせいで民は安心して猫をもふれず、日々の癒しと活力の供給を絶たれてしまっている。これは民にとっては死活問題であり、早期の対策が必要である……という事らしい。
つまるところこの書類は、王都に住む猫達のノミダニ駆除と忌避のための、国家対策計画書だ。
「棄却」
短い言葉と共に、王弟殿下の手元の書類はポイっとゴミ箱に投げ入れられてしまった。本来なら棄却された書類は差し戻されるが、それすらされなかったのである。
「ガッデム!!」
執務室の中をこっそり覗いていたアリシティアは小さく舌打ちした。
アリシティアが6時間かけて書き上げ、王弟殿下が承認印を押すだけの書類の束に紛れこませた渾身の計画書は、ものの30秒でゴミ箱行きとなってしまった。
だが、こんな事は日常茶飯事なので、気にしてはいられない。彼女達の本当の作戦はここから始まるのである。
「いっぱぁい、にはぁい、さんばぁい…」
壁掛け時計の短針が3の数字の横に来る頃。古典怪談の皿を数える幽霊のように、怪しげに数を数えるピンク頭のメイドが一人。
メイドは執務室の隣の小部屋で、湯気のたつコーヒーの中に、さらりさらりと白い粉を落としていた。
9杯まで白い粉を入れたコーヒーを、スプーンでくるくるかき混ぜた時。執務室に繋がる扉が開いた。
「あら?アリシティア様。もしかして閣下のお茶の用意をして下さっていたのですか?」
話しながら近づいて来たのは、ソニア・ベルラルディーニだ。芸術の神の愛し子と呼ばれる彼女は、王国中の誰もが知る芸術家であり、王弟殿下の最愛だ。つまるところ、ソニアは最強の対王弟兵器なのである。そんな彼女が今日この時間、執務室にいる事を、アリシティアは把握済みだった。
「ええ、とても希少なコーヒー豆を手に入れたので、持ってきました。これを王弟殿下にお出しいただけますか?」
メイド姿のアリシティアは、コーヒーカップと砂糖菓子の乗った皿をワゴンに置き、ニタリと悪女らしく笑う。
「それで、このコーヒーには何が入ってるんですか?」
アリシティアの悪巧みは、あっさりと見破られてしまった。まあ、言動も表情も、全てが怪しいのだから仕方ない。
だが、たとえソニアに見破られようが、なんの問題もない。なぜなら、ソニアはアリシティアが王弟殿下にどんないたずらをしかけても、黙ってみているだけで、何もしないのだ。
見かけはほんわか癒し系なソニアは、意外にも、余計な事どころか、大切な事も殆ど話さない、サバサバ女なのである。
「ただのお砂糖です。脳の疲れには甘いものが一番ですから、ほんの少し多めのお砂糖を入れておきました」
「そうですか。わかりました」
「よろしくお願いします」
アリシティアがわらうと、ソニアもいつもと同じほんわかした笑顔を残し、執務室へと戻っていった。
ソニアが出ていった扉の影から、アリシティアは執務室の中を覗き込む。時間は15時。王弟殿下の午後のティータイムである。
「どうなった?」
ふいにアリシティアの後ろから、少年の囁くような声が問いかけてきた。なんの気配もなく、アリシティアの後ろに現れたディノルフィーノが、アリシティアの後ろから執務室を覗き込む。
「今からよ、見てて」
アリシティアは突然現れたディノルフィーノに驚く事もなく、不敵な笑みを浮かべてみせた。
前回、王弟殿下のコーヒーに下剤を入れた時には即座にばれてしまい、酷い目にあった。だが、今回の計画は完璧である。
なぜならアリシティアは何一つ悪い事などしていないからだ。珍しいコーヒー豆を使ったというのも、3時のコーヒーに砂糖を入れると脳に良いというのも本当の事。
9杯の砂糖は、ブラックコーヒーをこよなく愛する王弟殿下への、アリシティアからのちょっとした心遣いだ。血糖値?この異世界でそんなものは知った事ではない。
