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第二章
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しおりを挟む「夜会では何人かと踊りましたが、その中にはとても強い香水の香りがする方がいらしたので、どなたかの香りが移ったのかもしれませんね」
なんとなく遠い目をしながらも、アリシティアは適当な嘘をつく。
前世のように嘘をつけば閻魔様に舌を抜かれるというのなら、アリシティアは千枚舌があっても足りないだろう。
「踊っただけで?」
「ええ。侯爵閣下も経験がおありなのでは?」
香水をつけすぎている人は、男性より女性が圧倒的に多い。ルイスからの返事がないのを良いことに、さらに適当な嘘をつく。
「あなたからも時々お姫様の香水の移り香がすることがありますから」
アリシティアの言葉に、ルイスは完全に押し黙った。後ろめたいふれあいがあったのか、それとも踊っただけで香りが本当に移っていた事があったのか。
ルイスのその反応に、アリシティアは自分で言っておきながら、心臓がつきんと痛むのを感じた。
アリシティアはエヴァンジェリンの香水の香りなど本当は覚えていない。けれど、知らないままでいいと思った。
もしも、本当にルイスからエヴァンジェリンの香水の香りがしたら、地の底まで落ち込む自信があった。
「それでも……」
「それでも?」
ルイスの言葉をアリシティアは繰り返した。
「一緒にシャワーは浴びるから」
──────いや、なんでそうなるのよ?!
アリシティアが心の中で突っ込んだとき、馬車が止まりしばらくして、扉が開いた。
ルイスが先に降りて手を差し出して来たので、アリシティアは手のひらを重ねて、馬車から降りようとする。
だが、開けた視界の中に見覚えのある館が見えた瞬間、アリシティアは体を反転させ降りかけていた馬車の中に戻ろうとした。
そんなアリシティアの腕をルイスが掴む。
「ねぇ、どこに行くつもり?」
何やらつい一時間ほど前も、同じやり取りをした記憶がアリシティアにはあったが、その時とは立ち位置が真逆だった。
さすがに腕を掴んで引っ張り降ろされるような事はなかったが、代わりに太ももに両手を回される。そのまま拘束されるように抱き上げられ、勝手に馬車から降ろされてしまった。
「やだ!! 待って。何で勝手な事するの?! 私は家に帰りたいの!!」
アリシティアの目前には、荘厳なゴシック建築の館が暗闇の中浮かび上がっていた。そこはルイスがガーフィールド公爵から引き継いだ、忘却の館と呼ばれる娼館だった。アリシティアにとっては、ろくな事がない場所でもある。
そんなアリシティアを抱き上げたまま、ルイスは御者に礼を告げて、さっさと館に向かって歩き出した。
どうやら二人の間では、予め話がついていたようだった。
「やだ!!私はおうちに帰りたいの!! 離してエル」
アリシティアはルイスに荷物のように運ばれながら、去っていく馬車に向かって叫んだ。
「待ってよ!!置いて行かないでよ、ロメオーーー!!」
「僕の腕の中で他の男の名前を呼ぶなんて、いい度胸だよねぇ」
「馬鹿じゃないの?!」
取り繕う事も忘れたアリシティアは、思いのままの言葉を口にした後、とりあえずルイスの説得を試みようと色々と言ってみたが、全てが無駄な努力となった。
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