それにだ、王弟殿下にコーヒーを出すのはソニアだ。最愛のソニアに3時のコーヒーを運んで貰えたのだから、王弟殿下もきっとうれしいだろう。そのコーヒーがどんなに甘くてどろどろしていたとしてもだ。ソニアが運んできた以上、彼女を愛する王弟殿下は、コーヒーを飲み干す以外の選択肢は無いのである。
「よっしゃ!!」
「イェス!!!」
扉の影で腕をあげ喜びのポーズをとるアリシティアとディノルフィーノの視線の先では、コーヒーを飲んだ王弟殿下が「ぐっ!!」とうめき、口を手で覆っていた。
だが、彼はすぐに取り繕うように小さな咳をし、澄ました顔で、二口目のコーヒーを口に運ぶ。
そんな王弟殿下の頬がピクピクと揺れるのを見て、二人は必死に笑い声を抑えながらも腹を抱えた。
実に地味な嫌がらせである。だが、効果は抜群だった。
「第一次エル作戦成功。これよりNNN作戦に移行する」
「イェス、マム」
アリシティアとディノルフィーノが扉の奥から姿を消した時。王弟殿下の鋭い視線が、二人の隠れていた扉へと向けられていた。
……つづいたりする。
「イエス、マム」
「互いの検討を祈る!!」
ピンク頭のメイドと、異世界軍人の祖父を持つ少年は、ガーフィールド公爵邸の別館で敬礼をする。
「「「みゃー、みゃー」」」
そんな彼らの足元では、二人の作戦の成功を祈るかのように、数十匹の子猫達が鳴き声をあげた。もしくはおやつの催促か。
「ねぇねぇアリアリ、この子達におやつあげていい?」
「朝からおやつは駄目よ、ノル」
なんて会話をする少女と少年の存在は、今はまだ邸の主人には知られていなかった。
***
王弟、ガーフィールド公爵の1日は、とても忙しい。
どこぞの転生者のように本来やるべき仕事を放り出して、日がな一日、雄ッパイのついた細マッチョなオネェとお茶をしばいたり、顔くらいしか取り柄のない婚約者と「きゃっきゃ」「うふふ」と追いかけっこをするような暇はないのである。
「何だこれは」
王宮の執務室で書類のチェックをしていた王弟殿下は、不機嫌に書類を叩いた。
「何かおかしな事でも?」
秘書官のフェデルタが席から立ち上がり、王弟殿下の手元にある書類を覗き込む。
今王弟殿下の元にあるのは、数々の王宮内の部署で精査され、最後の確認として印を押すだけになっている筈の書類だ。
「城下の猫のノミダニ駆除計画書……?? このちまちました丸っこい字、書いたのはドールですね」
書類には、城下にて保存食を食い荒らし、疫病を媒介するネズミを駆除する猫達に、ノミやダニが大量発生している事案が記されていた。
ノミやダニのせいで民は安心して猫をもふれず、日々の癒しと活力の供給を絶たれてしまっている。これは民にとっては死活問題であり、早期の対策が必要である……という事らしい。
つまるところこの書類は、王都に住む猫達のノミダニ駆除と忌避のための、国家対策計画書だ。
「棄却」
短い言葉と共に、王弟殿下の手元の書類はポイっとゴミ箱に投げ入れられてしまった。本来なら棄却された書類は差し戻されるが、それすらされなかったのである。
「ガッデム!!」
執務室の中をこっそり覗いていたアリシティアは小さく舌打ちした。
アリシティアが6時間かけて書き上げ、王弟殿下が承認印を押すだけの書類の束に紛れこませた渾身の計画書は、ものの30秒でゴミ箱行きとなってしまった。
だが、こんな事は日常茶飯事なので、気にしてはいられない。彼女達の本当の作戦はここから始まるのである。
「いっぱぁい、にはぁい、さんばぁい…」
壁掛け時計の短針が3の数字の横に来る頃。古典怪談の皿を数える幽霊のように、怪しげに数を数えるピンク頭のメイドが一人。
メイドは執務室の隣の小部屋で、湯気のたつコーヒーの中に、さらりさらりと白い粉を落としていた。
9杯まで白い粉を入れたコーヒーを、スプーンでくるくるかき混ぜた時。執務室に繋がる扉が開いた。
「あら?アリシティア様。もしかして閣下のお茶の用意をして下さっていたのですか?」
話しながら近づいて来たのは、ソニア・ベルラルディーニだ。芸術の神の愛し子と呼ばれる彼女は、王国中の誰もが知る芸術家であり、王弟殿下の最愛だ。つまるところ、ソニアは最強の対王弟兵器なのである。そんな彼女が今日この時間、執務室にいる事を、アリシティアは把握済みだった。
「ええ、とても希少なコーヒー豆を手に入れたので、持ってきました。これを王弟殿下にお出しいただけますか?」
メイド姿のアリシティアは、コーヒーカップと砂糖菓子の乗った皿をワゴンに置き、ニタリと悪女らしく笑う。
「それで、このコーヒーには何が入ってるんですか?」
アリシティアの悪巧みは、あっさりと見破られてしまった。まあ、言動も表情も、全てが怪しいのだから仕方ない。
だが、たとえソニアに見破られようが、なんの問題もない。なぜなら、ソニアはアリシティアが王弟殿下にどんないたずらをしかけても、黙ってみているだけで、何もしないのだ。
見かけはほんわか癒し系なソニアは、意外にも、余計な事どころか、大切な事も殆ど話さない、サバサバ女なのである。
「ただのお砂糖です。脳の疲れには甘いものが一番ですから、ほんの少し多めのお砂糖を入れておきました」
「そうですか。わかりました」
「よろしくお願いします」
アリシティアがわらうと、ソニアもいつもと同じほんわかした笑顔を残し、執務室へと戻っていった。
ソニアが出ていった扉の影から、アリシティアは執務室の中を覗き込む。時間は15時。王弟殿下の午後のティータイムである。
「どうなった?」
ふいにアリシティアの後ろから、少年の囁くような声が問いかけてきた。なんの気配もなく、アリシティアの後ろに現れたディノルフィーノが、アリシティアの後ろから執務室を覗き込む。
「今からよ、見てて」
アリシティアは突然現れたディノルフィーノに驚く事もなく、不敵な笑みを浮かべてみせた。
前回、王弟殿下のコーヒーに下剤を入れた時には即座にばれてしまい、酷い目にあった。だが、今回の計画は完璧である。
なぜならアリシティアは何一つ悪い事などしていないからだ。珍しいコーヒー豆を使ったというのも、3時のコーヒーに砂糖を入れると脳に良いというのも本当の事。
9杯の砂糖は、ブラックコーヒーをこよなく愛する王弟殿下への、アリシティアからのちょっとした心遣いだ。血糖値?この異世界でそんなものは知った事ではない。
それにだ、王弟殿下にコーヒーを出すのはソニアだ。最愛のソニアに3時のコーヒーを運んで貰えたのだから、王弟殿下もきっとうれしいだろう。そのコーヒーがどんなに甘くてどろどろしていたとしてもだ。ソニアが運んできた以上、彼女を愛する王弟殿下は、コーヒーを飲み干す以外の選択肢は無いのである。
「よっしゃ!!」
「イェス!!!」
扉の影で腕をあげ喜びのポーズをとるアリシティアとディノルフィーノの視線の先では、コーヒーを飲んだ王弟殿下が「ぐっ!!」とうめき、口を手で覆っていた。
だが、彼はすぐに取り繕うように小さな咳をし、澄ました顔で、二口目のコーヒーを口に運ぶ。
そんな王弟殿下の頬がピクピクと揺れるのを見て、二人は必死に笑い声を抑えながらも腹を抱えた。
実に地味な嫌がらせである。だが、効果は抜群だった。
「第一次エル作戦成功。これよりNNN作戦に移行する」
「イェス、マム」
アリシティアとディノルフィーノが扉の奥から姿を消した時。王弟殿下の鋭い視線が、二人の隠れていた扉へと向けられていた。
……つづいたりする。
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